第186話

 俺は左右に移動しながら矢を避け続ける。

 そしてリネラスと言えば必死に両手で口元を押さえている。 

 矢を全てかわし切ったところで、俺を見て兵士達が驚愕の眼差しで見てくるのを見ながら【風刃】の魔法を発動させ、真空の刃で全ての兵士を殲滅した。


 後からクルド公爵邸から出てきた兵士達は、俺が倒した兵士達の数を見て顔を青くして逃げ始めた。

 俺は一息つきながらリネラスを地面に下ろす。


「ユウマは、躊躇がないですね、うっぷ……おろろろろろろ」

「話すか吐くかどっちかにしろ」

 

 相手が武器を持ち、殺意をもって攻撃を先に行ってきたのだ。

 なら、こっちも礼儀に沿ってやり返したに過ぎないし、そこに慈悲はない。


 吐いたからなのか多少は顔色が良くなったリネラスを連れた、【探索】の魔法で調べた際におかしいと感じた場所へと向かう。

 

「ここだな……」


 俺は一人呟きながら、部屋の扉を開ける。そこは執務室らしく大きな机が置かれている。そして人が一人、倒れていた。

 最初に、クルド公爵邸に接近した時は、動かない二人の存在を感知していたと言うのに、戦っている最中に一人の存在が消えたのだ。

 俺が倒した訳でもないのに、存在が消えた。

 どう考えてもおかしい事、この上なかった。

 倒れている人間は、質のいい服を着ている。

 その事から身分の高い人間――クルド公爵と判断がつく。


 ただ、もう一人の判断がつかない。


「これは、これは……招かざる客ですかね?」


 男の言葉を聞いた瞬間――俺は初めて戦慄を覚えた。




------------------------- 第78部分開始 -------------------------

【サブタイトル】

激戦! クルド公爵邸(後編)


【本文】

「リネラス!絶対に離れるなよ!」

「え?」


 突然の事にリネラスは小さく声をあげるが、俺はリネラスの腕を掴むと、その体を引きよせて抱き締め【身体強化】の魔法を発動させて俺とリネラスの細胞を強化すると同時に【風爆】の魔法を発動させる。

 原子運動により膨張した大気が、執務室を吹き飛ばすと同時に迫りくる爆風から身を守るように俺は廊下の窓ガラスを家破り中庭に移動した。


「ほう? あなたですか? クルド公爵に弓を引いた人間というのは……」


 俺は、声がした方向へ視線を向ける。

 そこには無傷の黒い衣装を纏う無傷の男が立っていた。

 顔は白い仮面をつけており、先ほどまでの西洋人風の姿を見る事は出来ないが、その威圧感から執務室で俺に戦慄を感じさせた男というのが痛いほど分かる。


「弓を引いたなら……どうなんだ?」

「いえ……ですが……貴方は魔法を発動させるときに触媒や魔法陣、詠唱は使ってないようですね?」

 

 俺は男と話ながらリネラスと地面の上に下ろすと、リネラスから離れる。


「さあな?」

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