第191話
「しかし、ひどいものだな」
俺はリネラスとセイレスをそのままにして地下を見て回っていくが、ハッキリ言って正気とは思えない内容ばかりであった。
溜息をつきながらリネラスの所へ戻ると、リネラスが駆け寄ってきた。
「大変なの! ユウマ!」
「ん? どうしたんだ?」
俺は、リネラスの様子から只事ではないと思いセイレスに近づくが、どこにもおかしな様子は見受けられない。
「ユウマ! セイレスが言葉を話せないみたいなの!」
「言葉を?」
「うん! ユウマ、回復魔法を!」
リネラスは俺の回復魔法というか肉体修復が万能だと思っているが実際、そんな事はない。俺は、地球人の肉体を基準に細胞修復を行っているだけに過ぎないのだ。
つまり回復魔法に見えるが、中身は回復魔法ではない。
物理、化学に沿った魔法に過ぎない。
何故なら細胞分裂、テロメアの追加、細胞増殖を行っているだけなのだから。
万能でもなんでもない。
だから毒などには、魔法は効かないし神経毒で体が動かなくなったは、そもそも俺に抗体が無かったに過ぎないだけだ。
「いや、俺の回復魔法では、これが限界だ。それに酷い扱いをされた場合、言葉が一時的に話せなくなると聞いたことがある。そういう物であったら、俺にはますますお手上げだ」
「そ、そんな……」
リネラスが座り込んで落ち込んでいると、セイレスが床に何か文字を書き始めた。
「助けてくれてありがとうか」
俺は床にカタカナで書かれた文字を読んでからセイレスの美しい紫の瞳を見た。
セイレスは何度も頷くと床に指を這わせていく。
「妹も助けてくれてありがとう……か」
セイレスは俺の手を握って何度も振ってくる。
これが彼女なりの感謝の証なのだろう。
――なら、あまり悲嘆に暮れているのはよくないな。
「リネラス、まずはクルド公爵邸を出るぞ! 落ち込むのはそれからでいい!」
俺はセイレスの妹であるセレンを背負った後、両手でセイレスをお姫様だっこで抱き上げた。
そしてリネラスは――。
「別にいいですけどね……ユウマが私を抱きあげなくても……」
「お前な……セレンは9歳だぞ?しかも意識を失っているし。それにセイレスもずっと牢屋で暮らしてから歩くのが辛いはずだからな」
「うーっ、わかりました!」
そして、俺とリネラスは救出したセイレスとセレンを連れて噴水の出口から出る。
「なあ?クルド公爵邸は、公爵家だから馬車があるんじゃないか?」
「でも……」
リネラスの言いたいことは分かる。
きっと馬車は無いと言いたいのだろう。
だが、4人もいる状態でさすがに高速移動は不可能だ。
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