第7話 飲み水を魔法で作ろうとしたら溺れ死にそうになった。
白い家もとい魔法式構築研究所に来てから今日で3日目が経過していた。
もちろん5歳の私に出来ることなんてなく、粗末な布団の上でゴロゴロしながらエルドが持ってきた本を見ている。
「ふむふむ、どうやら金貨1枚で10000円の価値があるみたいだね。で、銀貨が1000円で銅貨が100円と……あとは銭貨が10円の価値ね……」
しかし、エルドの持ってくる本はかなり勉強になる。
私が公爵家を逃亡した後の、いい指針になりそうだ。
その時、コンコンと私のいる部屋内に音が鳴り響いた。
「ティアいるのか?」
お父様の声が聞こえた。
とりあえず居留守を使おう。
私は布団を頭から被って寝たふりをする。
ガチャと鍵が開けられるとドアが音を立てて開いていくのが聞こえてくる。
「ティア寝ているのか?」
「シュトロハイム卿、しばらくはこちらの施設で娘さん預かる話しだったはずでは? 断りもなく接触されては困りますね」
お父様に話をしているのはどうやらエルドのようだ。
「娘に会いに来るのにそんな事は関係ないだろう?」
お父様は、エルドに苛立ちを含ませた物言いで迫っているが……。
「はて? 私が聞いた限りでは、娘さんはシュトロハイム卿を嫌っていますよ?」
おいおい、正直に言いすぎだ。
「――な……んだと?」
お、お父様は少し傷ついたようだ。
いけ! エルド。そのままお父様を倒せ! と私は心の中で応援する。
「それではティアに直接、話しを聞くとしよう」
お父様が無理やり、私が被っているシーツを取ろうとした所で、誰かが叩かれた音が聞こえてきた。
「シュトロハイム卿、寝ている子供を起こして気持ちを聞くなど親として間違っています」
それが例え、王族との婚約があるからといった理由であっても……。
お父様は何も言い返さずに、そのまま部屋から出て行ってしまった。
私はシーツの中から顔を出す。
「もう大丈夫です。しかし、ずいぶんと貴女を心配しているように見受けられましたが……」
私が起きている事に気が付いていたエルドは、シーツの中から顔を出した私を見て、ため息をもらしながら呟いてきた。
「そんなことありません。きっと白色魔宝石が欲しいと言う理由と王家に嫁がせる娘という事で気になっただけでしょう」
この世界の両親には、私はあまり期待していないし……そもそも人間を期待するに値する生き物だとも思っていない。
だから、私はここの研究所に成人するまでいる事に決めたのだ。
「あれです。他人の家の問題に口を挟んでも仕方ないです。魔法書は持ってきて頂けましたか?」
この3日間、魔法書が届くことを期待していたが、研究所は国が運営している事もあり物を持ち運ぶにもかなりの検査があるらしく持ち運ぶのは難しいらしい。
私はため息をつきながら作っていた白色魔宝石を2個テーブルの上に置いてから、言葉を紡ぐ。
「それでは、エルドが知っているものでいいので、まずは生活魔法と身体強化魔法を紙に書いて頂けますか? 本が無理でしたら知識をください」
私の言葉にエルドは頷くと、白色魔宝石を手に取った後に魔法陣と理論を紙に書いていく。
私はそれを横目で見たあとに、市民の生活習慣が書かれた本へ視線を落とすと読み始めた。
さて、エルドが書き終わったら魔法の練習でもするとしよう。
2時間後に、エルドは白色魔宝石を持って部屋から出ていった。
出て行く時に、私の方へ視線を向けてきたのが意味深であったが気にしない事にする。
エルドが書いていった魔法は生活魔法、回復魔法、毒消し魔法、身体強化魔法に渡る。
生活魔法にはどうやら詠唱は不要らしく、魔法陣も簡略化されており頭の中で魔法陣を思い浮かべて言葉を発するだけで魔法が使えるようだ。
私は、手元のコップに向けて生活魔法の基礎である水生成魔法を使う事にする。
一般の人は内部から魔力を使うに比べて、体内魔力がまったく無い私は外部の魔力を取り入れて使う必要がある。
だから他人よりも、明確に現象を頭の中で想像しないといけないのだが……。
アニメ立国の日本に45年も住んでいたのだ。
水を構成する分子がどのようになっているのか、魔力の収束のイメージなども明確に頭の中で思い描ける。
「生活魔法“水生成”」
私の言葉と同時に部屋の中が水で満たされた。
とんでもない水圧が体に押し寄せてくる。
そして……部屋のドアが膨大な水量に耐えられず部屋の外に向かって倒れると部屋内に溜まっていた水は廊下に一気に流れ出した。
おかげで私はおぼれ死ぬことからは解放された。
しかし、生活魔法でこの威力とは……魔力調整の練習が必要だとつくづく思い知らされた。
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