第60話
「ヤンクルさん、やはり自宅に一度戻って休んできてください。ひどい顔していますよ?」
「そうか?私としてはそこまでとは思わないけど?」
俺はヤンクルさんの言葉に頭を振る。
本当すごいから、真っ白な顔しているから。
「大丈夫です、それにすぐ行動に移すと決めた訳ではありませんから。休むのも冒険者の仕事だとヤンクルさんも言っていたじゃないですか?」
「分かったよ。あまり無理はしないようにね」
ヤンクルさんはそれだけ言うと自分の家の方角へ歩いていった。
「ユウマ。あの男は元、冒険者であったのだろう?見張りくらいでどうしてあれだけ疲れているのだ?」
不思議そうにエメラダ様が聞いてくる。
俺は、エメラダ様を見ながら
「エメラダ様、魔法でウラヌ十字軍の動向を調べる事が出来る俺とヤンクルさんでは疲労度蓄積速度が違いますから」
「そうか……ユウマは、色々と一般魔法の常識からかけ離れているのだな」
エメラダ様はどうやら納得してくれたようなので俺は話を進めることにする。
「エメラダ様、見ていただいた方が早いと思いますので付いて来てもらえますか?」
俺の言葉にエメラダ様は頷いてくる。
「分かった。何やら深刻な様子だ。すぐに向かおう」
俺はエメラダ様を連れて町の北側の塀に辿りつく。
そしてエメラダ様を抱きかかえると、《身体強化》の魔法を発動させる
魔法発動後に50メートル近く飛ぶ。
そして内側の堀を越えた壁の上に降り立つ。
「―――ッツ!?こ、これは!?」
目の前に広がる数千人の陣地を見てエメラダ様は驚きを隠せない声を出していた。
「……ま、まさか……こ、こんな………こんな馬鹿な!?まさか!停戦条約を無視して我らが領土に不法侵攻してきたというのか?これを国王陛下が聞けば間違いなく戦争になるぞ!」
エメラダ様は全身から怒りの感情を滲ませている。
体が震えているからなのか甲冑からも小さい金属音が鳴っていて、怒っている事が容易に理解出来てしまう。
そして出来れば、俺には八つ当たりして欲しくないなと思った。
「ユウマ!」
「はいいいいい!」
エメラダ様の怒りを滲ませた声を聞いて直立不動の体勢を取る。
これあれだろ?軍隊で上官がイラッてしたときに歯を食いしばれって殴ってくるようなもんだろ?
あまり痛くしてほしくないな。
リリナとか内臓を殴ってくるからな……。
目を閉じて待っているが、痛みは襲ってこない。
瞼を開くと、そこには必死に怒りを抑えながら考えごとをしているエメラダ様の姿があった。
そして俺の肩に手を置くとエメラダ様は語りかけてきた。
「ユウマ。お父様へ現状を報告しなければならない。遠くと話ができる魔法は使えるか?」
遠くと話が出来る魔法ね……。
それって友達がいる奴が使う物だろ?
俺とかずっと友達いなかったし、魔法が使えるのを吹聴してなかったから、練習も出来なかったし手伝ってくれる人もいなかったから使えないぞ?
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