人形の家
その情景は仄暗いのに
どこか甘く切なく
そして泣きそうに懐かしい
畳の部屋で遊ぶわたしは
小箱を並べてセロテープで貼って
お人形の家を作っている
やっと買って貰えたのは
リカちゃんじゃなくて、すみれちゃん
それでも大切な大切な友達
髪を
大事にしている綺麗なレースの端切れを
ドレスに見立てて巻き付ける
箱で作った家にすみれちゃんを座らせる
わたしも小さくなって
一緒に人形の家の中
外は台風だけど家とその中の人形の家
二重に守られている気がして
ちっとも怖くなかった
祖母や父が語らう声に
母がわたしを呼ぶ声
当たり前のように続くと信じていた
幼い少女のわたしが笑っている
あの人形の家
ずっと大事にしていたのに
遥か昔に壊れてしまってもう、無い
すみれちゃんには
この前、実家の押入れで再会した
煤けて手垢で汚れた顔を撫でながら
わたしも歳をとったよ、と話しかける
幼く好奇心で溢れた少女は
臆病な大人になってしまった
いくつもの夜を越えるうちに
人形の家は、もう、無い
いつの間にか
遠くに雷の音が聴こえる
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