第171話 出張手当はつきますか?(9)

 着替えが終わった私とアクアリードさんは、帆馬車から降りる。

 そして、私が新しく組んだ水生成の魔法陣と詠唱を使いアクアリードさんが、桶に水をいっぱいにして馬の前におく。

 

「これで大丈夫です!」


 アクアリードさんは手を振って私に知らせてきた。

 

「はーい!」


 私も手を振って、アクアリードさんに合図を返す。

 じつは、私とアクアリードさんは、かなり距離を置いている。

 もし水生成の魔法が失敗した場合、二人一緒に濡れると着替えが足りないからである。

 そして……、どうやら成功したようである。

 

 アクアリードさんは、歩いて近づいてくる。


「ユウティーシア様! 殆ど魔力を消費せずに魔法を使う事ができました。いつもは、一回魔法を使ったあとは、少しの間、気持ち悪いのですけど……」

「そうですか、それは良かったです!」


 思ったよりウラヌス公爵と、私が10年間かけて作り上げてきた魔法陣は優秀であったようで。

 まぁ、少しでも破綻していたら水道管が破裂するように魔法陣が爆散して、大変なことになっていたから、少しでも魔力が魔法陣に引っかからないように組むのは、死活問題だった。

 それにしても、魔力伝導率の損失をほぼゼロに抑えるだけで魔力を殆ど消費しなくなるなんて……。

 

「ふむ……」


 私は、唇に指先を当てながら考えごとをする。

 もしかしたら、魔法が発生する際の出口を調整すれば、私の魔法も良い感じで使えるかもしれない。

 私は魔法陣の魔力出力文字を書き換えながら空中に魔法陣を描いていく。


「水生成!」


 私の言葉と同時に、巨大な水の閃光が、魔法陣から放たれて――遠くの山の頂を吹き飛ばした。


「……」

「……」


 私とアクアリードさんは、目の前で起きた出来事を見て無言になり……。


「――いまのは何も見なかった。いいね?」

「あ、はい……」


 どうやら、私の魔法は出口を最小設定しておかないと大変なことになるらしい。

 ウラヌス公爵が何故、「お前が使う魔法陣は無闇に弄るなよ? 絶対に弄るなよ?」と言った意味が分かったきがする。


「ど、どうした?」


 私と、アクアリードさんのところに、メリッサさんが走って近づいてきた。

 そして遠くの山頂が消滅しているのを見ると首を傾げて「あそこの山って、あんな形だったっけか?」と話しかけてきたので、「はい! そうですよ!」と私は返した。


「それよりもアクア、お前……その格好はどうした?」

「あ、これは……」


 さすがに、旅の仲間であるメリッサさんに魔法が失敗したとは言い難いのだろう。

 ここは、救いの手を差し伸べたほうがいいかもしれない。


「私が、メリッサさんに服をお貸ししたんです」

「ユウティーシア様が?」

「はい! やはり一週間近く一緒に旅をする方ですもの。いつも戦闘用の服装ばかりですと、疲れてしまいますから」

「――で、ですが……」


 私の言葉に、引き下がらないメリッサさんを見ながら。


「丁度いいので、メリッサさんもお洋服を着替えましょう! 襲ってくる賊がいても私が何とかしますから!」

「いえ! 私は、護衛対象を守るのが仕事なわけですし! アクアのように……」


 メリッサさんが、アクアさんの事を何か言おうとしたので、とっさに身体強化の魔法を発動し、メリッサさんの後ろに回りこむ。


「――なっ!?」

「――えっ!?」


 二人とも、私の姿を見失ったようで……。

 後ろからメリッサさんの肩を軽く叩いたあと、「そ、そんな……」と彼女はショックを受けていたけど「小麦の女神ですから、このくらはできますよ?」と言うと二人とも驚くと同時に頭を下げてきた。

 どうやら、貴族との決闘のときは、二人は露店をして生活費を稼いでいたらしく私のことを知らなかったようで……。

 余計なことを言ったのかもしれないと少しだけ後悔した。


 「これが私?」と、腰の辺りまで切れ込みが入っているスカートを翻しながらメリッサさんは、自分の格好を確認していた。

 実は、メリッサさんに渡した服は、戦闘用にと足の動きを阻害しないよう、ミトンの町の服屋さんに頼んで作ってもらったもの。


 簡単にいうとチャイナドレスの洋風バージョンというところだろう。

 色合いは赤を貴重としていて、褐色の肌のメリッサさんにとっても似合い、ルビーの宝石を使って作られたピアスが彼女の魅力を寄り一層引き立てていた。

 そして結い上げられた髪の毛を纏めているのは純金製のバレッタで、とても魅力的な仕上がりとなっている。

 うーん、女性をコーディネイトするのがだんだんと上手くなってきている気がする。

 

「でも、胸が少し苦しいかも……」

「――くっ! そ、そうですか?」

 

 少しだけイラッときた。

 だけど、顔には出さない。

 そう、成長期だから! まだ成長期だから!

 これから、もっと大きくなるし!



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