第68話
おどおど怯えている少女に俺は笑いかける。
「俺の名前はユウマ。これからよろしく!」
握手をしようと手を差し出すと手を打ち払われた。
「握手なんてしたくないわ!でも名前だけは教えてあげる。私の名前はリリナよ!覚えておきなさいね!」
いきなりの仕打ちに呆然としていた俺に少女はリリナと名乗ってきた。
それから、数日が過ぎ今日も俺は川へ探検に出かけていた。
4歳の子供が出来る事なんて少ないのだ。
せいぜい手伝えるのは草むしりくらいで、きちんと手入れをした畑にはめったに草は生えない。
なので午前中は草むしりをして教会の書物を読もうとして追い出されて山でキノコでも採ろうと入ったらウリボウに追いかけられるくらいしかやることがないのだ。
それで暇になったら川に来て、以前とは違った魔法である『ウォーターボール』と叫びながら、小石を思いっきり川に投げて水しぶきを立てては一人で遊んでいた。
そんなある日……。
「ねえ?そんな事してて何が楽しいの?」
いつも一人だと思っていた俺に後ろから声がかけられた。
小石を振りかぶったままの姿勢で後ろを振り返る。
そこには、俺のような粗い布地で作られた服とはまったく違う綺麗で細かい布地で作られた服を着こなしている美少女が腕を組んで俺を睨んでいた。
「……えっと……誰だっけ?」
子供の頃の記憶力は良いと誰が言ったのか忘れたが、俺の場合は子供の体に精神が引きずられて極端に記憶力が悪くなっていた。
そんな俺の言葉に少女は顔を真っ赤にしていく。
「だから田舎者は嫌いなのよ!そんなに元から住んでた人が偉いの!?」
少女は叫ぶと両腕を投球フォームのままだった無防備の俺の腹を殴った後、そのまま走り去って行ってしまった。
そして俺はと言えば、モロに鳩尾を打たれた事もありその場で崩れ落ちた。
俺が痛みで呼吸が出来ずに地面の上に横になっていると、動物らしきモノが近寄ってきた。
視線を向けると、それはキツネだった。
キツネは人には近寄ってこない。
そんなキツネは俺が動かないのを見ると何を考えたのか俺の顔の前で片足を上げてきた。
そこでようやく俺はコイツが何をしたいのか理解する。
「おい!やめろ!!」
俺の抗議の声にキツネは無言で……。
「お帰りなさい、ユウマ!どうしたの!?」
母親が、びしょ濡れの俺を見て驚いている。
「……ちょっと川で魚を取ろうとしてね……」
まさかキツネにおしっこを引っ掛けられて川で体を洗ってたなんて言えない!
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