第289話
「私が、イノンを助けます。それで人を越える魔力を得たとしても、疎まれてもいいです。だって、イノンは私の大事で大切な妹だから。だから……私は……」
私は目の前の場面を見て、手を伸ばす。
伸ばした手はお姉ちゃんの体をすり抜けてしまう。
「ダメ! お姉ちゃん! 私を助けたらきっと後悔するから! 強い力を持ったら、お姉ちゃんは……きっと後悔するから! 駄目だよ!」
目の前の光景に私は必至に叫ぶ。
こんな光景、場面、話し合いを私は何一つ覚えていない。
でも……。
どうして……だか分からないけど……。
気がつけば、空となった部屋の中で私は……私は成長した18歳のイノンとして佇んでいた。
そう、私は……お姉ちゃんに、命を助けられた。
どうして、こんな事を忘れていたんだろう。
どうして、こんな大事な事を知らなかったんだろう。
お姉ちゃんの人生を狂わせたのは全て私だったのに……。
私が全て悪かったのに……。
全て全て私が悪かったのに……。
「イノン!」
一瞬、声が聞こえて私は振り返った。
そこには、私とお姉ちゃんと両親が一緒に食事をして笑いあってる風景が存在していた。
それは、私が倒れたあとの食事の風景。
それは、私の記憶にある。
皆が笑って、食事をしている風景。
その風景は霞んでいき泡となって消えていく。
最後に残ったのは――。
――イノン、幸せになってね。
そんな両親とお姉ちゃんの声が聞こえてきた気がした。
「イノン! イノン!」
声が聞こえた。
そう、私の名前を力強く呼んでくる彼は……。
「ユウマさ……ん?」
ゆっくりと瞼を開ける。
すると、私は抱きおこされるようにしてユウマさんに抱かれていた。
「イノン、大丈夫か? 苦しそうに叫んでいたようだが……」
「苦しそうに?」
私は、ユウマさんに言われて記憶の糸を手繰り寄せる。
でも、記憶を失ってる間の記憶がまるっきり思い出せない。
「イノンさん!? 大丈夫ですか?」
「イノン?」
ユリカさんとユウマさんが二人とも突然、驚いて私を心配してきた。
一体、どうしたんでしょうか?
何で二人が私の事を心配してるか分からない。
でも、ユリカさんがハンカチを差し出してきてようやく私は理解した。
私はいつの間にか泣いていた。
どうしてか分からない。
でも次から次へと涙が溢れてきて止まらない。
「わ、私……何か大切な事を……忘れていた気が……します……」
私の言葉を聞いたユウマさんとユリカさんは、私が泣きやむまで待っていてくれた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます