第58話 グリーンヒーロー

 壁から顔を少しだけ出してその光景を見ていた。

 看護師さん達は一区切りに集められており、偶然居合わせた患者さん達も片端から集められていく。


 そして機関銃のような物で天井を撃ちまくってゲラゲラ笑っている、彼等はただの快楽者にすぎないのだと理解した。


 本当に国を変えたいのなら、無駄な弾丸を撃つ必要がないからだ。

 彼等がやらねばならい事は速やかに政府と連絡をして、自分達のそれなりに意味ある主張をしなくてはならない。


 僕は自分の体を信用する事は出来ないが、猛スピードで走るくらいなら出来る、残念な事に時速100キロくらいが限界なはずだ。

 ここに来る時に走って計ってみたのだ。


 看護師さん達はぶるぶると震えている。

 そして医者が集められると。

 彼らは叫んだ。


「サブリーダーが怪我をした治療してくれ、もし変なことをすれば脳天をぶちまくぞ」

「は、はいい、命だけは」


 つんつんと何かに突っつかれていると。

 僕はそこを見る。

 あの虐待されていた女の子だった。

 彼女はこちらをキラキラの瞳で見つめている。


 僕は口の所に人差し指を持ってきて、静かにと合図を送る。


「手伝おっか」

「いえ必要ありません」


「そう言わずに」

「君は怖くないのかい?」


「痛いのも怖いのも慣れてるから」

「すまない変な事を言わせてしまった」


「それがあなたの務め」


 少女はそう言うと、廊下の端っこからテロリスト達でも丸見えな所に少女が表れると。


「きゃーたすけてー」


 とか言いながらこっちに逃げてくる。


「ちょ、えええええ」


 少女は僕の後ろに隠れると。


「あとはよろしく」

「ちょふざ」


 テロリストたちが爆笑している。


「おい早くサブリーダーを治療しろ」

「これはひどい、手術です。手術室に運んでください」

「しゃーねーな、リーダー我慢してくれ」

「安心しろ」


 サブリーダーを含めて3名のテロリストが手術室にいなくなると。

 残りの4名が看護師と見舞客と患者たちを見張っている。

 たった4人でほとんどの患者を把握するのは難しいはず。

 恐らくこちら側が病室か出てこない事も織り込みずみなのだろう。


「ふ、あのガキめ」


 1人のガスマスクを着用した人間がこちらに走ってくる。 

 まるでゆったりとマラソンでもしているかのように。


 角を曲がったところで。


「お嬢ちゃんどこだ……」


 僕とテロリストは向かい合っていた。

 まぁ予想できた結果なのだが。

 それでもやはり恥ずかしい、グリーンヒーローだなんて言うのか?

 ちょっとまてよ、すげーはずいぞ。


「グリーンヒーローだ」



 そう指を天井に突き刺してにやりと笑っていると。


「こちら変態がいた今つれていく」


「結局こうなりますよねええええ」


 ちなみにあの少女はいなくなっていた。

 あいつめええと心の中で思うしかなかったが。


 僕はマシンガンを突きつけられながら、歩き出した。

 そこに到着すると、看護師達と見舞客と患者達たちがこちらを見て笑いを堪えている。


「悪いですかい、グリーンヒーローですよ」


「ふ、お前バカだろ」


 あのガスマスクの1人がいた。


「こういう馬鹿が死ぬんだよ、俺達テロリストは【盾と剣の組織】のように甘っちょろい事をしねーんだよ、死ぬべきものには死をだよ、みんな構えろ、いいか見ていろ、逆らった奴はこうなる」


「ちょ、まってください、僕まだ死にたく」


 その時僕の脳裏に走馬灯と呼ばれるものが流れた。

 その走馬灯は何かがおかしかった。父親が異世界にいる映像、母親が若かりし頃の姿で僕を引っ張り、胸には赤子を抱いている。


 遥かな草原が続き、

 目の前にいる若造は、父親だった。

 その父親はふざけて言ったのだ。


「死ぬのはつらい、そして忘れ去れるのもつらい、だけど一度忘れられてみたい、だからこういう方法もある」


 分身を召喚すると、その分身を殺したのだ。

 父親はその光景を僕に見せて何がしたかったのか。


「真実を見る目を養えヒロスケ、お前が世界を変える勇者となれ」


「と、とうちゃん、こわいいい」


「はっはっは、これは運命だ」


 時間は現実になって戻る。

 そして全てを理解する事はできないが、現在進行形でマシンガンを連射している4名たち。

 僕の体をつらぬくはずの弾丸たちは、ぽろぽろと落ちていくだけ、この緑のスーツは僕の命そのもの。


 僕が具現化していると言っても過言ではない。


「こ、これは、あれは走馬灯ではなく過去の記憶なのか? なら僕と林介は異世界人?」


「あーめんどくせー」


「ったくなんでこうなるかな、親父生きてんだろあそこで、あの死体は分身体なんだろ、いつかそう言う事するから思い出せってか?」


 独り言を呟きまくる。

 色々な事が脳裏をよぎる。 

 母さんは悲しんでいた。

 親父が死んだ事を。

 

 きっと心の中で笑っていた。イタズラ好きの親父というか父親がまた悪ふざけをしているのだと。以外と悪ふざけではないのかもしれない。


 その可能性とは、ディン王国の存在だ。


 親父はそれを止めようとしている?


 だがあちらでは親父の情報が、いやまて、数名親父の事を知っていそうな人たちがいたではないか、ちきしょう。


「げ、こっちは弾切れだ」

「こっちもだ」

「こっちも」

「こっちもだ。みんな手榴弾ならあるだろ」


「つーかあいつは化け物なのか? マシンガンの銃弾を平気で受け流してるぞ?」

「グリーンヒーローって本当にヒーローなんじゃ?」

「バカいうなよ、ヒーローがいる訳ないだろ、戦隊物やアニメの見過ぎだ」

「だが現に目の前に1人でああーだこうだと悩んでいるぞ」


「お、考えるのを止めたみたいだ」

「全員なげろ」

「「しねえええええ」」


 僕の目の前に手榴弾が落下した。

 全部で4つあったのだが。

 なぜか恐怖を感じなかった。

 地面爆発する。

 それもものすごい爆発だ。


 ここは1階よりは上に位置している。


 地面が雪崩のようにぐしゃりと崩れる。

 地面に叩きつけらる以前の問題で、僕は吹き飛ばされたんだ。



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