第111話

「ああ、死霊の森で行き倒れている所を助けたユウマって言うんだけど……料理人?猟師?よくわかんねーけどそんな所だ」


俺はエルスの適当すぎる紹介に、紹介が適当すぎるだろ!と内心突っ込みながらカークスと言う男を見る。

 カークスという男が、そんな適当な説明で納得するなら俺は何も言わないんだが……。


「エルス。確認だが、エルンベイアとは関係ないんだな?」

「……関係ないんじゃないか? やつらだって死霊の森の怖さは理解しているだろうさ」

「そうか……」 


 エルスから説明を聞いたカークスが、俺を見ながらエルスと話をしている。

 それにしてもエルンベイアか……。

 聞いた事がない単語だな。

 どちらにしても、俺としては大至急と言ってきた男が、こんな所で無駄に時間を浪費している事に焦りを感じてしまうのだが、男は俺を見ているだけで動こうとしない。

 俺は内心、溜息をつきながら。


「先ほど、村が大変と言っていたが急がなくていいのか?」

「そうだった、エルスすぐに来てくれ」

 

 カークスは、エルスの家から出ていく。

 エルスも外に出ようとした所で、俺に話しかけてくる。


「ユウマ、悪いね。いつもはあんなんじゃないんだよ。きっとユウマが気になっただけなんだよ」


 俺が気になった?

 なるほど……つまりそういうことか。

 ふむ、やはり俺の先ほど思ったことは間違いではなかったのか。

 カークスには極力近づかないようにしよう。

 俺の貞操がやばいからな……。

 まさかあんな優男がそっちの気があるとは……。


「大丈夫だ。エルス!俺にはそっちの気はないからな」

「え?あ…う、うん。ユウマが誤解しているってことは何となくわかった」

「そうか? さっさと村に行った方がいいだろうし、あまり遅れるとカークスって男もいい気はしないだろう」


 俺の言葉にエルスは頷くと家から出ていく。

 エルスの後を俺は追いながら走っていると、どうやら村の中心部に向かっているのが分かる。

 そして畑がある場所で立ち止まると俺は目を何度か瞬かせた。

 昨日まで枯れかけていた麦穂が金色の実を大量に実らせており、穂を重そうに垂らしている。


「やっときたのか?エルス、見てくれ! 今年は飢え死にか仕事を増やすしかなかったが、一晩明けたら村の全ての畑が!枯れていた物も含めて一斉に実っていたんだ」


 一晩でね……。

 俺は麦の穂を触って調べるが特に問題がありそうな感じはしない。

 アライ村と同じように実っているくらいだ。


「それにこれを見てくれ、沼から引いていた用水路の水がこんなに澄んでいるんだ」

「うそっ!?ユウマ、これってもしかして……」


 俺は、エルスの言葉に首を傾げる。


「エルスが何を言いたいのか良くわからないが俺はこの村に来たばかりだぞ?」

「そうだよな……」


 エルスは俺の言葉を簡単に納得してくれた。

 まぁ、一個人が沸き水を生み出す湖を作ったり出来るわけがないと普通は思うからな。


「エルス。その男が何かを出来るほどの力を持っているようには思えない。今、村の何人かが沼を確認しに行っているところだ。もしかしたら土地神様が祝福してくれたのかもしれない」

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