第23話 交渉事は商人

 ジービズの鍛冶屋は色々と改修工事をすませて、とてつもなく立派なものとなった。

 ジービズは僕が持ってきた農機具にショックを受けて、修行に修行を重ねる本当の職人だった。

 扉が開かれていた。

 恐る恐る中に入ると、むあっと熱い風がドアを通りすぎていった。


 汗だくになりジービズ老はしわくちゃな顔をにこにこさせながら、金槌をふるってその道具を作り上げようと叩きつける。

 熱で溶ける鉄を、何度もその金槌で叩き潰す。

 頑丈になっていくと、何度も水で冷やす。


 その後ろで鍛冶屋の働きぶりを観察しているのがあのテクスチャ商人であった。

 テクスチャの目はとても輝いていた。

 まるでジービズが父親のように、父親を見る子供の目のようだ。


「あら、おはようございますヒロスケ殿」

「おう、テクスチャ殿、鍛冶が好きなのですか?」

「あ、あはは、そう見えます? 一時期は鍛冶屋になって最強な武器を造って勇者様の助けになれればいいなって思っていた時期もあります。ですけど自分には無理でした。自分は力仕事よりも頭を使って口を動かしていたほうが良いのです」


 今日のテクスチャは小さな帽子をかぶりつつ、衣服はシャツとズボンというラフな格好でそのシャツとズボンは日本にある化学繊維ではなくて、動物の毛から取れたという証拠のようにもふもふしているみたいだ。


「あなたがジービズ老を見ている瞳はとても儚いものを見ているようでした」

「そうですね、自分には祖父がいました。祖父は鍛冶屋の名人でした。という事です」

「なるほど、では昨日言っていた交渉というのをお聞きしましょう」

「では場所を変えますか、ジービズ老よ見学させて頂き有難うございます」

「気にするな青二才が、それともう1人の男よ、そなたがもってきた農具より、武器より最強な物を作ってやるから肝っ玉を構えてろ、落とすなよ、がはははは」


 そう言ってジービズ老は爆笑している。


 僕とテクスチャ商人が外に出てもその笑い声だけは聞こえ続けていた。


 鍛冶屋の外には休憩用のベンチがある。

 そのベンチに2人は座ると、交渉を始める事とする。


「まずはあなたが異世界人であることを確かめたく」

「はい、異世界から来ました」

「そうですか、この世界には異世界からやってくる人が結構いるのです。一番多いとされるのが異世界召喚というもので勇者とかの器の人が選ばれるのです。大抵はチートスキルを持っています。あなたは召喚でも転移でもないとネンネ村長から聞きました」


 僕は答えようか迷ったが、教えた所で彼等は僕の世界に来る事は不可能なのだ。


「そうですね、僕は扉が見えるんです。僕にしか見えない扉があって、そこからこちらへ来る事も戻る事も出来る」

「なるほど、だからあのへんちくりんな形をしているのにものすごく便利な道具があるのですね、あれを都市で売ればとんでもない値段になりますよ、貴族という貴族が動き出しますね」

「そうですか、それもいいかもしれません、ですが今はやめてください、今はこの村を発展させたいのです」

「なるほど、でしたら協力しますよ、この村の発展、自分をこの村の専属交易商人にしていただければ色々な事が出来ます」


「その専属交易商人とは?」

「えとですね、この村の特産物を街に運んで高く売るのです。そして高く売ったお金でこの村の為になるものを購入するのです。またはあなたの世界の為になる物を持ってきて、貴方の世界で転売して、あなたの世界からまた便利道具を持ってくる。そして村は発展していく、これ凄くないですか?」

「ああ、今、僕はとても震えている。これなら、村の発展は急激なスピードになる」


「自分も震えています。これは国を作ってしまいかねない話なのです。いいですか村が町になり町が国になる。そして戦争が始まるでしょうが、あなたたちの文明力があれば、周りの国など怖くもありません、こちらがあなた達の文明力を盗んでもそれを再現できるはずもありません、断定はできませんが」


「では交渉成立だな」

「こちらこそよろしくです」


「交易商人らしく専用の家を作ってあげたい、今からネンネに会いに行くぞ」

「そうしてもらえると嬉しいです」



 夢中で話をしていた。

 ネンネを探すと言いながら、話をしながら歩き続けた。

 ネンネの家に到着する頃には2時間が経過していた。

 リアカーがネンネの家の外に置かれてある。

 それを見た時、なんとか照明器具を配り終えたのだろうとほっとした。


 中に入るとネンネが薬草の紅茶を飲んでいた。

 

「あら、テクスチャ商人さんじゃないですか」

「ああ、彼と色々と話をする事で、この村の発展方法がさらにスピードを上げる事となるぞ」

「それはいい事です、それで何をするんですか?」

「この村の特産品をつくる」

「特産品? あれですか、その村にしかないものですよね」

「そうだ」


「厳密にはこの村の他にもあったとしても、その品質が低く、この村でしか品質が高くないと差をつけてしまえば、この村の特産品となります」


「1つ気になったんだが、この世界には著作権というものはないのか?」

「著作権ですか?」


 商人は頭をひねりだして。


「つまりニワトリという小説があると、別な出版社がニワトリを出すと。パクリとかは問題じゃないのか?」

「はい問題はありません、しかしこの世界にはスピリットというものが存在しております。人間はあるものをつくるとスピリットマネーを生じているとされます。スピリットマネーがちゃんとしているとその作品に魅力を感じるのです。盗作品などはスピリットマネーがおかしくなっているので魅力を感じないのです」


「それは初耳だ。この世界にはスピリットマネーなるものがあったのか」

「その通りです。結構重要ですよ、このスピリットマネーで色々な事が出来るのです」


「わたしはあまり知らなかったこの村から出た事がないので」


 ネンネが悲しそうに告げる。


「そうですね、魅力を感じる物には沢山のスピリットマネーが宿っている。素晴らしいスピリットマネーの作品と出会うとそれを触れたりした人は強くなる。ふむ、自分も言っていてよく分からなくなるなぁ」


「少し複雑なのだろう、テクスチャ商人、今度スピリットマネーが宿った本でも買ってくれ」

「そうします。今は特産品が真似されないかということですが、真似されて負ければそれまで、ようは真似されても勝てばいいのです。スピリットマネーしかり、その特産物の味と魅力ですよ、お二人さん」


 その場が沈黙に包まれた。

 僕とネンネはお互いを見合わせて、

 この村の特産物は何がいいかって考えている。

 そして決まらなかったのだ。


 

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