R ゆめみるベッド

 人の人生の3分の1は眠りに支配されている。

 すなわち、人は人生の3分の1を寝床で過ごすということである。

 で、あるならば寝床の質が優れていればいるほど人生の質が優れている、とも言えよう。


 そのために様々な寝具が開発されてきたが、最終的に柔らかな布団に包まれる形が最適なようだ。

 現代では様々な柔らかさの寝具が存在する。

 そしてこれからも様々な素材で実現しようとするだろう。快適な睡眠のために。


 今回はその寝具の一つ、ベッドが出現した話だ。







 魔剣という新たな加工技術を手に入れた結果、大量に余っているヒヒイロカネがものすごい勢いで道具に加工されている。

 現状、最も多いのは農具だ。

 畑を何に使うのかわからない。

 だが、なにかを大切に育てている感じはあるので、兄にとって重要な何かがあるのだろう。

 ただの趣味というわけではなさそうだ。

 ……あのわけのわからない植物を品種改良してるんじゃなかろうな。

 やりかねない。

 とはいえ、そうしていたとしても私は現状維持だ。

 結局口を出さないあたり、私も同罪である。

 まあ良かろう。問題さえ起こさなければ。最も、あの兄はだいたい問題を起こすのだが。


 というわけで、今回のガチャだ。それは開封したと同時にテラスの一角を占拠する。

 フッカフカの布団が乗ったベッドだ。

 美しい木目の木枠にマットレスが乗せられ、あたたかそうな掛け布団がかけられている。


 R・ゆめみるベッド


 どのへんが夢見る、なのか私にはわからないが、とにかくフッカフカなのだ。

 白く分厚いマットレスに体重をかけるとどんどん腕が沈み込んでいく。


 これはきっと寝心地が良いだろう。

 正直今使っているベッドは、少し前に出たクッションに寝心地が負けていてどうにかしたかったのだ。

 いや、あのクッションの無重力感は癖になる、というだけでもある。


 しかし、ガチャ産のベッドだ。これで眠って本当に大丈夫か?

 予想できる効果は、

 1.夢の世界に入り込む

 2.ものすごい熟睡

 3.その逆

 あたりか。名前がゆめみるベッドだから、1の可能性が高い。


 ま、いいか。試せば分かる。

 スリッパを脱いで、そろりと布団の中に入り込む。


 すると、ベッドが浮かび上がった。

 うおおおおお!

 これもクッションと同じか!


 しかも、しかもだ。

 このベッド、浮かんでいる間めちゃくちゃ揺れるのだ。

 まるで荒波の中に浮かぶ小舟の如く。

 あまりに激しい揺れ方に、落ちてしまうのではないかと思うほどだ。

 これは酔う、酔ってしまう、寝れるわけ無いだろ!


 揺れる中から必死で這い出してベッドから飛び降りる。

 打ち付けた背中が痛い。


 どうしてこうなった……。

 ゆめみるって書いてあったんだからそうはならんやろ。


 嬉しいはずの景品が一転粗大ごみに化けたこのがっかり感、どうしてくれようか。

 テラスの一角を盛大に占拠していることも最悪である。

 兄ならなにか思いつくだろうか……。







 後日。兄がベッドを乗りこなしていた。

 何を言っているかわからないと思うが、ベッドに乗って空を飛び回っていたのだからそういうほかない。

 ただ高度自体はそれほどでもない。せいぜい50cmから1mぐらい浮かんでいる、といった程度か。

 反面、ベッドとは思えない速度で飛んでいる。

 ぱっと見、オートバイぐらいの速度が出てるんだが?


 とりあえず速度を落とすことだけ注意して、私はこのベッドのことを記憶の底に投棄することを決めた。

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