R ポストイット

 ポストイット。弱い糊が付けられた小さな紙片で、メモ書きをノートやモニタなどに貼り付けるための文房具だ。

 もともとは貼り付けた紙片のことを指していた言葉だったが、糊の付けられた製品が出てきてからはこちらを指す言葉に変化した。

 その誕生の経緯はたまたま弱い接着剤ができて、たまたま栞に接着剤をつけて固定したい人がいた、という偶然が重なった結果である。

 日常的に利用されるモノが変なきっかけで生まれている、ということはよくある話だ。


 今回はそのポストイットが出てきた話だ。

























 山脈での調査を行っているサメ機巧天使シャークマシンエンジェルが、何やら胡散臭い連中を見つけた。

 黒ずくめで体に縛り付けて固定しているような衣服を纏った何やら怪しげな一団だ。


 しかも顔まで布で覆っていて、その布にはなにやら紋章のような物が入っている。

 それに山脈の洞窟を改造して複数人で住んでいるようで、時々狩りにでてモンスターを集めているようなのだ。


 胡散臭い。

 絶対胡散臭い。

 なにやらやたら胡散臭い宗教の匂いがする。


 いや、普通の宗教の調査部門の集まり、ならまあいい。

 これが社会的に排斥されているような危険な宗教集団だったら……だったら……。


 うん?

 その場合どうすれば良いんだ?

 別に私達は正義の味方ではないし、彼らがいるのは街から遠く離れた山奥だ。

 彼らなりに社会に適応して生活している結果がここにいることなのかも知れないわけで。


 そう、関係ないはずだ。

 彼らがモンスターに魔法陣が張り巡らされた首輪をつけて従えているとか、吸うと気持ちよくなるお薬を作っているとか、せっせと何かの儀式の準備をしているとか、まあ関係ないはずだ。


 彼らは私たちには関係ないはずなのでガチャを回そう。


 R・ポストイット


 出現したのはポストイットだった。

 黄色い付箋で、長さが5センチメートル程度のもの。

 幅は1センチメートルくらいか?

 付箋としてもだいぶ小さい部類だ。


 ポストイット。

 大体変な効果がありそうである。

 多分効果を発揮するには貼り付ける必要があるのだと思うが……。


 そう思って、テーブルにポストイットを貼り付けてみた。

 なんか接着剤が弱い気がする。

 貼り付けているのに風が吹けば剥がれてしまいそうだ。


 で……効果の程は。

 何も変化していない。


 触ってみても叩いてみても反応がない。

 と、いうことは何かを書き込まないといけないんだろうか。


 そう思ってポストイットに「あたたかい」と書いてみた。

 まるで缶ジュースである。


 書き込んだ途端、テーブルがポカポカしはじめた。

 こたつの中の空気と同じぐらい、テーブルが暖かくなっているのである。


 うわー。

 案の定というかなんというか。

 兄が悪用しそうな効果である。


 しかし……このヘタらせたポストイット並の接着力しかないこれで悪用出来るかな。

 多分ムリだな。























 後日。兄はサメ機巧天使シャークマシンエンジェルの装甲の隙間にポストイットを仕込ませた。

 貼り付けたポストイットを剥がれないように装甲で固定したのだ。


 実験として貼り付けられたポストイットは「やわらかい」と書かれたもの。

 それによってサメ機巧天使シャークマシンエンジェルの見た目からは想像できない柔軟性を発揮し、2メートル超えの巨躯を壁の隙間に滑り込ませるパフォーマンスを行ったのだ。

 まるで猫のようである。


 剥がれるかも知れないなら……固定してしまえばいい。

 まあ兄らしい強引な解法である。

 ボンドを塗って固定するのも試したが、異常なほど接着力が落ちたのであえなくボツとなった。

 あくまで弱い接着力でくっついている必要があるらしい。


 で……兄はポストイット片手に、どうするか考えあぐねている。

 貼り付けるに足る言葉が思いつかないらしい。

 別になんでもいいだろそこはァ!?

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