閑話+ぷちぷち小話 その1

「あ、えっ年上ですか!?」


「あ、えっそこまで驚く?」


 そういえば名前しか聞いていない、といまさらながらベンチに座ってあれこれと話をしていれば。

 なんとなく、なんとなくだが同い年だと思っていた知世はその事実にどうしたものかと口ごもった。


「な、名前はどうお呼びしたらいいですか…」


「なんかすごく他人行儀になっちゃった!?」


 元々、敬語だったけどそれ以上に距離をもたれた気がする。

 どこか遠くに視線をさ迷わせる相手に夏輝は笑いながら手を顔の前でヒラヒラとさせて言った。


「呼び方とか気にしないよ。友達は名字を呼び捨てにするし家族は名前の呼び捨てだし」


「呼び捨てはムリです」


 キッパリ。

 いままで呼び捨てにするひとがいなかったのに、いきなりそれはない。

 越えるハードルが高すぎる。

 かといって。


「先輩、という感じがしませんよね」


「先輩でもいいけどダメな感じだね」


 かなり失礼な物言いだが双方共、気にしていなかった。


「堺せんぱい?」


「うん」


「夏輝せんぱい…うーん」


「ダメ?」


「えーと、堺さん」


「なんか、よそよそしい」


「…夏輝くん」


「それでいいよ?」


 でも、年上をくん付けしてもいいのかな。

 もうこれはあだ名をつければいいのだろうか。


「あだ名…」


 そういえば、カナちゃんもどう呼んでもいいと言われたのでついたあだ名だった。

 連想ゲームの末にダメだしされた上についたもの。


「さかい、さか、さかなく…これはダメだ」


「うん、それはできれば別のにして!」


 脳裏にフグの帽子が浮かんだがそれは消去する。

 そうでないと甲高い声でナニカがこちらに走ってくる気がした。


「なつき、なつ、つき…えーとそれじゃ」



「でね、蝉くんって呼ぶことにしたんだけど」


「本名とかすりもしてないな!」


 火曜日、昼休み。

 昨日はじめて会ったカナちゃんの先輩に挨拶がわりか髪をもみくちゃにされたあと、食堂で最近あったことを小声でほんの少しだけ話した。

 サイトのことではなく、主にぷちぷちや夏輝のことである。


「蝉くんでいいって」


「前から思ってたけど、あんたのネーミングセンスは変」


 以前、知世から変なあだ名をつけられかけたカナちゃんはなによりもそこに反応した。


「えー? ミカンちゃん」


「やめて」


 即座に返された。

 一応、夏輝よりはわかりやすく本名からあだ名への変移をたどったはずなのに。


「どう呼んでもいいって言ったのに」


「予想外だった。真顔で言うからさらに反応に困る」


 それは置いといて、とカナちゃんは咳払いをするとあらためて知世に向き直った。


「近いうちに会わせて。その蝉とやらに」


「蝉くんと?」


 会わせてといっても。

 遠いからそう簡単には会えないと思うけど。

 いや、電車だから遠いのであって学校からならそこそこ近いのか。

 呼び出したら来てくれそうな気がする。フットワーク軽いから。


「会うだけはできるでしょ。あたしがあんたの家に遊びに行ったりとか」


「え、来てくれるの? カナちゃんが?」


「ダメなの?」


「ううん。わあ、うれしい。私、いままで友達を家に呼んだことなかったから」


 なんか切ないことを言われた。本人は気にもしていなかったが。


「わあ、えっとじゃあ叔父さんたちに頼んで家をイルミネーションで飾って角ごとに看板だして迷わないようにして歓迎す」


「やめて」


 即座に返された。


 さて、この約束が大変な事態を引き起こすことになるとは浮かれた知世も冷静なカナちゃんも知る由も無かったのである。

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