第四章半2

第295話

 イノンとリネラスを保護したあと、帆馬車に戻ってきた俺はイノンとリネラスを帆馬車の中に寝かせる。

 2人ともかなり消耗していて血の気がないように顔色も青い。


「一体、どういうことなんだ?」


 二人の脈を測るために手を当てると驚くほど脈拍が弱い。

 

「ユウマさん……これって、もしかして……」

「――ん? ……なにか心あたりがあるのか?」


 俺の言葉にユリカが頷いてくる。


「メモリーズ・ファミリーには、魔物が憑りつくことがあると聞いた事があります。もしかしたら……」

「その魔物の影響を受けていると?」


 それなら……【探索】の魔法を発動。

 周囲3キロメートル以内の全ての建物、生物、地形を全て把握していく。

 

「魔物の確認は出来なかったが、セイレスとセレンの場所は確認出来た。かなり遠いな……」

「ユウマさんは、セイレスさんとセレンさんの保護に行って来てください。私も何とかしてみます」


 ユリカは、そういうと鞄の中から植物の絵が書かれている本を何冊も取り出して帆馬車の中で広げていく。


「それは?」


 俺の問いかけにユリカは視線を俺に向けてくる。


「この本は、中央都市エルダートにいるお父さんとお母さんが私が花屋として独立するときに送ってきてくれたものなんです」

「なるほど……」


 ユリカは俺の言葉に答えながらも本を読み進めていく。


「ありました」


 視線を本から動かさずに俺にそう話してくるとユリカは、自身の手に持つからいくつもの瓶を取り出して床に並べ始めた。


「ユウマさん、本に書かれている内容ですとメモリーズ・ファミリーの特徴は、過去の楽しかった思い出を見せるマジックフラワーらしいです。ですけど、リネラスさんやイノンさんの様子を見てる限り……」

「悲しい出来事も自覚……いや、違うな。無意識のうちに自覚させて記憶からは消している?」

「はい、かなり悪質です。おそらく、メモリーズ・ファミリーに憑りついてるのは悪夢ナイトメア・ロードかも知れません」

「聞いた事がないな……」


 俺の言葉にユリカは頷く。

 ただ、その目には確固たる証拠を見つけたように力強い光が見えた。


「悪夢ナイトメア・ロードは、死者の魂を利用して自身の力を与えた物を与えることによりその物の記憶を読みとり悪夢を見せるらしいです」

「自身の力を与えた物……?」


 そこで、俺は思い出す。

 すぐに帆馬車から出ると冒険者ギルドカードを渡して銅銭に変えてもらった袋の中を見る。

 中を見るが特に異常は見られない。


 俺は一枚取り出して銅銭の表面だけではなく中を確認するために人差し指と親指に折り曲げる。

 すると、「ギャアアアアアア」と声と同時に銅銭が千切れ中は緑色の細かい繊維状の蔓が存在していた。


「ユリカ!」

「は! はい!」


 急いで出てきたユリカに俺は銅銭の片方の断面図を見せるとユリカの表情が真っ青に染まる。

 

「ユウマさん! これはかなり危険です。人の魔力を食らって力にする使い魔です」


 俺はすかさず【探索】の魔法をリネラスやイノンに放ち……。


「そういうことか……ユリカ対処法はあるのか?」

「は、はい。元凶である悪夢ナイトメア・ロードを倒せばいいはずですが……普通の魔法、武器攻撃は通じないはずです」

「分かった、これは持っていく!」


 俺は銅銭の入った袋を持つとユリカの方へ視線を向けて


「いつでも町から逃げられるようにしておいてくれ」

「分かりました!」


 ユリカの答えに俺は頷くと死の都ローランの中心部に向けて走り始めた。

 

 


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