第294話
セイレスの妹であるセレンが元気いっぱいに手を振ってきてくれた。
そして…………私は、その紙芝居のような光景を一人眺めていた。
冒険者ギルドマスターになる事は出来た。
でも、それは……ユウマという青年にFランク冒険者なのにSランクの依頼書をやらせたから。
本来なら、絶対にやらせてはいけない行為。
でも私には時間が……ギルドマスター代理の資格が消失する前に賭けに出た。
お父さんから、フィンデイカ村から海の港町カレイドスコープに行く際に預かった冒険者ギルドカードと鍵。
それは……。
冒険者ギルドマスターの身に何かがあった時に、代理でギルドを運営できるためのお父さんのカード。
そしてもう一個は、冒険者ギルドの金庫を利用できる鍵。
そう、私は……ユウマを騙していた。
だって、私はただの冒険者ギルドの受付に過ぎないから。
なのに、冒険者ギルドマスターが不在なのに、普通ならギルドを開けておく事はいけない事なのに、私はお父さんとの思い出が無くなるのが嫌で冒険者ギルドを開けていた。
そう、町の為なんて嘘だった。
お父さんの……お父さんとエルフガーデンから出てきて一緒に暮らした冒険者ギルドを守りたかっただけ。
そこに町の人のためとか冒険者の為とかそんな気持ちなんて全然なかった。
私は、何て身勝手で自分勝手なんだろう。
でも仕方ないじゃない!
私は……私は……弟や妹を守らないといけない。
それに、お父さんとの唯一の思いでの場も守りたい。
なら、ネイルド公爵の人間にお金を払ってでも目をつけられないように冒険者ギルドを継続させて何が悪いって言うの!
…………
……
分かってる……。
本当は、分かってる。
こんなものは、もう無くしてしまった思い出を、壊れかけた思い出を大事に布で包んで保管してるだけだって事くらい。
でも、私は……もう、どうしたらいいか分からない。
結局、何もかも守ろうとして何もかも手にいれようとして……私は全てを失ってしまった。
そう結局は、理想に過ぎなかった。
お爺ちゃんがエルフガーデンを改善するために作ろうとして失敗した冒険者ギルドの立て直しを、お父さんやセイレスと一緒にしようとした事。
そして、ハーフエルフだからと迫害されないようにと、何とかしようとした事。
でも何もできなかった。
結局、私一人じゃ何もできなかった。
私は最低だ……。
こんな私に価値なんて……。
「リネラス! リネラス!」
突然、私の名前を呼ぶ声が聞こえる。
この声は……。
ゆっくりと意識が……。
そこで、誰かが私の手を握ってきた。
うっすらと開いている瞼から私は――。
「――リネラス、最後に会えてよかった」
どこかで聞いた声、でも懐かしい声を聞いて私は意識を閉ざした。
何度も体を揺さぶられながら、私はゆっくりと瞼を開けていく。
すると目の前には、イノンとユリカと……そしてユウマが居た。
普段の様子から想像も出来ないほど眉間に皺を寄せて私を心配して何度も私の名前を呼んでくるユウマの手を握ろうとして、私は手の平の中に何かを握ってる事に気がついた。
握り締めていたものは、私がフィンデイカ村から出るときにお父さんから貰った飴玉。
それはお父さんと最後に語ったときに貰った物。
「リネラスさん、大丈夫ですか?」
「うん……大丈夫だよ」
自然と涙がこぼれてくる。
そう……私が中央都市エルダートから帰った時には、すでにお父さんは……。
「ユウマ……」
「ん? ……どうかしたのか?」
「ううん、なんでもない。えっとね……ユウマは、フィンデイカの冒険者ギルドに最初に入ってきてどう思った?」
私の問いかけに、ユウマは少しだけ困った顔を見せて「悪くないと思ったが……」と、だけ答えてきた。
そう、たった一言の言葉。
それだけの言葉で私の気持ちは救われたように感じた。
夢だったかは分からない。
でも手の平の中にある飴を口に含んで舐めると、お父さんに最後に話した時に、もらった飴と同じ味がした。
「――で、何かあったのか?」
ユウマが聞いてくるけど。
「ううん、何もないよ」
そう、ユウマは何かあれば助けてくれるし手伝ってくれる。
文句を言いながらも、何だかんだ言いながらも、でも……その姿は誰かに似ていて……そう、あのユリーシャという少女にとてもよく似ていて……。
だからユウマには、何もないと言う。
きっと彼は無理をしてしまうから、そうだよね……お父さん。
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