第42話 公爵令嬢、刺される
「そ、それでは……俺が魔法を使えるようになったのは……」
クラウス様はそれだけ言うと、私の方へ視線を向けてきた。
その目にはいつも私を蔑んでくるような色合いは含まれていないように見える。
クラウス様は、私を見つめながら言葉を紡ぐ。
「シュトロハ……ユウティーシア嬢」
言いなれていないのか。
所々、詰まりながらも私の名前を言葉にしてきた。
「はい。なんでしょうか?」
次期国王陛下になられる方の身分は私よりもずっと上。
なので、嫌な顔一つせずにニコリと微笑みながら私は頭を傾げながら言葉を発する。
私の態度にクラウス様は、少々顔を赤く染めて――。
「貴女は、ずっと前に俺と会った事があったか?」
――と尋ねてきた。
私はクラウス様の言葉の真意を測ろうとするが、国王陛下の前だったことを思い出し余計な行動は不利になると悟り素直に言葉を返すことにする。
「はい。以前、怪我をされていた子犬を抱いておられたので……白色魔宝石を作りましてお渡ししました」
私の言葉を聞かれたクラウス様は、衝撃的な事実を聞いたと言う表情をしてグルガード国王陛下を見た後に、私に視線を向けてきた。
「そうだったのか! アンネローゼと出会った時に、そのような事を言ってきたから……俺はてっきり……そうだったのか……」
クラウス様は、とてもショックを受けている様子。
私はチラッと国王陛下の方を見ると、何やらとても期待されているご様子。
これはあれですね。
私が慰めてあげなさいと言う事ですね。
とっても嫌ですけど……。
でも、国王陛下のご指示では仕方ないです。
私はクラウス様の右手を両手で優しく包む。
そして、顔を上げてクラウス様の顔を見る。
「クラウス様。誰にでも失敗はあります。ですが、そこには許される失敗と許されない失敗があります。民の命が掛っております政策は、間違いは許されませんが……今回の失敗は、まだ取り返しがつく段階です。幸いにも国王陛下が未然に防いでくださいました」
私は、そこで言葉を切る。
クラウス様は、見上げていた私の視線を真っ直ぐに受け止めているようで。
どうやら、私の話しはきちんとご理解頂いているご様子。
私は続きを話す事にする。
「今回の一番の要因は、クラウス様が婚約者である方の情報を知らなかった事にあります。婚約者の方を知っていましたら事前に防げる内容でした。ですが、クラウス様はそれを怠りましたよね? さらには婚約者の私の前でアンネローゼ男爵令嬢と口づけまでされましたよね?」
私は遠まわしに、場所を弁えてくださいと伝える。
でも国王陛下の顔色が真っ赤になっているのが見えた。
あ……これは、あとでクラウス様が殴られるパターンですね。
「ですから、あまりそういう事をされるのは私としても困ります」
王族としてきちんとしろと私は遠まわしに言う。
まぁ元々のスペックは、高いかどうかは知らないけど、頑張れば何とかなるでしょう。
クラウス様は、ゆっくりと頷くと――。
「分かった、他に何かあるか?」
クラウス様の言葉に私は否定的な意味合いを込めて頭を振る。
「他にはございません。今回の事を教訓にして頂ければと……」
私は、国王陛下の方へ視線を向ける。
そこには、怒りを抑えながらも、頷いてくる国王陛下の姿がある。
どうやら及第点をもらえたようですね。
「二人の話し合いは済んだな? それでは、クラウス。お前には話があるから残れ。ユウティーシア嬢については、後ほど婚約発表会の日取りを知らせる。下がってよいぞ」
国王陛下の言葉に私は会釈し学園長室を出る。
そして扉を閉める。
胸元に手を持っていき、私は溜息をつきながら思う。
ヒロインのアンネローゼさん。退場早すぎ! と……。
私はカバンを両手で持つとそのまま、校舎の中を通り校舎口から表に出る。
そして目の前から学園長が歩いてきた。
「ユウティーシア公爵令嬢、これから帰りですかな?」
学園長の言葉に、私は会釈しながら「それでは失礼いたします」と言いながら通り過ぎる。
すると学園長は――。
「今は物騒ですからな。一人で行動しておりますと危険ですよ?」
――と。言ってきた。
とたんに私は、体から力が抜けてその場に前のめりに倒れた。
一体、何が……。
体に力が入らない。
辛うじて動かせる頭を動かし後方を見る。
そこには、紫色の液体を滴らせたナイフを持った学園長が下卑た顔をして私を見降ろしてきている。
そして、そこで私は意識を失った。
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