第190話 迷宮区への足がかり(7)

 今、私はキッカさんが呼んだ建築商人の方と話をしていた。

 もちろん、修理費を値切るではなくて、適正価格を調べるためである。


「ずいぶんと壊したものだな! ドラゴンでも突っ込んできたのか?」


 豪勢に笑いながら、私に語りかけてくるのは建築を担当しているドワーフのブルノさん。


「ドラゴンなんているのですか?」

「いや、見たことないな……エルノの近くにダンジョンがあるだろう? あのダンジョンの最深部にはドラゴンがいるらしいぞ?」

「そうですか……、私はてっきり、ドラゴンがそこら中に生息していると思いました」

「そんなわけないだろう? 御馬鹿だな――」

「あはははー……」

「ユウティーシアさん! やめてください!」


 私は、笑いながら拳を握り締めてドワーフのブルノさんに近づこうとしたら、後ろからメリッサさんに羽交い絞めにされた。


「離して! あいつ自分から話題振ってきて! 私を馬鹿に! とりあえず一発! 一発で良いから!」

「そんなことよりも、建物を直してもらうほうが先決なのではないですか?」

「……ううっ……」


 私とメリッサさんの会話を聞いていたドワーフの親父(推定40歳後半)が私のことをニヤニヤと馬鹿にした素振りで見てきている。

 離して! こいつ殺せない! という言葉を地で言えるくらいのむかつき度だけど、今は、とりあえず命をとらずにおいてやる。


「それで、いくらくらい掛かりそうですか?」

「そうだな……、材料などの調達を含めると一週間くらいと言ったところか? 修理費は金貨70枚くらいだな」


……修理費は問題ない。問題は……酒場の営業が一週間もストップしてしまうことにある。一週間もストップしたら、その間の営業損失を補填しないといけない。

 実に面倒この上ないのだ。


「はぁー……。キッカさん、お店の壁が直るまで一週間くらいかかるらしいんですけど――」

「何を言っておるのだ? 材料が届くのに一週間、修理が終わるまで3日。合計10日かかるわい!」

「――なん……だと……?」


 思わず、素で答えてしまった。

 ミントの町で病が進行している以上、無駄に時間を浪費する余裕など私にはないから!


「10日ね……。一日の稼ぎが金貨11枚くらいだから……。10日で金貨100枚くらいかしら?」

 キッカさんの言葉を聞いて、私は箱の中に入っている硬貨を数えていく。

 合計180枚あれば! 問題ないはずだけど……。


「――た、足りない……」


 300人近くの兵士の財布からお金をもらったというのに、全然足りない。

 むしろ全額合わせて金貨50枚にも満たない。

 

「アクアリード、いますごくお得なクエストがあるのだが!」

「何のことでしょうか?」

「いや、ほら――。エルノの町近郊のダンジョンだが、周囲に魔物の出現が増えているんだ。

いるんだよな」


 アクアリードさんに、冒険者ギルドマスターのグランカスさんは話かけてはいるけど、何度も私のほうをチラッ! チラッ! と見てきている。


「いやー。報酬がな! 金貨180枚なんだが、誰かやってくれないかな?」


私のほうへ流し目を送りながら、グランカスさんがアクアリードさんに語りかけている。

 どう見ても、ダンジョン探索の仕事を私にやらせたいらしい。


 だけど――。

 私には、そんなことをしている余裕なんて……。


「そういえばマスター。カベル海将は、どこにいるんだ?」


 メリッサさんが、グランカスさんに話かける。

 すると――。


「ああ、カーネルの奴にエルノ近郊のダンジョンにつれて行かれた以降、姿を見た者はいないらしい」

「――!?」


 それって! かなり重要な案件だよね?

 こんな酒場で説明していい内容とは思えないんだけど――。



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