シルフ①
寒い季節が終わりを迎えました。
暖かい季節が到来します。
まだ少し朝と晩は冷えるのですが、お昼にもなれば薄着で過ごせますね。
昨夜はお布団を被れば少し暑く、ベッドの外に追いやれば寒く、なかなか難しい夜でした。
この季節になると、可愛らしい花があちこちに咲き始めます。
風が吹きます。
湖から流れくる湿気の混じるそれは柔らかく頬をくすぐります。
なんとなく、顔を指で掻いてしまいます。
少し、鼻もむずつく気がします。
それでもこの暖かなお昼は、絶好の視察日和と言って過言ではないでしょう。
こういう日は部屋にこもっていてはダメなのだと、むかし本で読んだ気がします。
そんなことを思い出したものですから、わたしはこうして湖畔にきてシートを敷き、卵とキャベツのサンドイッチを食べているのです。
ええ、食べざるを得ないのです。
どんな本だったかなんて、聞くのは野暮ってものですからね?
小さな花が色づいて、遠くの木も薄桃色に染まっています。
いえ、嘘をつきました。
まだまだ茶色いです。
心地良い空の下ですからね、何でも美しく感じていたくなるというものです。
けれど、もう十日ほどもすれば突然鮮やかな桃色に染まるでしょう。
咲いて、散って、その移り変わりですらわたしたちを楽しませてくれる花の木です。
感動的です。
そういう季節ですから、この湖畔には何人もの見物客が訪れていました。
イーゼルを立てて絵を描いていたり、シートも敷かずにただ寝ていたり、湖に平らな石を投げて跳ねさせて遊んでいたり。
わたしは、うっかり水の精霊さんの怒りを買って引きずり込まれないことを願うばかりですよ。
シャキッ
わたしの卵サンドが軽快な音をたててお腹を満たしてくれます。
口の中いっぱいに新鮮な素材が香ります。
ああ、この時間が長く続けばいいのに。
時間の経つことのなんと残酷なことか、とか考えながら味わっています。
わたし、いまとても幸せです。
「あー!いいな、おいしそうなの食べてる」
こちらに投げかけられた少年の言葉にドキッとしました。
「あー!ほんとだ!いいな、いいな」
今度は少女の声です。
『いいな、いいな』
そして歌い出しました。
この二人組、兄と妹でしょうか。
そう思うも束の間、後ろにもう一人の女の子がいることに気づきました。
「そのキャベツおいしそうね、お姉さん」
こちらは少し低血圧な女の子といいましょうか。
知らない人の
わたしのサンドイッチは決して譲れません。
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