第230話

「イノン、あまり相手の弱みにつけこんだ事をするんじゃないぞ?」


 俺はため息をつきながらイノンの頭を軽く撫でる。

 するとイノンは驚いた顔をして俺を見て来た。


「え? もしかして……ユウマさん、昨日の夜の事に気がついて?」


 俺はイノンの言葉に頷く。

 するとイノンは、顔を真っ青にしていく。


「ち、違うんです! あれは言葉の綾というかそんな感じなんです!」

「それでもだ。俺達は一緒に旅をしている仲間なんだ。ああいう風に仲間の弱みに付け込んで交渉するのは良くないし、それにイノンもいいとは思っていないだろう?」


 俺の言葉にイノンは顔を伏せる。

 俺は続けて言葉を話す。


「仲間なんだから、その辺はきちんとしないとな。俺は、イノンが本当は良い奴だって知ってるから」

「ユウマさん……私……」


 イノンが涙を零しながら言葉を紡ごうとしたところで――。


「おはようユウマ。今日もいい天気ね!」


 リネラスが、冒険者ギルドの青い色を基調としたスーツを身にまとい姿を現した。

 冒険者ギルドの制服を着たリネラスが、食堂兼酒場の椅子に腰を下ろす。

 俺は前から気になっていた事をリネラスに聞く事にする。


「なあ、リネラス。どうして、イノンの宿屋が次々と拡張されていくんだ?」

「えっと、それはね……私も良くは知らないんだけど……冒険者ギルドの建物になった場所は自動的に所属人数で拡張されていくみたい」

「お前も知らないのかよ! それと所属人数に応じて拡張されていくとかイノンは何もないのか?」


 俺は、イノンの方へ視線を向ける。

 するとイノンは慌てて俺から目を背ける。

 その頬は若干、赤く染まっているように思える。


「ま、まぁ……リネラスさんのおかげでこういう関係になっているわけですし、そこまで言う事でもないです」

「はぁ……イノンも人がいいな。両親の形見の宿屋なんだから、駄目な処は駄目ときちんと言わないと駄目だぞ?」


 まったく、こんな性格で世の中を渡っていけるのか心配になってしまうな。

 きっとリネラスが悪影響を与えているのだろう。

 俺が一人、考えていると。


「リネラスさん……昨日の夜の事がユウマさんにバレていました」


 リネラスは、テーブルの上に置かれているポットからお茶をカップに注いで飲んでいると突然蒸せたのか何度も咳をしている。

 そして、落ちついたところでリネラスはイノンの顔を見ると。


「――え?それってアレでアレなやつ?」

「はい、アレでアレな奴です」


 イノンの言葉を聞いたリネラスは、顔を青くして俺を見てくる。

 俺は溜息をつきながら。


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