第232話 波乱万丈の王位簒奪レース(21)
シェリーさんは、どうして私を気にかけてくれるのか……。
私には、その真意が理解できない。
「大丈夫です……」
「……強がりも程々にしておきなよ?」
彼女は、立ち上がると私の手を握ると立ち上がる。
何となくだけど……、彼女の手を振り払う気が起きない私もソファーから立ち上がり歩きだした彼女に着いていくことにした。
シェリーさんが壁に掛かっているタスペリーを捲ると扉が見えた。
「……あの、これは?」
「仮眠室よ」
私は彼女を聞きながら――、たしかに衣裳部屋や休憩室のような場所は合ったけど……、と、心の中で呟きながら仮眠室の中に入る。
そこは2段ベッドが3つほど置かれている部屋であった。
奥には、テーブルや数脚の椅子が置かれていて、どれも木材で作られているのが一目で分かる。
休憩室よりもベッドや椅子にテーブルの品質は落ちているように思えるけど……、こっちの方が娼館としては自然な気がした。
「何だか、休憩室とは打って変わった感じですね」
「わかるかい?」
「はい」
私は頷きながら2段ベッドの木目に手を添わせる。
リースノット王国の三大公爵家――、シュトロハイム公爵家に生まれた私は、国が困窮していったとは言え大貴族の長女だったのだから市井の人よりも遥かに恵まれた生活をしていた。
使っていた家具なども選別された物だと言っていいと思う。
それと同時に、前世の記憶を持っている私は、一般人がどのような家具を使っているのかを知っている。
その両方を知っている私から見ても休憩室に置かれていた家具と仮眠室に置かれている家具は、明らかに品質が異なっているのが分かる。
「なるほどね――」
シェリーさんが一人納得したような表情で独り言を呟く。
彼女が何を納得したのか私には分からないけど、馬鹿にしているようには感じないから何か納得できる部分があったのかも知れない。
「何かあったのですか?」
やはり気になったので彼女に話かけると彼女は首を振る。
「何でもないよ」
「何か思うところがあれば仰って頂ければ……」
「はぁー。アンタ……、疲れないのかい?」
「疲れる?」
私は、彼女の言葉の意図が理解できず首を傾げ――。
そんな私の様子を見て、彼女は私の目の前で深い溜息をついた。
「ここに入れるのは女だけだから、今日はゆっくりと寝な。シュトロハイム公爵夫妻とレイルには、私から言っておくからさ」
「……」
どうしても私に休息を取らせたみたい。
「返事は? イエスしか受け入れないけどね」
「……どうして、商工会議の繋がりしかない私に……、ここまでしてくれるのですか?」
「…………同じ女だからだね」
「同じ……」
「そうだよ。ここの娼館で働いている女は、大なり小なり普通の生活が出来なくて集まってきたのさ。自分が好もうと好まざるとね。男ってのは身勝手な物で女を道具としか思っていないのさ。だから、同じ女は女同士で自分の身を守らないといけない。困った時はお互いに庇い合って生きていかなきゃいけない」
「……でも――」
「でも! も何もないんだよ。アンタは自分では気が付いていないけど……」
シェリーさんは、そこで言葉を区切る。
「とりあえず、朝までゆっくりと寝な。気持ちの整理ってのが必要な時もあるだろうさ」
「……わかりました」
何を言っても理解してもらえないと思った私は素直に頷く。
どうせ夜に話しても朝に話しても話の進展は、そんなには変わらないのだ。
――それならお父様やお母様に話をするのは夜よりも朝の方が迷惑は掛からないと思う。
「ゆっくり寝るんだね。その服装だと寝にくいだろう? 壁に掛かっている服は洗濯したばかりだから使っていいよ」
それだけ言うとシェリーさんは部屋から出ていく。
シェリーさんに言われた通り壁に視線を向けると、壁には薄い桃色のネグリジュが掛かっている。
しかもフリルもたくさん着いていた。
「こ、これは……」
手で触れるとシルクだと言うのが分かる。
ミトンの町でシルク――、絹の洋服を置いてある店があるとは思っていなかったけど……。
さすが娼館と言ったところか。
「それにしても薄いよ……ね」
着ると間違いなく色々と透けてしまう。
いくらドレスやワンピースを着ることに抵抗が無くなった私としても、こんなスケスケな服を着るのには抵抗はある。
――だけど、着ているワンピースを皺にするのもアレだし……。
「仕方ない」
下着を着たままネグリジュを着れば透けても大丈夫。
そう――、自分に言い聞かせてワンピースを脱いでからネグリジュに着替えて近くに置かれていた鏡へと視線を向けると目を見張った。
いつも自分の体は、洋服に着替える時に見てはいたけど、こういう色香を際立たせるような服を着たことは無かった。
「思っていたより……」
――そう。
自分で思っていたよりも、ずっと体は女性らしく成長していた。
「それも当然か――。あと数か月もしないで成人だものね」
自分の胸の膨らみに手を当てながら溜息をつく。
この世界に転生してから15年以上経過しているのだ。
同性である女性の体を見ても今は何とも思わないくらい女に順応してしまっている。
それに思ったよりネグリジュを着ていても思ったより羞恥心を感じない。
むしろ肌に触れる感触が気持ちいいくらいで――。
「……と、とりあえず」
私は、ブラジャーを外してから再度ネグリジュを着てからベッドの中に入って目を閉じる。
思ったより寝心地はずっといい。
何着か旅で持っていても……。
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