第54話

「でも、ユウマ君!そんなに疲れている顔をしているのに……そんな言葉聞けないよ!」

 リリナが涙目で俺に語りかけてくる。

 だが。相手は侯爵令嬢だ。

 ゴタゴタすると後が問題になりそうだ。

 今は、分かってもらいたい。

 俺はリリナの隣にいるフイッシュさんへ視線を向ける。

 そして。フイッシュさんは、俺の視線に気が付いたようで頷いて来た。


「リリナ君、私達は一度ここから離れよう。イルスーカ侯爵様の騎士団は他の領地の騎士のように無暗に平民に手を上げることや暴力を振るうことはない。ここは、私達が無理にいるほうがユウマ君に迷惑がかかるから、離れよう」

 フイッシュさんの言葉に、リリナが唇を噛みしめている。

 動こうとしないリリナの肩に、フイッシュさんは手を置く。

 そして、頷きながら何度も振り向いて俺たちから離れていった。


「エメラダ様、少しいいでしょうか?」

 俺とリリナの間に立っていたエメラダ様に声をかける。


「どうかしたのか?」


「実は、外部からの敵を防いでいますので、俺達が通ってきた橋を壊しておきたいと思います」

 俺の言葉にエメラダ様は頷きながら――。


「そうだな、ウラヌス十字軍が布陣しているのなら必要な措置だな」

 ――許可を出してきた。 

 許可をもらった俺は、なけなしの力を使い《橋破壊》の魔法を発動させる。

 それにより、俺が土で作り出した橋が崩壊していくと同時に、意識を失いかける。

 体中から力が抜け倒れかけた所で、エメラダ様に体を支えられた。


 倒れた体を支えてもらったエメラダ様の方を見る。

 兜をつけていたエメラダ様の表情を窺う事はできない。

 おそらく、余計な負担をかけさせた事で印象を悪くさせたかもしれないな。

 そんな風に思っている俺に彼女は……。


「ユウマ、掘りが2重になっているのは理解したが、内堀の水を動かすのは止めたほうがいいのではないか?これは持続魔法だろう?これだけの大規模な魔法を持続していたら魔力がすぐに枯渇してしまうのではないのか?」

 




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