第23話 約束
偶然会ったシンに、昼食に、と
港町クナートの北区に位置するその食事処は“
扉の上には鋼製の細かな花の装飾が施された灯篭があるが、その内側は煤など無く綺麗なままだ。――恐らく、毎夜雇われた魔法使いが呪文で灯かりを
――つまり、どう考えても、メニューで銅貨を使うものはない。万が一あったとしても、飲み物か、酒の肴の小皿程度だろう。ソフィアが財布代わりでもあるベルトポーチを強く握り締めて青い顔で入店を拒否すると、シンはにっこりと微笑んで「僕がおごるよ」とさも当然の様に言い放った。その言葉を聞いてソフィアは目を吊り上げた。
「冗談じゃないわ!」
盛大に頬を膨らませて、頭2つ半ほど上にあるシンの顔を睨んだ。だが、勿論あまり――否、殆ど迫力は無く、どちらかというと上目遣いのその姿は可愛らしさを感じ、シンはつい頬を緩ませた。
「って、なに笑ってるのよ! あなたに出してもらうつもりなんかサラサラ無いわ。あたし、借りは作らない主義なの!」
「借りって……全然気にしなくて良いのに」
「しない方がどうかしてるわ。そもそも、あなた、会う人会う人にそんな事ばっかりしてたら、破産するわよ! 路頭に迷うわよ!」
「あはははは」
「笑い事じゃない!」
けらけらと腹を抱えて笑い始めたシンに思わず毒気を抜かれ、ソフィアは更にむくれ顔になる。
「何よ! 心配して言ってるのに! 大体、お金が多少あるからって、ほいほい使う物ではないわ。万が一って事だってあるんだから、きちんと大事にしなくちゃならないでしょ! っていうか、あなた大人でしょ? 確かいい年してたわよね?」
「んー、
珍しく、何やら少々不満げに彼は口を尖らせて反論した。その様子に、思わず呆れ顔になりつつソフィアは言葉を重ねた。
「それでも、歳月は重ねているわよね? なら、お金の大切さくらい、分かってるはずじゃない。大事なときにとっときなさいよ。あたしだって、多少自由になるお金くらいはあるの。ただ、あたしが言いたいのは、このお店はあたしにとっては分不相応って事よ」
「そんな事ないのに……」
「お金を持ってる人は行けば良いと思うけど、あたしは違うから。そしておごってもらうつもりもないから」
くるりと踵を返し、スタスタとシンを置き去りにする勢いで歩き出すと、慌てて追いかけてきた。
「もー……残念だけど、分かったよ。じゃあ、次の機会にしようっと」
「“次”って……次なんか無いわよ?」
「あるよ」
「無い」
「作るもん」
「……あなたねぇ」
歩を止めずジロッと見やると、満面の笑顔を返されてたじろぐ。何と返したら言いか分からず口ごもっていると、シンは笑顔のままいつの間にかソフィアの隣に並んで歩いていた。あ、と気付いて思わず俯く。それから、シンの隣に並ばないように、自然を装って徐々に歩調を緩めた。
だが、暢気そうな顔とは裏腹に、こういった事には何故か聡い彼はすぐに振り返ると、眉を
「僕と並んで歩くの、嫌?」
「嫌、って言うか……ええ、と」
「違うんだね? じゃあ気にしない!」
え、と顔を上げるのと、シンの手がソフィアの手を握るのはほぼ同時だった。顔は中性的な割りに、ごつごつと骨ばっている大きな手は、乾いているのに温かかった。触れられた瞬間、反射的に手を引こうとするが、ぐっと握りこまれる。
「手、冷えてる」
ポツリと言ったシンの声は、
* * * * * * * * * * * * * * *
結局、2人がやって来たのはいつもの
シンはランチセットを、ソフィアは野菜のスープを注文すると、しばらくしてテーブルに料理が供された。シンが食事の前に智慧神ティラーダへの祈りの言葉を口にする姿を見て、ああ、そういえば彼は神官だった、と思い出す。
(食事に対して智慧神にお祈り……何だか豊穣神の方が道理に合ってそうだけど、違うのね)
シンの祈りが終わるのを見守ってから、2人で食事を始める。シンの注文したランチセットはたった銅貨5枚で肉、サラダ、腸詰め2つ、パン2つ、スープがセットだ。肉とスープは日替わりで、本日は肉は鶏、スープは豆になる。量が多くリーズナブルという事もあって、昼時の
とはいえ、前述の通り量が多い。初めてランチセットを目にしたソフィアは、思わず「あたしの何日分の食事よ……」と呟いて目が点になってしまった。
だが、シンは祈りを終えると非常に美味しそうにパクパクと食べ始め、あっという間に平らげてしまった。――因みにソフィアのスープは5分の1も減っていない。
「あー美味しかった! やっぱりここの料理はどれも絶品だなぁ。――あ、ソフィアはゆっくり食べて大丈夫だからね」
「え……いや、あの……」
「ん?」
「食べ終わったなら、先に帰っても良いのよ?」
「えー、やだよ。ソフィアの用事に付き合うつもりだもの。――っと、店員さん、追加注文お願い。
呼ばれた店員が注文を伝えに厨房へ向かうと同時に、ソフィアは焦って小声でシンに囁いた。
「まだ食べるの?!」
「え、まだ全然余裕なんだけど」
「?!」
「そんな事より。この後、用事ってなに? 僕も何か手伝える事ある?」
クスクスと笑いながらシンは小首を傾げた。何となく気まずい気持ちになり、ソフィアは目を彷徨わせる。
「言いにくいこと?」
「ち、違うわ。……その……明日、から、仕事が始まる……から」
「仕事? もしかして、エルテナ神殿のお手伝いかな」
「ええ」
目を伏せて頷く。報酬が出たら、アトリやアレクに世話になったお礼をするつもりだった。――だが、一番世話になっているのは、他でも無い、目の前の彼だ。少し前、借りを作らない主義だと口にしたが、彼には山積みの借りがある。
スープを載せた匙を口に運ぶ手が止まる。その様子をじっと見詰めていたシンは、おもむろに口を開いた。
「何か悩み事?」
思い掛けない言葉に訝しげに顔を上げると、予想外に真摯な碧色の双眸があった。
「僕じゃ役に立てない?」
「ちょっ……そ、そういうんじゃない」
ソフィアが慌てて首をぶんぶんと横に振ると、弾みで彼女の銀糸の髪が揺れ、窓からの日の光を受けて淡い光を放った。店内のそこかしこからチラチラと不躾な視線を感じ、シンは苦笑いする。
「ごめんごめん、何だか真面目な顔をしてたから」
視線を遮る様に、頭を撫でようと手を伸ばす。その手に、ビクリと彼女の肩が小さく跳ね上がる。ほんの一瞬だけ浮かんだ怯えの色に、気付かないふりをしてシンはそのまま彼女の頭をぽんぽん、と撫でた。集まっていた視線が和らぐと同時に、どこかから悔しそうな小さな舌打ちが聞こえたかもしれないが、彼は特に気にせずに続けた。
「じゃあ、どうしたの?」
「どうってこと無いの。ただ……今、あたしツケが無いから。次の報酬が出たら、お世話になった人に何かお礼をしようと思って」
慎重に選ぶように、ぽつりぽつりと言葉をつむぐ。報酬が出たら自分の事ではなく他者への礼に充てるという事が、何とも彼女らしくてシンは相好を崩した。が、彼女の次の言葉で表情を凍りつかせた。
「アトリや、アレク、とか」
「……“アレク”?」
唐突に低い声でシンが聞き返した為、ソフィアは面食らいながらも頷いた。
「? え、ええ。
「基礎を……? いくつの人?」
「え? 年?? ……た、確か20才くらいだったかしら……」
「教えてって、どこで?」
「え……南の、森……だけど。な、なによ、」
「その人と2人で?」
「え……? 教わっている時はそうね。寝泊まりは、ベッドはあたしが借りてしまったから、」
「誰の?」
「え?」
「誰のベッド?」
「?? ア、アレク、の……だけ、ど……」
「…………」
押し黙ったシンから、不穏な気配を感じてソフィアは言葉の続きを飲み込んだ。俯いている為、彼の表情は前髪に隠れて見えなかったが、明らかにシンは怒っている。
「シ、シン……、あの……?」
「……なんでそんな、無防備に……男の部屋で寝泊りするなんて、何かあったらどうするの?」
両の拳を机の上に叩きつけるのを堪える様に震わせながら、シンが押し殺した声で言った。――――が、対するソフィアは目が点のまま「え」と小さく間抜けな声を上げた。
「ソフィアは可愛いんだから、もう少し自衛を……」
「い、いやいやいや、ちょっと待って! 何か勘違いして無い?」
「してないよ! ソフィアは可愛いよ!」
「ばっ!? ちょ、あ、あなたね! 落ち着きなさいよ!」
取り乱しているのか(少なくともソフィアにとっては)意味不明な事を言うシンに、ソフィアは赤くなりながらも鋭く突っ込みを入れる。
「ばっかじゃないの!? アレクは女の人よ!」
「え」
「女の人! すっごく美人の!」
「…………でも、“アレク”って……男の人の名前だよ」
「え、そうなの? ――え、ええと……それはよく分からないけど。でも、確か、アレクサンドロフだかアレキサンダーだか、そんな感じの……」
「……両方男の人の名前なんだけど?」
「いやだから! 本当に女の人! だ、だって、」
言い指して、ソフィアの頬にほんのりと朱が差した。それを見てシンの片眉がピクリと動いたため、慌てて思い切って言葉を続ける。
「旦那さん……も、いた、し……その、すごく、仲がいい」
言いながら、更に顔に熱が集まる。こういう話題を今までは誰ともしたことがなかった為、口にするのも何となく気恥ずかしさを覚える。誤魔化すように盛大に口をへの字に曲げてそっぽを向いた。
「なんだ……そっかぁ」
地を這う様な低い声から一転、安堵を含んだ柔らかなテノールがシンの口からため息と共に漏れ出た。丁度良いタイミングで店員がシンに焼きたての
「はぁ~……もう、心臓に悪いなぁ」
「あなたが勝手におかしな誤解するからでしょ! っていうか、なんであなたの心臓に悪いのよ」
膨れ面でぶつくさ文句を言うソフィアを見て、シンも「なんでだろうね」と小さく呟く。彼自身も、そんなに自分が焦るとは思っていなかったのだ。内心では小さく動揺しつつも、冷静を装ってシンは話題転換を図る。
「それはそうと……お礼の品を、お世話になった人に贈るんだね。正に聖夜祭にぴったりだねぇ」
「いや……聖夜祭の手伝いでもらう報酬を充てようと思ってるから、どちらかというと……年末のご挨拶かしら。年内の恩は、年内に返したいから」
「なるほど」
納得したように頷くと、彼は
言い澱むソフィアに気付いてはいたが、催促する事はなく彼は食事を続ける。しばらくしてから、ようやく意を決したのかソフィアが再び口を開いた。
「あの……あたし、あなたにも、その……たくさんお世話に、なって、……いるから。……だから、お礼、あなたにもきちんと贈るわ」
「え?」
予想していなかったのか、ビックリした様に目をまん丸にして彼はソフィアを見た。
「あんまり高いものは難しいんだけど、……菓子折りでいい?」
「ぶっ」
「ちょっと、なによ」
噴出したシンをむっと睨むと、彼は笑いを堪えながら「菓子折りって」と呟いた。それから多少無理をしつつ笑いを収めると、ソフィアの顔を覗き込んで悪戯っぽく微笑んだ。
「ごめん、すごく嬉しいよ。でも、僕のお礼は菓子折りより、ソフィアと一緒にお出掛けがいいな」
「……? 今してるじゃない」
「こういうんじゃなくて……待ち合わせして、美味しいもの食べたり、町を歩いたり、あ、そうだ。僕のお気に入りの場所にも連れて行きたいし」
「……? それに何の意味があるの? 全然分からない」
「意味あるよ! 僕が嬉しい」
「…………いや、分からないわ」
「でも、僕お菓子よりこっちがいい」
ね、と緑碧玉の色の瞳がソフィアの顔を覗き込みキラキラと輝く。満面の笑顔で、その実、有無を言わせない迫力がある。というかあざとい。――が、当のソフィアは「これが
ほんの僅かの間思案した後、彼女は渋々頷いた。
「わ、分かったわよ……でも、あんまり期待しないでよ? 食事とか……」
「食事代は僕が出すから」
「それじゃお礼にならないじゃない」
「なるよ。ソフィアが僕と一緒にいてくれるのがお礼なんだもの」
「ばっかじゃないの!」
呆れたように彼女は言うが、彼は本心からそう言っていた。“彼女と出かける約束”をしたというだけで、満面に喜色を浮かべているのが証拠だ。
「食事はあたしがおごる。……け、軽食でいいわよね?」
「うん、軽食も食べたいね」
もちろん
「分かったわ。何か良い出店が無いか、今度……調べてみる」
「じゃあ僕も一緒に」
「はぁ?! 意味ないでしょ!」
「だって、ソフィア1人にするのは心配なんだもの」
「あのねぇ……あたし、成人してるって何度言ったら分かるの?」
「知ってるよ」
「なら、子ども扱いするのはやめてちょうだい!」
「してないのにぃ」
にこにこと笑うシンに、ソフィアは何度目かの呆れた視線を投げかけた。その視線を、真正面から彼の碧色の瞳が受け止める。不意に彼の瞳が柔らかく笑みを
「邪魔するぞ!」
勢い良く
(――あれ?)
妙な既視感に、首を捻りそうになった。
「シン! ここにいたのか!」
「やあ、シェラ」
(! 呼び捨て……――――あれ?)
再び既視感に襲われ、視線を彷徨わせる。その様子を、シンはそっと見詰めて何事か思案する。
「ん? なんじゃ、またこの小娘を構っておったのか」
値踏みする様な視線をソフィアに投げかけながら、シェラは肩を竦める。彼女から視線を逸らしたままながらも、やはり似た様な言葉を耳にした事があるような奇妙な感覚がソフィアを包む。
「小娘など放っておいて、帰るぞシン! ミアがクッキーを焼いたそうじゃ。おぬし、あやつのクッキーは大好物だったじゃろ? お茶も用意しておるそうじゃ。さぁ、行くぞ!」
フン、と鼻を鳴らすと、美貌の
「ん? なんじゃ大人しいのぅ。へそを曲げたか? ほれほれどうした……」
からかう様にシェラが己の髪をひと房持ち、猫に対する様にソフィアの前にちらつかせようとした時、「シェラ」と彼女の言葉を遮る様に、シンが彼女の名を呼んだ。
「ん? なんじゃ?」
「彼女にあんまり失礼な振る舞いはしないで? 僕の大切な人なんだから」
「ほほぅ? なんじゃ、とうとう孤児院に連れて帰るのか? 子ども部屋に空きなどないぞ?」
「ソフィアが孤児院に来てくれるなら嬉しいし、部屋が無いなら僕と一緒の部屋でも良いんだけど、そういう事じゃないよ」
「聞き捨てならん言葉が聞こえた気もするが、まぁよい。“そういう事じゃない”というのは?」
「子ども扱いしてるわけじゃあないって事。――そもそも、子ども扱いしてたら、とっくに孤児院に強制連行してるからね」
揺るぎない微笑を浮かべたまま、シンはシェラに念を押すように繰り返した。
「だから、彼女にあんまり失礼な振る舞いはしないでくれるかな」
微笑んでる……――――否、良く見ると目は笑っていない。鈍い光を湛えている碧の目は、まるで日の当たらない鬱蒼とした森の様だった。思わぬシンの表情に気付き、ソフィアは声を失った。気付いたのはシェラも同様だったようで、彼女は気色ばんで肩を竦めると、シンを流し見た。
「なんじゃ、そんな怒ることか?」
「うん」
即答するシンを見、シェラは大きなため息をこぼした。
「……はぁ~ しょうもないのに肩入れしおって……馬鹿者じゃな」
「うん、好きに思ってくれていいよ」
笑顔を張り付かせたまま答えるシンを見て、シェラは不満げに口を尖らせた。
「全く、よく分からんヤツじゃ! 勝手にするとよい!」
「僕はいつも、僕の思うままに行動するよ……これからも」
「ふん! だからおぬしは朴念仁なんじゃ!」
はーヤレヤレ、と大仰に呆れたジェスチャーを見せ付けると、彼女は颯爽と店を出て行った。
彼女が去った扉を見て、一瞬苦々しい表情を浮かべたシンだったが、すぐに表情を正す。そのままそっとソフィアを見ると、彼女はぽかんとして目を丸くしていた。普通なら怒っても良さそうなものだが、特に何の感情も見て取れない。
――――また僕を、忘れて無いだろうか。
その言葉が心に浮かんだとたん、シンは何かに急かされる様に慌ててソフィアの名を呼んだ。
「ソフィア……!」
「……」
「ソフィア!」
「! あ、え? なに?」
「――大丈夫?」
何に対して言われているのか分からないのか、ソフィアはきょとんとしたまま小首を傾げる。彼女の澄んだ冬の湖の様な淡い水色の瞳は、きちんとシンを捉えていた。その事に、彼は大きな安堵を感じた。
「良かった……」
「? なにが……?」
「ん、なんでもない。……ふふ、ソフィア、さっき目がまん丸だったね? 何に驚いていたの?」
「え? ああ……あの
その言葉に、思わずシンは苦笑した。
「……えーと……どこをどうしたらそうなるの?」
「“ケンカするほど仲が良い”って……どこかの書物で読んだ事ある」
「……いや……まぁ、そういうケースもあるかもしれないけど、僕とシェラには当てはまらないからね?」
「照れなくてもいいのに」
「…………。……照れて無いからね?」
「そう」
シンの言葉に素直にこくんと頷く。が、内心では握り拳を作っていた。
(照れてる人は、得てして指摘されると否定するものなのよ。知ってるわ)
名探偵気取りで思案する。―――実際は頓珍漢な考えなのだが。
(そもそも……あのさっきの、仲が良さそうだった
ソフィアのなけなしの知識を振り絞ると、シェラのシンに対する執着とも取れる行動は、正に愛情とも見てとれた。
(あとあと、シンだって、普段はほぼ9割がたヘラヘラしてるのに、あの人相手だと何だか本音で話してるみたいだったし……あれが気の置けない相手ってヤツなんじゃないかしら。それに、
「ソフィアー?」
(つまり、あの人とシンの間を少しでも取り持てれば、あたし……結構シンに恩返しが出来るんじゃないかしら! いや、取り持てる自信無いけど。でも、せめて……あ、そうだ、シンに“気付き”を与えるとか? なんかぽや~っとしてそうだから、自覚無いかもしれないし!?)
「ソーフィーアー?」
(ちょっと、いいアイディアじゃない! よし、あたしとの出かける云々はアレだわ。ダミー……ううん、カモフラージュ? 本当の恩返しは、シンに)
「もうっ ソフィアったら!」
「むぐっ」
唐突に鼻で呼吸が出来なくなり、ソフィアはぷは、と口を開けた。物思いの沼から戻ってくると、シンが呆れたような何とも言えない微笑を浮かべて、なんとソフィアの小さく整った鼻を2本の指でそっと摘んでいた。仰天して手を振り払い飛びのくと、彼は「あはは」とさも可笑しそうに笑った。
「突然何をするのよ!」
「いくら呼んでも気付かないんだもん。ちょっと寂しかったから、思わず」
「……子どもじゃないんだから」
思わずジト目で突っ込んだが、彼はじっとソフィアの瞳を見詰めると心底嬉しそうに笑った。
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