第210話

 俺は、石で作られた壁に体を預けたまま、ゆっくりと床に座りこんだ。


「右手切断、大腿筋断裂、腹部損傷、左手骨折、胸部裂傷か……。これまで、どれだけ魔法に頼っていたか分かるな」


 俺は一人呟きながら自分の体を見る。

 服は、あちらこちら破けており、服の意味を成していない。

 

 しばらくして肉体の再生が終わったのを確認すると、俺はまた迷宮を歩きだす。

 1階層にいるのは半漁人ばかりで槍を突くか投擲するかの2パータンで攻撃が構成されているのが分かってきた。

 俺は横に移動しながら最小の動きで攻撃を躱す。

 そしてかわしきれないのは体に突き刺さる。

 そして【肉体再生】の魔法で強靭な肉体へと再生させていく。

 それをただ、愚直に繰り返す。


 何時間経過したのだろうか?

 俺は疲労感に襲われながらも、修練を続ける。


 そして、下の階層に降りる階段を見つけたところで休むことにした。

 壁を、魔法で崩し中に小部屋を作り中に入った後、入り口を【土壁生成】の魔法を使い塞ぐ。

 中の小部屋の壁に背中を預けながら、俺は、この迷宮に入ってからの初めての休みを取った。


 どのくらい寝たかは分からないが体調はある程度、回復している。

 俺は次の階層に続く階段を降りていく。

 通路の広さこそ1階層と変わりなかったが3メートルを越す蟹がいた。

 海の港町カレイドスコープを襲ってきた蟹と同種だと思う。


「そういえば食事がまだだったな?」


 俺は襲い掛かる蟹に視線を向ける。

 とりあえず……こいつは、焼けば食えるのか?

 俺と視線が合った蟹が逃げ出そうとしたので走って退路を断つ。


「知らなかったのか? 魔王ユウマからは逃げられない」


 退路を立たれた事でパニックに陥って体当たりしてきた蟹を受け止める。

 そして思いっきり蟹の腹部を殴りつける。

 コブシと腕が折れる音が聞こえてくるが、無視しながら殴り続けると甲羅を貫通した。


 蟹の魔物は聞こえない音で鳴く。

 俺は、蟹の中で【炎】の魔法を発動させる。

 ただの分子運動からの熱エネルギーで炎を生み出しただけが。

 蟹は内側から炎で焼きつくさていき、迷宮内には香ばしい良いにおいが立ち込めた。


 そこで俺は腕を蟹から抜く。


「はぁ……」


 よく見ると、自分の腕が炭化しており、骨が剥き出しになっている。

 そして発動していた【肉体再生】の魔法の影響ですぐに肉が盛り上がり腕が再生した。

 そして蟹を食べながら、力任せでは駄目だなと考える。

 もっと効率よく魔法を使えるようにしないといけない。

 魔力を変質させて風の対流を利用することで上手く出来ない物だろうか?


 俺は右手に微細な粒子を纏わせ空気を振動させる。

 そしてそのまま壁を撫でるとスッと迷宮の壁に切れ込みが入った。

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