第2話 異世界の扉

 リサイクルショップ(でんでん)の店長になって早3日が経とうとしていた。

 父親がいかに凄いかを思い知らされた。

 なんとお客さんがわんさかくるのだ。

 色々なものを購入していくなか、沢山の人々がいらなくなった家具をもってくる。


 リサイクルショップ(でんでん)には本部があるわけではない。

 買取値段はその目利きによるものだ。

 僕には交易会社で養われた鑑定のような目利きがあった。


 あと最低限度の冷蔵庫で何年物はどのくらいで購入できるとか、どのくらいで販売出来るとか、書かれているデータ表がありそれを確認しながら買取していくのだ。


「様になってきたわね、博介」

「ああ、母さんこそ」


「何を言ってるんだい、あたいはいつも父さんの手伝いをしてきたんだよ」

「いや、悲しむ事をやめてよかったと思って」

「なんだい、女性は強いんだよ」


 そういって母親は一生懸命に掃除をしている。

 お客さんがいなくなると、僕は巨大倉庫によく向かう事がある。

 巨大倉庫には開かずの扉がある。

 なぜか開けようとしても叩いても何も反応がしないものだった。


 僕は頭をぽりぽりとかきながら、巨大倉庫に売れなくなってしまったリサイクル品が転がっているのを眺めたりした。

 その数は数万点くらい。


 リサイクルで交易をした時の為の備蓄品だと日記には書かれてあるので捨てる気にはなれなかった。


 その時だったぶるぶると空間自体が振動している。

 何が起きているのか理解できずに、気づけば開かずの扉がぶるぶると振動している。


 僕は恐る恐ると言った感じで開かずの扉に近づくと、いきなり扉のモンスターのようにばたんと扉が開く、

 そこには光の膜がある不思議な壁があった。


 僕は興味本位でその光の膜に触れる事とした。


 まるで湖に落下するように吸い込まれる。


 頭から落下したのか、すごい頭が痛かった。


 後ろを振りかえると、そこには扉が置いてあった。

 光の膜があり、また触ると、次は元居た巨大倉庫に戻っている。


 ちょっと面白くなったので、もう一度触れると、別な場所に出る。

 先程まで気付く事はなかったけど。


 その扉の向こうには大自然が広がっている。


 巨大倉庫の後ろには確か大き目の温泉があったはず。

 温泉専門店があったはずなのだ。


 なのにそこに広がっているのは、草原そのものであり、扉は岩のような山の隙間にある。


 あまり目に触れない所にある為、ちょっと歩いただけで見失いそうだ。


 壮大な草原と遥か地平線の向こうには巨大な森がある。

 どこが巨大かというと、普通の木々の5倍はあるだろう。

 アニメとかで出てくる巨大樹のイメ―ジが正しいかもしれない。


 山だってとてつもなく果てしない。


「あれってドラゴンだよな」


 遥か彼方の空には何か蜥蜴みたいな生き物が空を飛んでいる。

 太陽が1つしかないのはここが地球なのかと思わされたのだが、なんとお月様が4つもありました。


 どうやらここは地球ではないようだ。


 僕は心の底からわくわくしだしていた。

 そして草原は下方に向かって斜めになっており、その先には村があることを確認した。


 ようはファーストコンタクトが重要だぜとか思ったのだ。



 僕は後ろにある扉の事をイメージして走り出した。


 すると不思議な事に、頭の中にマップのようなものが展開した。


 扉がある場所と村がある場所、山がある場所や森がある場所、そういったものが頭の中に焼き付くのだ。

 これは記憶力の問題ではないとすぐに気づくと。


【スキル:マップを覚えました】


 なんかスキルがあるらしい、これはあれか、異世界転生とか異世界転移とか異世界召喚とかか?

 でもおかしいぞ、どれも当てはまらないしこちらはいつでも元の世界に戻る事が出来るのだから。


 5分ほど歩くと、そこにはボロボロの村があった。


 沢山の人々が絶望の瞳でがりがりにやせ細ろって雑草をかじっている。


 思わず絶叫しそうになる僕だが、すぐに扉の所に戻り現実世界に戻る。


「さて、食料と家電をもっていくぞ」

 

 かくして勝手に村開拓が始まった。


―――――――――――――――――――――――――――――

スーパーにて野菜と果物大量購入→薬購入→巨大倉庫に帰還

―――――――――――――――――――――――――――――

 まるでサンタクロースのように白い布性の袋を背中に背負う。

 ビニールだと破けそうだったので、この布の袋も購入した。


 よし、突撃と思ったら盛大に弾かれた。


 まるでビンタされたかのようだ。


「なぜ入れないんだ」


 そこには光の膜があるのに、

 光の膜の向こう異世界があるのに。


「ま、さか」


 野菜を投げると弾かれる。

 薬を投げると入る。


 つまり、


「出来上がった作物をあちらに持っていくことが出来ないという事だ」


 改めての実感。

 薬とかが大丈夫な原理は作物ではないから?

 確かにこの世界にある作物を大量に持っていけば、あちらの世界のパワーバランスぶっこわれちゃうな、つうことは、種とかで持っていけば。


「でも作物は専門外だしなぁ、まぁチャレンジあるのみ」


―――――――――――――――――――――

作物センターにて種爆買い→肥料爆買い→巨大倉庫

―――――――――――――――――――――


「ぜはーぜはー貯金はたいちまったぜ」


 貯金の一部を使ってしまった僕は巨大倉庫に転がっていた無数の桑とか鎌とかを縄でつないで引っ張る。


 作物以外の物が扉の向こうを通った事を知ると。


 さぁ旅に出るぞとばかりに扉に入った。


 一応ソリみたいなものを購入しておいてよかった。

 なにより肥料とか栄養剤とか持ってきているので結構な重さになる。


 ソリは草原の上を普通に引く事が出来る。


 その村に到着すると。


 やはり沢山の村人が餓死寸前であり、もう動かなくなって蠅がたかっている死体が転がっている。


 何があったのかは分からないが、とにかく食べ物がないのだろう。


 だが作物は最低でも一か月とか2週間とかかかるし、薬とか人間用の栄養剤と畑用の栄養剤も持ってきているし、ペットボトル系の飲料ならあの扉は通った。


 飲料で長生きしてもらおう。


 突然村の入り口に現れた異邦人に、村人達は唖然と口を開いている。

 そして村人達はエプロンとシャツとジーンズ姿の僕を見て1人また1人と土下座しだした。


「おおお、神様が来た。見た事もない服で」

「神よ、どうか神よ」

「命だけは助けてください、王国に捧げる税金の作物が出来ていないのです」

「このままでは王国に罰せられます」


 1人の娘が出てきた。

 その娘もがりがりで死にかけていた。


「神様なの? 本当に? 皆を罰さないで、わたし今年で17歳になったの、わたしの体で許してください、こんながりがりの体いらないでしょうけど、わたしはネンネと申します」


 僕は首を横にふる。

 彼等がどれだけ切羽つまっているのか、それが凄く分かった。


「違うんだ。僕は君達を救いに来た」


 その発言でネンネの瞳から雫がぽつりぽつりと流れ、その場でネンネは気絶した。


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