第193話 迷宮区への足がかり(10)
「――ど、どうか……よろしくお願い……ギリッ……します……」
床に正座して土下座をしてきたエルノの冒険者ギルドマスター。
大の男が頭を下げてくるのを見て少だけ悦に入り、頭でも踏んでやろうという謎思考に陥ってしまい近づいて足を上げたところで、ハッ! と我に返りまわりを見渡した。
私がギルドマスターであるグランカスさんの頭を踏みつけようとしたのを、キッカさんやアクアリードさんにメリッサさんが痛い子を見るような目で見てきている。
ちょっと、踏みつけたくなる衝動が湧き上がったのは、何となくだから仕方ないとして、さすがに踏みつけるのは、やりすぎだというのは私でも分かっている。
私は足を上げたまま硬直し、足を床の上に下ろそうとしたところで、「ピンク?」と、グランカスさんの声が聞こえてきた。
そこで、ようやく私は気がつく。
足を上げていたことで、 グランカスさんが顔を上げると私の下着が見えてしまうことに――。
「きゃあああああ、へんたい!」
「ぶへっ!!」
私は、羞恥心と照れ隠しと屈辱と怒りから思いっきりグランカスさんの顔に足を下ろした。
床が破壊された酒場。
その近くに転がされた死体というかグランカスさん。
私が回復魔法を使ったことで何とか一命を食い止めてきた。
正直、床が壊れて踏みつけた衝撃が逃げなければ、グランカスさんの頭がトマトみたいに破裂していたかもしれない。
――というのが、メリッサさんの見解であった。
そんなこと言われても仕方ないじゃない。
突然下着を見られたら、仕方ないから!
「なんだか知りませんけど、とっても屈辱的です――」
私は右手をグランカスさんの頭に添えながら回復魔法を発動させ左手でスカートの裾を押さえている。
それにしても、前世では男だから気がつかなかったけど、スカートの中を見られるのがこんなに恥ずかしいとは……。
裸とか男の人に見られたら、殴り殺してしまうかも知れないです。
「はぁー……」
もう溜息しか出ない。
現在、キッカさんが経営する酒場には、気絶しているギルドマスターであるグランカスさんにキッカさん。
そして奴隷商人2人の計4人がいる。
まぁ、私を入れれば5人になるわけだけど――。
「もう大丈夫でしょうか?」
私は、独り言を呟きながらグランカスさんの容態を確認していく。
うん。たぶん、問題ないと思う。
とりあえず、問題があるとすれば、それは酒場の床に大きな穴が開いたくらい。
キッカさんが半分笑いながら「これは、建て直しかねぇ」と乾いた笑顔で笑っていたから、たぶん大丈夫だと思う。
人間、余裕がなくなると笑えなくなるものなのだ。
「まだ大丈夫」
「何が大丈夫? これ以上、店を壊すような真似は――」
「大丈夫です! こう見えても私は常識人ですから!」
「――は? もう、あんたが何を言っているのか理解できないよ……」
どうやら、私に罪があるとキッカさんは思ってしまっているようだ。
悲しい誤解である。
私が何か問題を起こすわけが……起こすわけが……ないのに!
「ユウティーシアさん!」
私がキッカさんに弁明の言葉を述べようとしたところで、アクアリードさんが酒場に入ってくると私に語り掛けてきた。
「どうかしましたか?」
「帆馬車の準備ができました」
「そうですか!」
エルノのダンジョンは、ここから徒歩で半日は掛かる距離らしく、歩くのが面倒だなと言ったところで帆馬車を用意することになったのだ。
借りてくるのは、交渉にアクアリードさん。
御者としてメリッサさんが同行していたのだけども……。
どうやら、無事に借りられたみたい。
「わかりました。すぐにエルノのダンジョンに向かいましょう。こうしている間にもミトンの町は疫病で苦しんでいる人が出ていますからね」
「わかりました」
どうやら、今回はエルノダンジョンについては、アクアリードさんとメリッサさんは着いてくるらしい。
冒険者ギルドの意向らしく、面倒事に巻き込まれなければいいんだけどね。
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