第192話

 ――1時間後。


 俺達は、クルド公爵邸に唯一残った帆馬車に乗り込むと、俺が従者となり帆馬車を走らせ始めた。

 走り始めてからある程度、距離を取った所で従者席の隣に座っているリネラスが。


「ユウマ、お願いがあります。このクルド公爵邸ごと全てを燃やし尽くす事は可能ですか?」


「可能だがどうするつもりだ?」


 現代科学は、物質の破壊に特化した技術と知識だ。

 戦争を下敷きに作られてきたのだからそれは仕方ない。

 それに俺の漢字魔法も現代科学の応用にすぎないからこそ破壊に特化している。


「クルド公爵邸を破壊しましょう。出来れば全てを灰にしてください。このような場所を、港町カレイドスコープだけではなく多くの住民に知られたら大変なことになります」


 リネラスの言葉に俺は確かにな思う。

 地下牢と地下室の話が広がってしまえば、問題になるだろう。

 仇を取るために、貴族に剣を向ける者も出てくるだろう。


「……分かった。ついでに聞いておくが、それは私怨か? それともギルドマスターとしての判断か?」

「ギルドマスターとしての判断であり命令です。このような暗部を町の方々が知ればパニックになるでしょう。ですから破壊してください」

「貴族がこう言う事をしていたという証拠も消えるがいいのか?」


 俺の言葉にリネラスは頷いてくる。


「……分かった」


 俺は帆馬車を馬の手綱を引いてから帆馬車を停止させる。


「本当にいいんだな?」

「はい! 完全に破壊してください! それに……冒険者ギルドに喧嘩を売ればどうなるのかを知らしめる必要があります! それにあれだけの事をした貴族への牽制にもなります」

「……分かった」


 俺はリネラスに言葉を返すと。

 クルド公爵邸の上空に100個を超える30メートル級の火球を作り出す。

 そしてそれを全てクルド公爵邸に降らせていく。

 すぐにクルド公爵邸は大火に包みこまれる。

 

 俺は終わったかと思うと遠くから蹄の音が聞こえてくる。

 蹄の音が聞こえてきた方角へ視線を向けると万を越す軍が、クルド公爵邸目がけて進行している。


「リネラス、厄介な事も巻き込まれる前に戻るぞ?」

「うん」


 俺はリネラスの言葉を聞くと、馬の手綱を振りおろして、海の港町カレイドスコープに向けて帆馬車を走らせ始めた。



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