R 逆ルームランプ

 人類の文明は明かりを手に入れたことで加速度的に発展した。

 それまで昼しか使えなかった時間を、夜も使えるようになったのだ。

 それによって生産性が大幅に向上し、あらゆる時間が効率的に使えるようになった。

 また暗い闇を照らすことで人の行動範囲は広がった。


 より安全に、より普遍的に進化していった結果、今や夜も人の領域となった。


 ただそれによって8時間労働なる非人道的な習慣が誕生してしまったという罪も存在する。

 常に技術が人を幸せにするとは限らない。ただ、人を救うには技術を発展させるしか無いのだ。


 だから今回はランプが出た話だ。






 実験室内は順調に開発が進んでいる。私の意志を無視して。

 優秀な助手を得た兄は水を得た魚のように凄まじい勢いで村を作っている。

 いつの間にやら森だけでなく畑まで出来ている。


 サメの妖精のシャチくんはまあまあ異常な製作能力を持っていた。

 そのせいでどこかで頭打ちするはずだった開発が加速しているのだ。


 どうやって成長しているのかよくわからない木々を製材し、それを道具に加工して、新たな資源を作り出す。

 そのサイクルが出来上がっている。


 まあそれはいい。部屋にずかずかと入り込まれるぐらいだ。

 それ自体どうかとは思うが実験室が出現する前からやっていたことだ。


 問題は、それに使うためにガチャを回す圧力が増していることだ。

 少しでも開発に役立つアイテムが出てしまえば、あの兄は使い方を思いつき実際に開発に役立ててしまう。

 回したくねぇ~。


 半ば私の意志を無視して回されたガチャから排出されたのはRの白いカプセルだ。

 開封するとともに足元に景品が落ちる。カプセル内にまともに納まってるの見たこと無いな。


 R・逆ルームランプ


 と書かれた紙とともに現れたのは宙に浮くルームランプだ。それも名前の通り逆さまにだ。


 台形のランプシェードを持つ、卓上型ルームランプで大きさは高さ30cmぐらい。

 やや大きいタイプのようだ。


 デザインは普通である。ランプシェードには麻に似た布が張られていて、ランプを支える土台がある。

 逆さまで宙に浮いていなければだたのルームランプだと思っていただろう。


 それが大体胸の高さで浮いている。

 手に持って動かせばその場から動かせるが、高さは固定されているらしく、手を離すとふわふわとした挙動をしながら元の位置まで戻っていく。


 ああ、あとコンセントがない。ルームランプには給電が必要だと思うのだが、それに類する基部が存在しない。

 世の中には充電式のルームランプもありはするが、その場合は充電用のコネクタがある。

 これにはそれすら無い。

 あるのは電源スイッチだけだ。どこから電気を供給しているのか。


 そこまで見て、ようやく電源を入れてみようと思った。

 基本的に関わるとろくなことにならないのだ。あまり触りたくないと思うのは仕方ないだろう。


 そのルームランプの電源スイッチは静電容量式だ。

 簡単に言えば金属部分に触れるだけで電源がオンオフされるタイプのスイッチだ。


 そっと触れる。


 突如、部屋の明かりが消えた。

 窓の外が突然夜になった。


 蛍光灯の明かりはついたまま、部屋の明るさだけが奪われている。

 驚きのあまり、窓を開けて見てしまった。


 開けられた窓だけに、そこに切り取られたかのように昼の光景が広がっている。


 そうか。これは、夜をもたらすルームランプか。

 おそらくこれの効果は一部屋。

 だから開けられた窓の先だけは昼の光景なんだ。


 ええー……。じゃあなんでこれは逆さまに浮いているんだ。機能に何も関係ないじゃないか。

 わけがわからない。


 しかし一部屋限定か。実験室内の家で使えば広い部屋が使える、と思ったが家の中がずっと真っ暗になってしまうな。

 ということは倉庫行きか。仕舞ってしまうにしても浮いてるから邪魔で仕方ない。





 後日。兄がこの逆ルームランプを使って実験室内に夜をもたらしていた。

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