第57話:衣装決め
魔王さまに抱きあげられて運ばれるのにもなれてきたリオネッサですどうも。
朝からエルフィーやアルバンさんに微笑みかけられ、バルタザールさんはコーヒーをブラックで頼み、ゼーノにはおじさんとおばさまのやりとりを見ているような顔されますが、わたしは元気です。しゅうちでしねそうだけどね!
しかし最近では慣れてきてしまっている自分がいる。
魔王さまに両手を開かれると「あ、ハイハイ抱っこですね」とか思っちゃってる自分がいる! 慣れってコワイ!
あれ? でも一週間も経ってないような? うーん、きっと気のせいだね!
うっかりお茶の時間にも魔王さまの膝上にいたわたしにしゅうち心はまだ生きているのかと聞きたい。
そんなわたしに気付いてしまったらしい魔王さまは、慣れたならいいよね、と言わんばかりに隙あらばキスをしてくるのだけれど、これにも慣れはじめてきたわたしってもしやものすごく図太い?
自分が繊細だと思ってたわけじゃないけどさあ……。
そのうち魔王さまの隙をついてお返しのキスをしちゃおう! なんて企んでるあたりものすごく図太い気がしてきた。
「お妃様、きつかったりはしませんか?」
「だいじょうぶです。ぴったりですよ」
「左様ですか」
メイドさんはしゅくしゅくと確認作業を再開させた。
そーです。わたしは今ドレスの試着真っ最中です。
メイドさんに言われるがまま歩いたり、腕を上げたり、回ってみたり、お辞儀したりしている。
用意されていたドレスは予想外に多くて、五着もあった。
一着だと思っていたわたしが目を白黒させていると、メイドさんがしごく真面目に言った。「服飾部がリオネッサ様に似合うドレスを考えた結果です」と。
なにやってるの服飾部。
採寸してからたったの三日で五着も仕上げるとかどうなってるの。しかもドレスをだよ? ちゃんと寝てる?
不安になったので、アルバンさんにちゃんと睡眠と休憩を取っているか見張る部門の設立を提案しておいた。
とはいえ、わたしのためにここまでしてくれたのは正直嬉しい。嫁いできて一年も経ってないのに、受け入れてくれてるんだなあ、と顔がかってに笑っちゃう。着せ替え人形になるのは疲れるけど。
がんばってくれた服飾部のためにわたしもがんばらないと!
「頑張ったと言うよりはただの暴走ですが……」
「え?」
「いいえ。何でもありませんわ王妃様」
優雅に笑ったメイドさん――レギーナさんはふだんよりずっと丁寧にお辞儀した。
ちょっぴり他人行儀な感じがしてさみしくなるけれど、これもりっぱな予行演習だったりする。
どうにもわたしは使用人たちとの垣根が低すぎるらしい。
身内だけしかいないいつもなら問題はないのだけれど、新年祭では他領の人間も来るので、なめられないように、とわたしは主人らしく、使用人たちも使用人らしく振る舞えるよう今からがんばっているのだった。
みんなと気軽におしゃべりできないのはさみしいけど、新年祭が終わるまでガマンしないと。
窓の外からにぎやかで楽しそうな声や音が聞こえてくるけどガマンしなきゃ……!
いいなあ……。
庭では一般参加の祭りの準備がされている。
わたしも参加したかったなあ……。
屋台のメニューが決定され、屋台の設置が進み、実際に作ってみたり、お金の使い方や数え方の講習があったりとなかなか忙しいそうだ。
エルフィーが毎日瞳をきらきら輝かせながら教えてくれる。
いいなあ、楽しそうだなあ……。
ラシェで屋台の味を占めたらしいアルバンさんもがんばってラシェの味を再現します、と意気込んでいたし。
いいなあ……。わたしも再現し隊に参加したーい……。
しかし、曲がりなりにも王妃なのでここはぐっとガマンだ。腐っても王妃だもん。これくらいガマンできるもん。
当日はエルフィーにお小遣いをわたしてわたしのも買ってきてもらうつもりだけどね!
「王妃様、どのドレスをお選びになりますか?」
「そうですね……」
五着全部の試着が終わって一息つきながら考える。
一着目は魔王さまの赤を使ったドレス。
ふわふわひらひらしていてかわいかった。欲を言えば袖が欲しかったかも。
二着目は魔王さまのたてがみといっしょの黒いドレス。
光る刺しゅう糸をつかって星空みたいになっていてすごくきれい。
だけど、人魚の尾ひれのようなシルエットがすごく大人っぽいからわたしだと服に着られちゃう。
三着目は魔王さまの瞳と同じ青いドレス。
スカートはふわふわしてるのに胸元がガバーっとあいていて恥ずかしかった。背中も見えてるし、これは申し訳ないけど着れないかな!
四着目はわたしの目といっしょの緑色。
肩のふくらみがかわいい。夜会より普段着にしたいな。ちょっと豪華すぎるけど。
五着目はエルフィーの髪の色の白いドレス。
たくさんのレースが使われていて、肌の露出をカバーしてくれている。三着目のよりは恥ずかしくないけど、汚さないか気になってなにも口にできなくなりそうだからやめておこう。
と、なると赤のドレスが一番だね。
「一着目にします。シュングレーニィの赤ですから、他領の方にもわかりやすいでしょう」
「承知いたしました。
――それはそれとして。リオネッサ様、何かご要望がおありですね?」
う。こ、この有無を言わせない感じ、予行演習は一時お休みですか、レギーナさん。
「いえ、そんなことは……」
「おありですよね? 私の目を欺くのはリオネッサ様にはまだお早いかと思われます。
赤と緑で迷っていらした様ですが、それでも早々に赤にお決めになられたでしょう?
ですが、何かが物足りないと思われた。その何かを他の物にお探しになり、けれど諦めて赤になさったでしょう。さあその何かをお教えくださいませ」
「え、えへへ……。そんなにたいしたことじゃないですよ?」
「あなたにとって大した事ではなくても、我らに取っては重大な事になりえます。どうかお聞かせください」
「え、え~と、わたしは服に関してまったくの素人ですし、今のデザインをわたしのわがままで変えたりしたら変になっちゃうかもしれませんし……」
「お気になさらず。言うだけ言ってみてください。
リオネッサ様の意見が通るか否かは別でしょうから。
服飾部だとて今は多少のプライドを持って仕事をしているでしょう。けれど、リオネッサ様の意見があればもっと良いものが出来上がるかもしれません。さあ、さあ!」
超が付くほどマジメなレギーナさんはこうなるとテコでも動かない。
ほ、ほんとにそんなたいしたことじゃないんですよ?
レギーナさんの勢いに押し負けて、洗いざらいしゃべることになった。と中で服飾部のほとんどが呼ばれてわたしの好みを聞き取っていった。
みなさんマジメだね……。ありがとう。
わたしがきょうしゅくしていると、服飾部のリーダーが牙を光らせて言った。
「リオネッサ様の好みはわかりました。これからは気を付けますね。
それはそれとして私達が着てもらいたい
「あ、ハイ」
親指をグッ! と立てて去っていく服飾部のみなさんはところどころヨレっとしていて徹夜の雰囲気を感じ取れたのだけれど、それでも楽しそうだった。
これから赤のドレスにふわひらっとした袖を付けてくれるそうだ。
ありがとう、ムリしないでね……。
着る機会はそんなにないと思うのだけれど、ドレスがどんどん増えていきそうな予感がした。というか、増えるよね、これ。
ドレスデーでも作ろうかな。
「王妃様に満足していただけるドレスが完成しそうでようございました」
「え、ええ。そうですね。……楽しみです」
このあと魔王さまたちの前でファッションショーさせられました。
レギーナさん、つよい。
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