第291話

 そして……私は――。


「もう! お父さんはお部屋から出て言ってよね! 荷物の用意をして明日から【海の港町カレイドスコープ】に試験を受けにいかないといけないんだからっ!」


 私は、木製の椅子から立ち上がると扉ノブを持ち思いっきり閉めた。

 すると廊下側から「顔がー! 顔がー!」と声が聞こえてきたけど、無視することにして大き目のバックに荷物を入れ始める。


 用意は1時間ほどで終わる。


 そして、明日のためにそろそろ寝る事にした。、

 寝巻に着替えるとベッドに入りランプの明かりを消すと室内は暗闇に満たされた。


 明日から一週間かかる旅の始まり。


 【海の港町カレイドスコープ】で年に一回行われる冒険者ギルドの職員の試験を考えながら私は眠りについた。


 ユゼウ王国ネイルド公爵領の北方に位置する村そこは人口1500人程度の村。

 私とお父さんは色々あってエルフガーデンから、引っ越してきた。

 

「本当に大丈夫なのかい?」


 お父さんは相変わらずの心配性。


「大丈夫だよ! 私、冒険者ギルド職員になってエルフガーデンの冒険者ギルドを立て直して皆がきちんと暮らせるようにがんばるから! そしたら、戻れるよね?」

「……そうだな」


 私は、自分の体と同じくらい大きいリュックを背負い、フィンデイカ村の広場に向かう。

 そこで、私と同年代くらいの最近魔法に秀でてきたという女の子とすれ違う。


 私は振り返る。

 エルフの血を引いている私だからこそわかる。

 

「一人なのに……二人分も魔力を持っている?」


 私が首を傾げていると。


「リネラス、馬車が言ってしまうよ」


 フィンデイカ村の冒険者ギルドマスターに任命されたばかりのお父さんが、後ろから走ってきて私の頭の上に手を置くと話してかけてきた。


「うん! 行ってくる!」


 私は、お父さんの言葉に頷く。

 そしてフィンデイカ村と海の港町カレイドスコープの間を行き来する馬車が停まっている噴水前に向かう。

 噴水前には三台の隊商である帆馬車が停まっていた。


 馬車には三台ともアルトリア商会のマーク【鳥の翼】が描かれている。

 アルトリア商会は大陸一の商会で、衣類と食料の輸送を主に取り扱っているらしい。

 どこの町にも均一に商品を提供しているおかげで、どこの町も物価が安定していると前に本に書いてあった。

 

「商会もいいかも……」


 そしたらきっとたくさんお金が入って、妹や弟達にきちんとした洋服とかご飯を食べさせる事ができるかも。

 私はそこまで考えたところでかぶりを振った。


 商会に就職したらエルアル大陸中を商売で回らないといけない。

 魔物もいるのに、そんなのは無理。


「あら? あたなも乗るのかしら?」


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