第293話
「そうそう、お高くとまっているのよ。あの子のお父さんと祖父はギルドマスターって書いてあったから」
「ええ? そうなんですか? それじゃエリートじゃないですか?」
私を誘ってきた子と、もう一人の子は私の噂話で盛り上がっている。
そして、しばらく話すと2人とも私から離れていった。
立ち去っていく後ろ姿を見ながら私は「はぁ……」と溜息をつく。
市場には行きたい……。
行きたいけど、お金がない。
冒険者ギルドの職員見習いという立ち位置にいる私達は一か月、金貨10枚が支給される。
それで洋服や筆記用具・小物を購入していく。
でも、私にはエルフガーデンで暮らしている妹や弟達を養わないといけない。
だから……余計なお金を使ってる余裕なんてない。
それに冒険者ギルドマスターがエリートと彼女達は言っていたけど、それは間違い。
冒険者ギルドマスターは給料がない。
その変わり、純売上の5%が報酬として支払われる。
つまり……冒険者ギルドマスターは、いっぱい仕事を受注してきて、いい冒険者を発掘して、きちんと依頼を達成して信頼を勝ちとらないといけない。
だから、決してエリートなんかじゃないし努力を続けなければいけないから大変。
祖父は、冒険者ギルドをエルフガーデン内に作り……そして失敗した。
でも、私は……。
「リネラス! 何してるの?」
後ろから肩を叩かれた。
そこには……。
「セイレス……貴女、どうしてって!? セレンまで連れてきたら駄目じゃない!」
目の前にいる女性はセイレス、年齢は成長した私よりも2個年上の16歳。
そして連れてる子はセレン、ハーフエルフ。
「セレンがどうしてもリネラスに会いたいって言ってきたからね」
「もう……」
私は膝をついてセレンと同じ目線になり頭を撫でながら、なけなしのお金で購入した飴を1個だけセレンに上げる。
飴を受け取ったセレンは、そのまま飴を口に含むと口にお中で転がしながら私を見て。
「あまーい! おいしいー!」
「そう? よかった……」
ああ、私の一日に一回の楽しみが……。
でも、この笑顔が見れるならいいかな……。
「そういえばリネラス、聞いた?」
「どうしたの?」
私は膝をついて、セレンの頭を撫でながらセイレスを見ながら問いただす。
「ユゼウ王国の国王が新しい魔法師を王族に加えたらしいわよ」
「そうなの?」
私は首を傾げながら考える
そんな話は、ユゼウ王国では結構あって、優秀な魔法師を血筋に取り入れて王族の血を引く強力な魔法師を国防に当たらせると聞いた事がある。
ユゼウ王国はエルアル大陸でも最も多い3つの迷宮があるからと言われているけど。
「うん、それで名前がねユリーシャって言ってフィンデイカ村から見出されたらしいの」
「お父さんがギルドマスターをしている村……」
その時、何故か出発の時にすれ違った、一人の器に2人分の魔力を持った儚げな、少女の事を私は思い出していた。
それから月日は流れ、私は冒険者ギルドの受付窓口、セイレスは魔法師通信としての試験に合格して中央都市エルダートから出立する事となった。
「リネラス、がんばってね!」
「うん!」
私はセイレスの言葉に頷く。
セイレスの配属先は、セイレスの両親が眠る【海の港町カレイドスコープ】、そして私の配属先は【フィンデイカ村】だった。
実は冒険者ギルドは成績優秀者には、特典が用意されていて主席から3人目までは自分で配属先が決められたりするのだ。
そして、私とセイレスは、配属先をそれぞれ決めた。
「セイレス! 約束忘れてないよね?」
「大丈夫よ! 私が長距離通信魔法師になって……リネラスが冒険者ギルドマスターになったら! 私の両親とリネラスの祖父がやっていたエルフガーデンの冒険者ギルドを開店させるんだものね!」
「うん! それじゃまたねー!」
私は、フィンデイカ行きの帆馬車に乗り込むとセイレスに向けて手を振る。
「おねえちゃ、またねー!」
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