配布SR 疎通の指輪

 意思疎通。言葉を交わしその意思を伝え合うことである。

 異世界召喚ものの小説では、元の言語に関わらず現地の言語に何らかの手段で適応し、意思疎通を可能とする。

 何らかの魔法で言語が自動で翻訳される、脳に直接言語をインストールする、言葉に乗せられた意志を直接相手に届ける、特別なスキルによってあらゆる言語を理解する、などだ。

 これによって言葉の壁を乗り越える。

 言語の壁は分厚い壁であるため、シナリオで大きなウエイトをしめてしまう。

 それを主軸にした作品でない限り、邪魔でしか無いのだ。


 今回はその意思疎通のための景品が出てきた話だ。





















 私は兄から回収した戦闘用全身義体in第三の手の操作練習をしていた。

 新ガチャ大陸には、地球の人工衛星からの観測で人工的な構造物があることがわかっている。

 つまりはそこになにかしらの文明社会が存在するということだ。

 それが人型の生物かはわからないが……。


 そして、知的生物がいるということは、だ。

 これから兄が迷惑をかける可能性がある。

 これから数多くのサメ機巧天使シャークマシンエンジェルをけしかけ、相手の文明に余計な影響を及ぼすことだろう。


 それが英雄か悪人か、はたまた怪物として排斥されるか、それがどれかはわからないが1つだけわかることがある。

 兄のことだから絶対配慮が足りない。


 いや、配慮しているかもしれないがズレているのだ。

 基本的に慎重さが足りない。


 なので、現地の情報を集めやすいように私も自由に動かせる駒を用意しようと全身義体の操作の練習をしているわけだ。

 これがあれば兄が暴走することもなくなるのでは、と。


 そう思って練習していると、ガチャが異音を立て始める。

 今日はホラー風の悲鳴だ。

 これ私だけに聞こえているから良いもの、他の人に聞こえていたら良いご近所迷惑である。

 ガチャを黙らせるためにヒヒイロカネのコインを投入し、ハンドルを回す。

 出現したのは「配布」と書かれたカプセル。

 うわ……。


 配布SR・疎通の指輪


 出現したのは指輪だ。

 青い小さな宝石の嵌められたシンプルなデザインで、どのような服にも合いそうである。

 が……指輪はどうでもいい。


 配布SRってなんだよ!

 ソシャゲか!

 しかもガチャを回して出てきてるんだから配布でもなんでもねえ!


 配布レアというのはソシャゲのイベントなどの報酬で貰えることのあるレアリティのことだ。

 大体は最高レアの一段階下のレアリティの物が配布される。

 最高レアの場合もある。


 その共通した特徴と言えば……やはりガチャからは出てこないというところだろう。

 そりゃそうだ。

 イベントの目玉として用意しているんだから、ガチャから出てきては意味がない。


 で。

 なんでお前はガチャから出てきてるんだ!

 しかも出てきたのはこれから必要になるであろう、言葉の壁を乗り越えるための装備。

 なにかガチャに見透かされて足元を見られているような気がする。


 めちゃくちゃ便利なのは一目でわかるけどさぁ。

 こう、あのガチャから感のあるこれにはあまりいい印象を抱かない。


 指輪の効果の確認はネット配信サービスで洋画を見るだけで済ませた。

 原語がそのまま理解できるのってだいぶやばいなこれ。

 なぜかその言葉の完璧に意味が理解できてしまう。

 スラングなどにも対応しているせいか、言葉と同時に文化背景までまとめて理解させてくるから脳が疲れるのが難点ではある。


 便利だからなんか余計むかつくな……なんだよ配布って!


























 後日。兄が、疎通の指輪を使って魔法言語を理解した。

 だいぶ前に出た咽喉マイク型の景品である「R・声」で発声したあの魔法原語だ。

 ケイ素生命体の遺失古語であり、どうも力ある言葉形式の魔法のようなのだが。


 兄は疎通の指輪を使って、強引にその言語を理解しにかかったのだ。

 言語の文化背景までまとめて理解する仕様上、魔法言語ならばその使い方までまとめて理解できてしまう。

 ノーライフキングのリチャードさんに教わっても覚えられなかったからって!


 しかもそれをサメ機巧天使シャークマシンエンジェルに覚えさせたからもう大変である。

 発声するだけで使える超技術な魔法を、いくらでも生産できるモンスターが使うのだから。


 まさかそんなところからそんな方法で新しい能力を得るとか、聞いてないよ兄ぃ……。

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