井浦家家族旅行



 平成14年末



 博文以下井浦家一同は横浜へ年越しの旅行に来ていた。といっても、横浜だけでなく東京市内(この世界では府も市も存続)も回る予定である。



「懐かしい・・・・・・」



 沙羅の呟きを不思議そうに聞く祖父母や両親達だが、博文はその呟きの意味も理解して感慨に浸っていた。



「沙羅ちゃんは前世でなんかこっちの方と縁があったんかね」



 と祖母が冗談ぽく零すが、それは正解であり博文と沙羅は揃って妙な顔をする。



(てか、私はこの横浜でエリザベスの頭をピストルで・・・・・・)



 ふと、前回の人生の記憶の最期を思い出し沈み込む沙羅を母親が心配そうに見る。



「沙羅?」



「いや、ちょっと前世?(エリザベスの居たのはこの世界だし、前世って言うのかな?)の記憶が・・・・・・あ、じゃなくて、その・・・・・・」



「沙羅、本当に大丈夫?」



「う、うん、なんでもない!ねえママ、お昼は中華街行こ!」



「そうね、せっかく横浜来たもんね」



 他の者も賛成し、横浜中華街で昼飯を食べ、東京市内を巡った後、横浜の旅館へ戻る。




 夜



「博さん」



 両親や祖父母が風呂へ入りに行った隙に、沙羅は博文に語りかける。



「なんですか?」



 幾つになっても沙羅と二人きりになると、かつての憲兵、秘書官の顔を見せる博文。



「横浜も東京も随分変わったね、あの頃パリみたいだった東京もまるでニューヨークね」



「そりゃそうですよ、でも本当に20年振りくらいにこっち来て楽しかったですよ」



「てかさ、あんた政府とか軍とは本当にもう何の関係もないの?」



「ないですよ、あの頃あなたと仕事して、光も闇も全部見て疲れきっちゃいましたから」



「そっか、じゃああんたの部屋に隠してある無線機は何?」



「な、なぜそれを・・・・・・」



「まあ、私も馬鹿じゃないからね、テレビのリモコンに偽装するなんて考えたわね、それに見る人が見れば不自然な電話線・・・・・・あれは政府とのホットライン?」



「はい・・・凄いですねやっぱり。今でもあなた・・・エリザベス元大統領の齎した情報は日本政府のトップシークレット扱いです。そして、私はその機密を事細かに知っているというわけで、死ぬまで逃れられなくなりました」



「そうなんだ・・・この世界で初めてじいちゃん家見た時忍者の気配したから、なんでかなと思ったけどそういう事ね」



「まあ、この老後の生活を考えた時に政府の仕事は条件が良すぎるくらいだったので。表向きは電波関係の技師という事になってましたがね」



「なんか私のせいでめんどくさい立場にさせちゃったね」



「いえいえ、あなたと出会って得たものも大きいですから」



「そっか・・・・・・」



 博文の中にエリザベスが生きている事を確認した沙羅。

 そして、今回が博文と一緒の最後の旅行となる事を沙羅はまだ知らない。
























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