第57話

内側の掘の水の流れを完全に停止させることが出来た頃には、すでに深夜帯を過ぎていた。

 エメラダ様が言っていた魔法を発動させる魔力という単語。

 魔力が回復したことで常時発動できるようになった《探索》の魔法が後ろから近づいてきてい人間の存在を俺に教えてくれている。

 振り返るとそこには、騎士の鎧を着込んだエメラダ様が立っていた。

 すると――。


「信じられん事だが、かなりの魔力が回復したようだな?」

 ――エメラダ様は俺に語りかけてきた。

 フルフェイスのナイトバイザーで頭を覆っているせいかエメラダ様の表情が見る事ができない。

 先ほど、エメラダ様と分かれた時に交わした言葉を思い出す。

 正直、先ほど頭を踏みつけられた事と無理な話を振ったこともあり気まずい。

 俺は、なるべく心の内の動揺を悟られないように気持ちを抑えて言葉を紡ぐ。


「はい、かなりの魔力が回復しました。これも全部、エメラダ様のおかげです」

 俺の言葉に。


「……う、うむ……」

 どうやら、エメラダ様も先ほどの俺とのやり取りを思い出してくれていて気まずいと感じているようだ。

 どうしたものか……。


「……」

 エメラダ様が無言になってしまったので俺も無言になってしまった。

 相手の顔が見えないと話しづらいな。

 こう話の取っ掛かりが掴めないというか何と言うか。


「エメラダ様、失礼を重々承知しておりますが一つ宜しいでしょうか?」


「―――な、なな、なんだ?言ってみろ。平民」

 平民呼ばわりされてしまった。

 これって、もしかしてかなり怒っていらっしゃるのでは?

 やっぱり一介の庶民が貴族に何か言ったらいけないとかあるんじゃなかろうか?


「いえ、特に何にもないです」

 俺は立ち上がり歩き出そうとすると腕を捕まれた。

 しかもすごい力で掴んでくる。

 金属部分が皮膚に減り込んですげー痛い。


「用件を聞こうじゃないか!」


「いえ、やっぱりなんでもないです」


「―――用件を言わないのか?そうか……」

 俺の腕を掴んではいない開いている右手でエメラダ様は、器用に腰のサーベルを抜こうとしてって!?半分まで抜いている!


「言います!言わせてください!」

 怖いわ、この人。

 あれだな、お話しようよと言いながら暴力振るってくるタイプの人だな。

 極力、怒らせないようにしないと俺の首が飛んじゃう。


「ふむ、それで何を言いたかったのだ?」

 エメラダ様は、腰の鞘にサーベルを戻しながら俺に聞いてくる。

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