第28話

「おいおい、待って待って待って!!! マジやべぇってやべぇよやばくない?」

 もう少しで社会的に終わるという危機感の中、語彙力が消失する。



 まあ事態はそんな事を気にする段階にないのだから、仕方ない。



「くそっ、ま、窓から逃げて――――」

 そして、蜘蛛を逃した窓の方へと目を向ける。



 しかし、女子更衣室に設置された窓は出入りをできなくするためか、人間が通れるような大きさになかった。



 そして、ここ以外に逃げられる場所はない。



「お、終わった……俺は学園のゴミ糞陰キャに加えて社会のゴミという称号を得るのか……。麗佳、乃雪に伝えてくれ。お前の兄は作戦遂行中に華々しく散った、と。そして、愛してるとも」


「ちょッ!? 円城瓦君、まだ諦めないで!」


「あ、待って。追加で乃雪に一日三食きちんと食べて、睡眠時間は八時間きっちりと取って、風呂にも毎日入るよう伝えてくれ。あと、無闇やたらとSNSの有名人にクソリプ送るのやめろって言うのと、掲示板で『神』って糞コテでイキリ散らすの禁止にするのと、あと――――」


「乃雪ちゃんへの伝言が多すぎない!?」

 まああいつの今後を考えたら躾事項の百や二百じゃ足りないし……。恐ろしく手が掛かるなあいつ。そこらの猫とかの方がずっと躾けやすいだろ、どういうことだよ。



「そうじゃなくて! 早くここに隠れて!」

 麗佳はロッカーを開き、そこへ入るよう促した。



 縦長の形をしたロッカーは然程、頑張らなくとも一人ないし二人程度の人間ならば入れそうな造りになっていた。


 な、なるほど! 最早、牢屋で臭い飯を食いながら引きこもりであるが故に面会にも来る事ができないであろう乃雪の事を想うしかないのかと思っていたが……その手があったか!


「助かった! サンキュー、麗佳!」

 俺は麗佳の開けてくれたロッカーへと身体を滑り込ませる。



 そして、一人分のスペースを開けて待機。次に麗佳が飛び込んでくるスペースを作る――――


「じゃあ、閉めるわよ!」


「え」


 バタン、と。ロッカーの扉が閉じられ、周囲は暗闇に包まれる。


 ――――あれ? このパターンってラッブコメとかでよくある奴じゃなかったのか? 


 あの――――女の子と一緒にロッカーに隠れて、服越しにでこそあるものの肌と肌が密着。申し訳なく思うと同時に、女の子の柔らかさに心臓が高鳴るってあの!



さらには女の子も「ご、ごめんね。こんな事になって……」などと掠れるくらいの声で言ってきて、さらには隙間から覗き込んでいる光に照らされた女の子の顔は真っ赤に染まっているってあの!


なんだったら筋肉を意識しつつ「……○○君ってやっぱり男の子、なんだね」などと変に意識してしまうとかって展開になるってあの!


そういう王道ラブコメみてぇな展開になるんじゃねぇの!?


 そんな心からの訴えをできる限り押し留めながら、あくまでも常識人にしてジェントルマンな視点から抗議すると、


「え? 私は隠れる必要ないじゃない」


 ――――と。


 至極もっともな事を言われた。




「なんだお前常識人か?」


「えっと……常識人、と言うか普通に考えたら何で私が貴方といっしょにロッカーに入らないといけないのよ。馬鹿?」

 かなり蔑みの入り混じったド正論を返された。


 つうか俺の方が常識人の域を脱した異常者だった。


「それに私が一緒に入っちゃったら誰かがロッカー開けるかもしれないじゃないの。あくまで私が使ってますよって体を装わないと発見されちゃうじゃないの」


 なんだったらこちらの利に沿った言い分まで付け加えられた。


 一部の隙もない論述により俺は押し黙った。


 そして、冷静になりつつ、俺はロッカーを中を確認する。


 ロッカーはどうやら男子更衣室に置かれていたものと一緒であるらしかった。


 二段に分かれていて、一段目がカバンやら何やらを置けるような構造。


 二段目がハンガーパイプがついていて、縦に長い構造だった。当然俺はそこに隠れている。


 また、正面にちょっとした隙間が空いており、少しだけなら中から外が覗けた。




 ――――などと状況を確認している内、がちゃりと扉の開く事が聞こえ、複数人の女子が中へと入ってくるのが分かった。



 ワイワイキャッキャと姦しいその声は明らかにリア充のそれで、彼女らはお互いに喋りながらシャワーを浴びてきたかと思えば、しばらくして戻ってくる。

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