SR NPC(道具屋)

 RPGにおいてキャラクターは2つに分類できる。

 一つはプレイヤーが操ることができるプレイヤー・キャラクター。

 もう一つは、役割を与えられその役割の通りに動くノンプレイヤーキャラクターだ。

 ゲームの高品質化に伴い、ノンプレイヤーキャラクターは反応が多様になってきたが、基本的には役割に従った反応を返すのが仕事だ。

 そしてそれを逸脱することはない。

 逸脱したらきっとバグを起こしているだけだ。


 今回はそのNPCが出た話だ。

 え、意味がわからない? 私もわからない。






 兄が突如宝くじを当選させていた。

 どうこうことかわからないが、何でも3面ダイスとマジック用コインを組み合わせることで、次に起こり得るランダムな出来事の内容を調整する事が可能、だと言っている。

 そんなバカな……と言いたいところだが、実際に当選している宝くじを見せられると頭を抱えたくなる。


 しかし当たっている額面は10万円。たしかに普通には出ないとはいえ、まとめ買いすれば出ないこともないという微妙な線。

 本当に確率操作できるならもっとでかい額面で当ててほしいところだ。


 さて、本日のガチャだ。

 新たに使えるようになったヒヒイロカネ硬貨は、サメ妖精のシャチくんのうちの一体に量産させている。

 これによってほぼ無料でガチャを回せる様になったわけだ。

 そして排出されるヒヒイロカネ製のカプセル。今回は虹色の記号でSRと刻まれている。

 なんというか、材質が変わるのはいいが、記号が表記ブレしてるのどういうことなんだろうな。


 中身は、と。


 SR・NPC(道具屋)


 重量感があったのでテラスで開封したのだが、それは正解だった。

 私の正面に突如、おじさんが出現したのだ。

 恰幅の良い太鼓腹で、人の良さそうな笑顔を浮かべている。


 しかし、だ。このおじさん、極めて奇妙である。

 なぜなら、微動だにしないのだ。

 まるで機械じかけのよう。


 正直、サメ妖精が出現したより面食らっている。

 得体のしれなさで言えば他の景品より群を抜いている。

 しかし、だ。紙にはNPCと書かれている。

 では、このおじさんが、そうなのか?


 おずおずと声をかけてみる。

 すると、そのおじさんは突如電源が入ったかのように、「いらっしゃいませ」と声を上げたのだ。

 い、いらっしゃいませ? どういうことだ?

 疑問を他所に、おじさんはそこから「何をお求めでしょうか」と言葉を継ぐ。


 疑問を投げかけてもその答えは帰ってこない。

 ただその二言を狂ったように(いや、狂っているのだろう)繰り返すだけだ。


 なるほど、NPC。

 手首を取って脈を図ってみるが、ピクリともしていない。

 やはりか。


 これは人の形をした景品だ。

 サメ妖精のシャチくんともまた事情が違う。

 おそらくは生き物ですらないのだ。


 だとすればやることは一つ。

 商品を見せてくれ、だ。







 後日。NPCのおじさんは、ログハウスの端に仮設店舗を配置してそこに収めることになった。

 正直気味が悪いんだよな。

 また商品も同様にガチャから排出されるような理解を拒む物ばかりだった。

 モノフォチウってなに? 

 芋に似ていたから兄が栽培を始めているんだが。

 食った兄いわく芋のアップグレード版、らしいが胡散臭い。

 兄の味覚は微妙に信用がならないのだ。

 なお取引に必要な金は、ヒヒイロカネをNPCのおじさんに売却することで入手した。

 一体ヒヒイロカネがどこに消えているのか、そして商品がどこから出現しているのか。鞄の中はそれらしく膨らんでいるだけで未だ謎である。

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