第35話 女子寮に人がいっぱい増えました。

「それではお気をつけてお帰りくださいませ」

 ウラヌス公爵家の執事セバスチャンに私は――


「ありがとうございます。ウラヌス卿にもお手数をかけましたとお伝えください」

 ――伝える。

 私の言葉を合図としたかのように馬車は動き出す。

 

 私は馬車の背もたれに体を預ける。

 思っていたより疲れていたようで急速に眠気が襲ってくる。

 それでも考える。

 貴族主義がある現状では、寄付という遠まわしの方法では上でお金を着服され下まで回ってこない。

 

 前世の地球に住んでいた時の記憶と知識を総動員して考えていく。

 末端までお金が回る仕組みを考える。


 そこで思いだす。

 現在の状況を地球で見た事がある。

 それは発展途上国に寄付を送っても末端に物資が届かない状況によく似ている。

 上だけが肥えて下に届かない。

 なら……どうすればいい?

 決まっている。

 届くように仕組みを作るか、それとも平民の価値を認めさせて現状を打破するかの2つしかない。

 考えが纏ったところで、気がつけば馬車はいつの間にか止まっていた。

 外を見ると、私が住んでいる女子寮の目の前。

 どうやら、かなりの時間、考えこんでいたようですね。

 

 私は馬車から降りて従者の方へ。


「ウラヌス卿へお伝えください。数日後にそちらへ伺うと」

 私はウラヌス卿に仕える従者の方へ話をする。

 すると従者の方は頷いたあと、馬車を走らせた。

 これで第一段階の仕込み完了と……。

と女子寮の両扉を開き玄関ホールへ足を踏み入れた。

 そこには、20人近い女性達が立っていた。

 皆、右胸の高章の縁が赤い。

 つまり全員、同学年ということになる。


 10歳の子供を立たせて授業を聞かせていたら、覚えられるものも覚えられないだろうに……。

彼らはまともに市民に勉強を教える気がないのでしょう。

 私は、しばらく考えたあとに、ユーメさんに話しかける。


「ユーメさん、皆様は私が先ほどお伝えした内容に該当される方でしょうか?」 

 私の言葉に。


「はい、皆さん。寮を用意してもらえてない人ばかりです。多くの方が、王都で宿を借りているようですけど、困窮しているらしくて……」

 私は溜息をついた。

 たしかに……私、将来。私は、公爵家を出て一般人として暮らしていこうと思って生活様式を学ぼうと市民の方を貴族学院に入れるように手続きはした。


 でも、まさかここまで酷いことになるなんて思わなかった。

 これは、私の浅はかな考えが生んでしまった事なのでしょう。


「分かりました、ユーメさん。20人でしたら、お部屋の空きはあります。皆様にお部屋を案内してください。それと、そこの辺に居らっしゃる妖精さんの事も説明してください」

 私は、ユーメさんに寮室の割り振りを任せると食堂の中に脚を踏み入れた。

 食堂の床にはたくさんの食材が置かれている。

 ここの購買部だけは仕事が早いと思いつつ。

 食材の量から何を作ればいいか考えていく。


「ハンバーグでも作りましょう」

 お肉を細かくしていき、つなぎに卵を使い。細かく切り刻んだ野菜と混ぜ合わせていく

 そしてフライパンを魔動コンロで熱した後に、油を敷いてハンバーグを焼いていく。

 しばらくすると、100個近いハンバーグが出来上がった。

 その日の夜のメニューは至ってシンプルでハンバーグと、ロールパンにバターという組み合わせ。

 そして飲み物は、私が魔法で造り出した水にレモンを入れたレモン水。

 皆さん、お腹が空いていたのか100個作ったハンバーグは瞬く間に売り切れてしまった。

 そして……。


「それでは、皆様。お風呂に入って来られたら如何でしょうか?」

 私の言葉に女生徒達は喜びの笑みを浮かべてくる。


 衣食住を保証すれば、どういう風に改善して欲しいかのアンケートを聞いた時にきちんと聞いてもらえるかもしれませね。

 


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