R 死体に貼る御札

 キョンシー。額に御札を貼られた動き回る死体のことである。

 キョンシー自体はきちんと祀られなかった死体がその怨念により動き出したゾンビだ。

 また御札が貼られたもの道士や符呪師などの儀式によって操られているものだ。

 その特徴といえば両手をまっすぐ伸ばした姿だろう。

 これは死後固くなってしまった肉体の関節が曲がらなくなっているためである。


 今回はそのキョンシー用の御札と思しきものが出てきた話だ。


























 発掘ダンジョンの宝箱から出現するものにはやはりと言うべきか共通の世界観、文化が見て取れる。

 一般的にファンタジーのそれだと言ってしまえるだろう。


 魔力を宿した指輪、炎を纏う魔剣、光を放つ盾など、マジックアイテムの数々。

 それに発掘ダンジョンの存在していたと思われる世界の文化が伺えるレリーフや木像、絵皿など。


 どれも現代社会では見つけることは出来ない代物だろう。

 またガチャの地獄めいたランダム世界観物品とは異なる、異なる世界への憧憬のようなものが感じられてロマンがある。


 いやホントガチャのあれは何?

 何を基準に景品を出現させているのかわからないし、どこから持ってきているのかもわからないが、世界観を統一する気が無いのだけははっきりわかる。

 すこしは発掘ダンジョンを見習ってほしいものだ。


 しかも強制的に回させてくるしさぁ……。

 ある日突然出現したのだから、ある日突然姿を消さないだろうか。


 はぁー。

 回すか。


 R・死体に貼る御札


 中華ァァァァァッー!

 ごった煮地獄世界観だって話したばかりで追加の新世界観やめろォ!


 出現したのは映画なんかで見るキョンシーの額に貼られている御札だ。

 黄色い紙に赤い字で何やら複雑な文字が書かれているものが10枚綴りで出現したのだ。


 で、何?

 死体に貼る御札?

 どう見ても貼り付けた対象がキョンシーになるやつじゃねーか。

 たまにRランクでこういう普通のマジックアイテムっぽいのが出てくるが、だいたいおかしなところにおかしな特徴を抱えているから油断ならない。


 というか死体なんて調達できるわけがなかろう。

 さて、どうするか……。


 私はそう考えて冷蔵庫から鮭の切り身を確保してきた。

 冷凍でガッチガチに凍りついているものだ。

 本来であれば明日の夕食になるものだが……。


 私はそっと、凍りついた鮭の切り身に御札を貼り付けた。

 切り身であっても死体は死体。

 これで何も無ければなにも効果がなかったよ、とでも言って焚付にでもするのだが。


 まあ……、そうは上手くはいかない。

 切り身はガタガタを動き出し、私の前で元気に飛び跳ねだした。

 そのガッチガチに凍りついた身体を、振動するモーターかなにかのように振ってだ。


 あっ、泳いだりはしないんだ。

 サメは平気で空を泳いでいたが。


 さて、この私の目の前でビッタンビッタン動いている冷凍鮭の切り身、どうしよう。

 暴れるたびに端から崩れてどんどんぼろぼろになっていくんだが……。


























 後日。兄が発掘ダンジョンで回収してきた骨を組み合わせて遊んでいた。

 訂正。組み合わせた骨に死体に貼る御札を貼ることでなにやら得体のしれないキョンシーを作り出していた。


 兄がダンジョンで回収してきた骨はだいたい特殊なモンスターのもので、後々材料にしようとしていたものばかりだ。

 そのため、完成したキョンシーキメラはあまりにも生物としてかけ離れた姿をしていながら、想像を超えた力を秘めていた。

 硬直して曲がらなくなるような筋肉がないからってフットワークに優れた柔軟な動きをするのは完全にシュールな光景である。

 骨しか無いのに。


 なお切り身キョンシーは兄のおやつになった。

 まさか御札が貼られたままグリルにするとは……。

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