閑話 - 彼女のお喋りな時間

 あれから彼女ピクシーとの再会は叶っていません。

 あの日出会った賑やかな彼女の、報告書を書くわたしに向けられた取り留めのない話を、覚えているうちに書き残そうと思い立ちました。


 しっかり掃除をした仕事机に向かい、わたしは秘密の日記に、彼女の無邪気な時間を書き連ねます。

 あれから掃除はしているんですよ、わたし。



 あなたってば、本当、よくほこりの中で暮らせるわよね!私は嫌だわ、からだに付くとかゆくなるのだもの。どうして大丈夫でいられるのかしら?まあ、埃まみれのベッドで眠れるのだから、あなたには大丈夫なのかしら。でもやっぱり、私は嫌だわ。私が嫌なのだもの、あなたに私が嫌なものを、できることならくっつけて欲しくはないわ。


 そういえばこのまえも、少し離れたところの畑仕事をしているヒトに近づいてみたら、やっばり埃っぽかったわ。もしかしてヒトってほこりが好きなのかしら。そのヒトも作った野菜を誰かに褒められたとかで『ホコラシイわ』なんて口にしていてね、ホコリがそんなに大事なことなのかしらね?


 山と反対にいけば川や湖もあるのだから、普段から自分の身のまわりをキレイにすればいいのだわ。川に住む精霊も、湖に住む精霊も、あのこたちはみんなキレイ!ときどき強い雨が降ってしまったときは泥の色が混ざってしまうのは残念だけれど、またすぐ自分の色を取り戻すのよね。不思議だわ。


 ねえ、聞いてる?

 ペンでつつくのやめてよ!

 ええ、ええ、あなたは仕事をしているのよね。そんなことは見ればわかるわ。でもせっかく私が話してるのだもの。聞いてくれないのは寂しいわ。

 ……えっ?

 ええ、ええ、そうまで話を聞きたいのなら続けようかしら!ふふふっ。


 川や湖のあのこたち、とてもキレイなのだけど怒らせると本当に怖いのよ!ヒトがゴミを投げ捨てたときなんて、水の中に引きずり込んでしまうの。私もヒトを困らせるのは好きだわ、けれどそんな怖いことはしないわよ。だって、戻ってこなかったら大変だもの!私、頑張ってほしいのだもの、怪我をさせてしまったら頑張れないじゃない?私、それは悲しいわ。


 私の友達ね、ええ、もちろんピクシーよ。そんな恐ろしい精霊を初めて見たって、その時は、それはもう驚いて泣いていたの。悲しいわ、て泣いていたの。その子も結構エグいことしてきたのよ、私から見て。怪我をさせないギリギリを楽しむような子だったもの。ふふふ、でもすごかったわ。怪我をさせたことは一度もなかったのだから。


 そういえば、いつだったか、そんなギリギリな悪戯をしていた相手の羊飼いのヒトと楽しそうに話しているその子を見たわ。本当に嬉しそうにしていて、よく覚えているの!ああ、私もあんな時間が過ごせるのかしら、なんて思いを巡らせていたもの。ええ、ええ、憧れたわ。けれど、あの子は今どこにいるのかしら。他に好きなヒトを見つけたのかしら。あれ以来見かけないのよね。


 ——……


 ——……


 ——……


 え、お仕事終わったの?随分と順調に進んだのね、やったじゃない!あはは、なんでかしら、私もとっても嬉しいわ!


 あ……ふああ。私、なんだか眠たいわ。



 ——ここでお終いです。

 彼女がそのまますぐ寝た後、すぐにわたしも急な眠気に襲われてしまって、一緒に寝てしまったのですよね。

 起きたらもう、彼女はどこかに行ってしまった後みたいで。


 お話の内容を忘れてしまった部分も多いです。

 でも、彼女の話を思い出すうちにまた楽しくなってしまいました。


 それもあって日記には少しばかりの脚色もついてしまっていますが、まあ、それくらいはいいですよね。

 それくらい素敵な時間だったのですから。


(閑話 - 彼女のお喋りな時間 完)

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