R クラウドストレージ

 高速のネット回線が普及されるとともに、本体の持つ写真などのデータをより手軽に保存するためのサービスが普及し始めた。

 もとより外部にデータをバックアップするために作られたサービスだったが、スマホとそれに伴う高速回線の組み合わせはそれの需要を大きく拡大した。

 データ共有や、他のクラウドサービスと組み合わせたデータの編集が可能になるなど、クラウドストレージの需要はどんどん大きくなると言えるだろう。


 今回は、それを名乗るなにかが出た話だ。




 今日も今日とてガチャを回す羽目になる。まあ金を受け取っている以上回さないわけにも行かないのだが。言い訳の仕様がない。

 兄はそのへん面倒くさいのだ。

 いつもどおり適当に変造コインで額面をかさ増しして回す。

 白いカプセルのRの文字が書かれたいつものが出てくる。開けると


 R・クラウドストレージ


 と書かれた紙とともに、もこもことした四角い箱がとさっと絨毯の上に落ちた。

 雲をまとめて形を作ったような感じの箱だ。

 手触りもふわふわしている。

 ……なんだこれは。


 重量は軽く、かんたんに持ち上がる。

 振ってみる。

 すると紙が出てきた。

 そこには「クラウドストレージ」の一文。いや、知ってるから。


 わけがわからない。


 その後、小1時間ほどクッション代わりにしていたのだが、不注意からスマホをこの謎のもこもこに落としてしまった。

 するとスマホはもこもこに呑まれるように沈み込んでいく。


 えっ、もしかして雲の箱クラウドストレージ


 腕を突っ込んで中を探る。するとスマホが出てきた。

 それだけではない。なにかもこもこしたものが入っている。

 引っ張ると特に伸びること無く動くので内張りを掴んでいるわけではないみたいだ。


 引っ張り出すと、そこには全く同サイズのもこもこの箱が。

 えー?


 なにか嫌な予感がする。

 ガチャの捨て殻を閉じ、そのカプセルを引っ張り出した箱に押し込む。

 やはり沼に沈み込むようにもこもこの中に入っていく。


 問題はここからだ。直感が正しいとすると……


 ガチャから出てきたもこもこの箱の中からカプセルが出てきた。


 えっ、やっぱこれ中身を共有してるの?


 ということは……やはり、もこもこからもこもこの箱が出てきた。


 これは不味い。無限に増えかねない。

 兄が喜んでしまう。そうしたら私の部屋はこのもこもこで埋まってしまう。


 そっともこもこの箱をガチャから出てきたもこもこの箱に押し込む。

 ずずず、と沈み込むように入っていく。


 よかった、これで片付けられるのか。


 ……中身を共有する箱、か。一人で何に使えるんだ……?




 後日、このもこもこの箱でならガチャを始末……じゃない、片付けられるんじゃないかとかぶせてみた。

 沈み込むところまでは良かったのだが、今度はもこもこが動かせなくなった。

 何が何でも部屋の真ん中に居座るつもりらしい。

 持ち上げるとずるずると顔を出すガチャ筐体に変な声が出そうになったぞ。


 邪魔なガチャがクッションの代わりになるようにはなったからまあよしとしよう。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る