第95話 私の気持ち

 大きなベッドの上でゴロゴロしている私――ティア・フラット。

 年齢16歳は、本日はお出かけ禁止令をアレクに出されてしまっていた。

 両足には薬草を、ドロドロになるまですり潰した薬効効果があるものが染み込んだ布が巻かれていて動く事が出来ない。

 おかげで私が出来る事と言えばベッドの上で、時間を潰すくらい。

 昨日はお風呂というか暖かいお湯を浸したタオルで体を拭く事もできなかった。

 ずっとアレクが部屋にいたから。


そう言う事もあり、私はアレクが出て行った後に、タオルに浸したお湯で体を拭いて泥を拭ってから下着を着替えてワンピースを着てからベッドで寝ている。


「うーん。私が作った物は売れたかな」


 私が当座の資金調達として、夜なべしながら時間がある時に作ったエルダさんに教えてもらった工芸品だけど、売れたらいいけど売れなかったらどうしよう……。

 大量の在庫を抱え込むことになって、持ち帰るのも大変そう。


 綺麗に整えられたシーツの上で横になりながら、今後の事を考えるけど……女一人で暮らしていくのはとても大変そう。

 宿屋とか料理店とかするのもお金は必要そうだし、私……重い物も持てないから、あまり無理な仕事も出来無さそうだし、人よりなにか優れた物があれば、それを使って自立できそうなんだけど……。

 私は浜辺で見つかった唯一の身分証を取りだす。


 そこには私の名前 ティア・フラット

 出身地 リースノット王国 首都リフティリア

 年齢 16歳

 

 ――と、しか書かれていない。

 本当は、両親の名前とか書かれているはずなんだけど……。

 私って一体、どんな仕事をしていたのか。

 

 コンコンコン


 と、扉を叩く音が聞こえてきた。

 

「はい……」

「私だけど少しいいかい?」


 声からしてフェリスさんで間違いないと思う。


「は、はい……」

「おじゃまするわね」


 私の返事を聞いた宿屋の女将さんであるフェリスさんが部屋の中に入ってくると部屋の中を一目見てから私へ視線を向けてきた。

 その視線は、私を値踏みしているようにも見えてしまう。

 私は思わず、ベッドの上で座って背を伸ばす。


「足の調子はどう?」

「はい、もう大丈夫です!」


 まだ、かなり痛いけど弱みを見せたらいけない気がしてつい強がって見る。

 そんな私を見て、フェリスさんは小さく溜息をついて。

 私の足に巻いてある薬草を染み込ませたタオルを取っていく。

 タオルを取られた足を見ると、ずいぶんと足首の腫れが引いている。


「あと、2、3日すれば歩けるようになると思うわよ。」

「そ、そうですか……」


 2、3日も……。

 思っていたよりもずっと長い。


「いたっ!」


 暖かいお湯で足を拭かれたので思わず口から痛いという言葉を発してしまっていた。

 すると、フェリスさんが私の顔を見上げてきた。


「ティアさん、痛い時は痛い。困っている時は困っていると言わないと相手に伝わらないわよ? それに結婚したら色々とあるんだから、言いたいことはきちんと言わないとね」


 一瞬、フェリスさんが何を言ってきたのか分からなかった。

 そして少ししてから、アレクとは偽装結婚する事になっていたんだと思いだす。

 たしかに結婚したら、普通は子供の教育とかそう言った物を旦那様になった男性と話しをしないといけない。

 問題を放置していたら、後々になってきっと大変なことになるかもしれない。


「はい――気をつけます」


 私の答えを聞いたフェリスさんは、新しいタオルで私の足先を包み込んだ後に、桶に入ったお湯で手を洗うと私に微笑みかけてきて。


「それなら良かった。エイダの息子だからね……私も心配していたから。ティアさん、アレクをよろしくたのむね」

「は、はい」


 私は、フェリスさんの言葉に何とか即答する事が出来た。

 でも、自分の保身の為とは言え、偽装結婚はやっぱり良くない気がしてくる。


「それじゃ、また来るからね」


 フェリスさんは使い終わったタオルと桶と薬草が入った器を持つと部屋から出ていってしまった。

 私は、何ともいえずベッドの上で座ったまま。


「私は、どうしたらいいんでしょうか?」


 自然と自分に問いかけるように言葉が口から零れ落ちる。

 すると――。


「どうしたんだ? 悩み事か?」


 いつの間にか部屋のドアが空いていて、目の前にアレクが立っていた。

 


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