第56話 虐待と病


 建物という建物からジャンプをする。

 そういえばエクスバン国家にテレポート装置を設置しただろうか?

 そのことが頭に飛来したときに、色々と忙しかったけど、ちゃんと設置した事を思い出す。どこに設置したかをよーく思い出せずにはいるが。

 メイル姫なら理解してくれるだろう。


 なぜこの事を思い出したのか、その病の少女がメイル姫そっくりだったのだから。

 彼女は全身レベルでぼろぼろだった。


 僕は窓から侵入する事に成功していた。

 この緑色のヒーロースーツを出現させている時は、

 沢山の苦しみの声が耳に反響する。

 だが弟の林介に簡単に話を聞いただけで、なんとなくその患者がどこにいるのか理解してしまった。


 それが何の力なのかは分からないけど。


 とにかく今すぐにでも治療がしたかった。

 だが最初の実験なのだ。失敗して死なせては最悪だ。


 だがこれは賭けでもあるのだ。


 テーブルの上には彼女の日記が置いてあった。

 僕は失礼かなと思いつつも、ゆっくりと日記を開いた。

 

 そこには希望の言葉しかなかった

 しかも母親と父親に虐待されて、見た目は小学生だけど本当は中学生で。


 毎日毎日ぶん殴られて、そんな時白血病になって、病院にも連れていかれず、末期になり、まず足を折られた。病院に連れて行ってくれない。

 


 先生は助けてはくれない、

 希望もない、父親と母親は逮捕された。

 行く手がない。


 どうせ助かっても希望がない、だけどきっとヒーローが。


「ひぃいいろー」


 彼女はマスクを着けながら、ただひたすら声をもらし。


 僕の頭の中から恐怖や臆病な気持ちがなくなっていく。

 そこに立っていたのは緑色のヒーローそのものであった。


 呼吸器マスクを外す。

 心臓メーターが微動する。

 僕はゴッドポーションを飲ませる。

 彼女はどうやら意識があったみたいで次から次へと飲んでいく。


 彼女の体が痙攣を始める。


 それは恐ろしい兆候だ。


 もしかしたら死んだら、どこの誰かもわからない中学生の女の子、彼女は両親を逮捕され、しまいには回復しても行くところがない。


「なら僕が、手を差し出そう」


 右手と左手で少女が痙攣している右手左手を握りしめる。

 両手を握りしめ合わせつつ。


 祈った。


 僕は神様を信じた事がない。

 いつもなぜ僕ばかり神様から無視されるのかと、あれか、存在感がないからなのか?


 とか色々な事を考えたりした。


 でも目の前の女の子は。


「生きる価値がある」


 世の中には死ぬ価値も生きる価値もない、生は平等だというだろう。

 だけど本当の世の中では死ぬ価値のあるものと生きる価値のあるものが、別れる。

 そうやって人々は綺麗事をのたうち、そして争ったり同盟を結んだり。


 あれ?


「あの異世界もこの日本も同じじゃないか」


「う、うん」


 ぱちくりと彼女は眼を覚ます。

 全身の痣や両足の折れた場所まで回復している。

 目を見ると充血していないし、呼吸も安定している。


「あなたはヒーロー? 助けてくれたの?」

「まぁそんなところだよ、それとこのリサイクルショップ(ほのぼの)の裏巨大倉庫に僕がいるから色々と手助けさせて」

「あ、うん、でも、ヒーローが居場所を言っていいの?」

「あ、そうだね、僕はヒーローだね」

「でも嬉しいよ」


 では、という挨拶とともに、僕は窓からジャンプして足を窓に引っ掛けて、そのまま墜落していった。

 コンクリートの地面に頭から激突するもびくともしないこの体にびびりつつも。


 僕はグリーンヒーローとして名を馳せていくのだろうと、

 冗談っぽく思ったりしていた。


 巨大倉庫にたどり着くと、タバコを吸っている弟がいた。

 弟は巨大倉庫の外でへりくだった笑顔をしつつも。


「おめでとう、どうやら成功したようだね」

「ああ、速く知らせてくれて助かったよ」

「それで兄貴ならあの子の面倒を見ようとして、ここの住所を教えてそうだけどな」

「ああ、教えた」


「まったく兄貴はわかりやすい人間だな」


「それもそうかもな、僕がいない時に着たら色々と世話してやってくれ」

「もっちろんさ、それで、次のアイテムと行きましょうか」


「だな」


 僕の衣服は緑色のヒーロースーツから変更され、いつものシャツとズボンになった。


 ぽんぽんと体をはたくと、

 フェイブマックスXの荷台の積み上げられた荷物から取り出す。


「オリハルコンの剣だ」

「ちょ銃刀法違反だからあああああ」


 弟の当たり前のツッコミにそういえばと軽くボケていた。


「つまりこれは何でも斬れる剣らしい」

「それはマジなのか兄貴」


「例えばここにある壊れた掃除機があるだろう?」

「うん」


「それに向かってチェストおおおおおと叫びあげて」

「叫ぶ必要あるのか兄貴」

「いえありません」


 掃除機を両断していた。

 まっすぐに両断された掃除機はもはや動く事はせず、なぜか接着剤でくっつけてもまた使えそうだと思える程だった。


「てか、兄貴、掃除機に恨みでもあんのか?」

「いえありません、目の前にあったから」


「なるほど、こちらで捨てておくからさ、兄貴ってさ剣術は下の下だよな」

「その通り」

「その兄貴が斬れちまったら、やばいんじゃねーの」

「ああ、やばいな。1本はヒーロー用として置いておいてくれ」

「もちろんさ、4本はこちらで研究してみるよ、もしかしたら剣と盾の組織の武器になるかもしれないけど良いか?」

「世の中の平和の為さ」


 弟の林介はこくりと頷いていた。


 テレポート設置式はセルフィール国家とバラドリ混在王国とエクスバン国家に設置してある。最後の1つは村に設置する予定だから、大丈夫だろう、エクスバン国家に設置したときはどたばたして、設置して即座に移動した為、記憶が薄い。


 なのでテレポート設置式はいいとして、


「次はエルフの品だよ」

「おう、あの耳の長い種族だろ、やっぱり可愛いのか?」

「うん、すっごく可愛いよ」

「くー数回はお茶会してーよ、または合コンとかな」

「それが出来たらきっと世の中の男性は半狂乱するだろうよ」

「それもそうか、じゃ教えてくれ」


「あいよ」


 僕はエルフの品を説明していくのであった。


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