ピクシー⑤(完)

 それから後のことですが、意外なことに、楽しい時間を過ごすことができました。


 彼女はとてもお喋りなピクシーでして、報告書の続きを書くわたしに色んなことを話してくれました。

 埃まみれのベッドのこと、集落のヒトのこと、近くの精霊さんのこと、ほかのピクシーのこと、美味しい野菜のこと、気持ちの悪い虫のこと、色々です。

 わたしのベッド、そんなに埃まみれではないと思うのですけど。


 取り留めなく、とても楽しそうに喋り続ける彼女と、いくつもの相槌を打ち続けるわたし。

 ときどき「ねえ、聞いてる?」などと報告書を書くわたしの視線を遮ってきたりなどして。

 あなたは仕事してほしいのではなかったのですか?とは思いながら、まるで無邪気な彼女に、口もとは緩んでしまいました。


「ちゃんと聞いてますよ、でも報告書を書かなきゃいけないんですよ、わたし」


 手元を遮る彼女を、ペンのお尻でつついてやる。

「やめてよ」と彼女が離れる。


「そんなことは見ればわかるわ。でもせっかく私が話してるのだもの。聞いてくれないのは寂しいわ」


 ムスッする彼女のなんとまあ、わがままで自由なコですこと。


「ですから、ちゃんと聞いていますから。楽しい楽しいお話を続けてくださいな」


 その言葉を聞いて、彼女は途端に表情を明るく変え、


「まあ、まあ、そうまで聞きたいのなら続けようかしら」


 るんるんくるりとまわり、揚々とまた話し始めるのでした。

 わたし、好きです、彼女のこと。


 彼女の純粋で明るい声色のなか、意外にも筆はよく進みました。

 気づけば報告書もおしまい。

 なんて楽しい時間だっただろう。


 報告書の完成と同じくらいでした。

「ふああ、私、なんだか眠いわ」と彼女はあくびをして横たわります。

 あれだけ絶えず話し続けていたら、そりゃあ疲れてしまいますよね。

 おやすみ、ピクシーさん。


 ふと、思いました。

 もしかして、わたしの仕事が終わるまでと頑張ってくれていたのではないでしょうか。たとえば退屈な報告書が楽しく順調に終わるようにと。

 さすがに考えすぎですかね。


 ふああ……眠たい。

 きっと彼女の眠気がうつってしまったに違いありません。単に仕事に集中をしていた反動かもしれませんが、それから夢に落ちるまでは、ほんの一瞬のことでした。




 ——ううん……?


 ゆっくりと目が覚める。

 いけない、また仕事机で寝てしまいました。

 頭の下に敷いていた腕が痺れています。

 外はとても暗く、今はいったい何時頃でしょうか。


 ——はっ、悪戯!

 慌てて髪に指を通します。


 ペン立てに入れたお気に入りのペンを見ます。

 身のまわりの確認をしますが、今度はなにもされていませんでした。

 彼女の姿もありません。呼んでみても反応はありません。


 ああ、いつもそばにいる訳ではないのですね。

 気まぐれで自由奔放なコでしたもんね。

 途端に少し、寂しくなりました。


 また今度、わたしがダメな日に遊んでくださいね。


(ピクシー 完)

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