第四章2

第185話

「見えた。あれがそうか?」

「うん、だと思うけど! って? どうして? どうして、こんなに距離が離れているのにハッキリとクルド公爵邸が見えるの? ま、まさか! ユウマの魔法なの?」

 

 俺は、リネラスの問いかけに頷く。

 ようやくリネラスは、俺の【身体強化】の魔法が自分自身にも及んでいる事に気がついたようだ。

 俺は前方に視線を向けながら、その場で地面を蹴りつけると横に飛ぶ。

 そして数瞬遅れて、俺が立っていた場所に矢が突き刺さり地面が爆ぜる。


 すでに矢の弾道方位と速度は判明しており問題なく避ける事が出来るし視認できるこの距離まで来れば、直接相手の攻撃を見て避けることが可能だ。

 俺は、【探索】の魔法が感知した攻撃の方角へと視線を向ける。

 すると、公爵邸の建物――屋根上に3人の男達が立っているのを見つけた。

 おそらく、あれが元Sランク冒険者の地獄の3魔人なのだろう。


「ユウマ! あれ見て!」

「大丈夫だ! わかっている」


 俺は走りながら、リネラスが声をあげた方へ視線を向ける。

 3人の男のうち一際体格の良い男は、俺を睨みつけて来ると空間から無数の槍を生み出していくと一斉に俺に向かって射出してきた。


 その数は、軽く百を超えている。


 俺は【身体強化】の魔法を維持し走ったまま、物体を振動させる事象を頭の中で想像し組み立てていく。

 そして飛来してきた槍の全てを魔法で物質ごと全て粉砕する。

 塵となった無数の槍が一瞬、俺とリネラスの体を覆い隠す。 


 さらに、空間を振動させ気体を膨張させる事で辺り一面を吹き飛ばすために科学魔法式を頭の中で組み立てる。

 そして【風爆】の魔法を発動。

 発動した魔法は、瞬時に俺が指定した座標で、気体を急激に膨張させ3人の男達が立っていた場所を根こそぎ吹き飛ばし同時に【探索】の魔法MAPからも3人の表示が消失する。


「リネラス、このまま屋敷に突入するぞ!」

「まって! 急に停止したから胃の中が! 気持ち悪いから!」


 リネラスが訴えかけてきて顔が真っ青だが、それは我慢してもらうとしよう。

 数百人の兵士達が、クルド公爵邸から俺の方へ向かってくる。


「隊長! アンゼ様、メローゼ様、オルガ様の3名の御姿が見えません!」

「ま、まさかさっきの攻撃で? だ、だが……元Sランク冒険者で地獄の3魔人と言われている方々がそんなに簡単にやられるわけが……くっ!?」


 俺が見ている前で隊長と呼ばれた男は悩んでいたようだが俺が近づくと、覚悟を決めた目を向けてきた。


「全軍、こちらへ向かってきている男に突撃! 弓隊、放て!」


 隊長と呼ばれた男の指示により、一斉に矢が放たれ俺に向かって飛翔してくる。

 俺はその矢を、【身体強化】したまま、横飛びに避ける。


「気持ち悪い……もう、無理……」

「リネラス! 気合入れてがんばってくれ!」


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