-第一章二十一節 カルト教団と林檎とカチュア-



ギルドを後にしたマサツグ達がクランベルズの道具屋に向かい、クランベルズ


周辺のマップとカチュアのお菓子を買うと、メインストリートに向かい歩き


始める。クランベルズ周辺のマップは購入と同時にマサツグのミニマップに


自動で何が有るかを詳細に映し出し始め、それを見てマサツグが一人安心して


いるとふとマサツグがある事を思い付く。



「…あれ?……こんな風にマップを手に入れたら表示されるんだし…


何とか迷いの森のマップさえ手に入れれば…」



「それは無理なのね!…むぐむぐ!……


あの建物の中でも説明したと思うけどあの森にはティターニア様の魔法が


掛けられてあるにね?…ゴックン!…


…幾らマサツグが条件を満たしていると言っても魔法の影響は受けるし…


何よりティターニア様の魔法は方向感覚を麻痺させる…視界に霧が掛かる等々…


地図が有ったとしても役に立たない様になっているのね?…


…それに…今まで誰も足を踏み入れて踏破した事の無い森の地図を…


何処で手に入れるつもりね?…あぁ~ん!…むぐむぐ!…」



「…ごもっとも……」



マサツグが方向音痴でも行けるのでは?…と楽観的に考えては謎の自信を持ち始める


のだが、カチュアがお菓子を頬張りながら一言無理と話すとその理由をマサツグに


説明し始める。それはギルドの中で聞いた内容と大体一緒で、ティターニアが森に


掛けた魔法の詳細と地図など存在しないと言う…ちょっと考えれば分かる答えを


突き付けると、マサツグは肩を落としてあっさり轟沈する。その際カチュアは


お菓子の食べカスをマサツグの肩に撒きながら食べ、その事に気が付いたマサツグが


肩を払いながらメインストリートに有る一軒の露天商の前を通り過ぎようとすると、


突如呼び止められる。



「ちょっと!そこのアンタ!!


そこに居たらあいつ等に絡まれるよ!!


こっちに来な!!匿ってあげるから!!!」



「え?…あいつ等?…」



「良いからこっちおいで!!!…」



「あぁ~!!ちょっと!?…」



露天商のおばちゃんが慌ててマサツグの前に飛び出して来ては隠れるよう指示をし、


その指示にマサツグだけでなくカチュアも戸惑った様子を見せて居ると、


おばちゃんは玄関口方面に向かって何かを確認しては更に慌てた様子でマサツグの


腕を掴む。そしてマサツグを無理やり店の中に引き込み、何かから隠れるよう


おばちゃんと一緒に商品棚の下に隠れさせられるとマサツグはある事に気が付く。



{……ッ!?…あれ?…


誰も居ない?…さっきまで凄い賑わっていたのに…


静かになるまでギルドに居た訳でも無いし…何で?…}



マサツグが気付いた事…それは異様なまでの静けさを感じるメインストリートの


様子であった。マサツグがここに来た時…それはまさに商人の町と言わんばかりに


賑わっていた声が今は全く聞こず、シ~ンと静まり返ってはまるでゴーストタウンに


居る様な気配は感じるのに誰も居ない…そんな不気味な気配を感じる。恐らくは今の


マサツグ達同様店の中に隠れて何かから逃れようとしているのだが、それが


分からないマサツグ達はただその様子に不気味さを感じていると、何処からともなく


声が聞こえ始める。



__バルフィモ~ル…バルフィモア~ル…バルフィモ~ル…バルフィモア~ル…



「ッ!?…何だこの呪文?…」



「シッ!!…見ちゃいけないよ!!…見つかったら面倒な事になるからね!?…」



「面倒な事?…」



何処からともなく聞こえて来た声にマサツグが反応して呟き、店の棚から少しだけ


視界を確保して様子を見ようとすると、店のおばちゃんがマサツグを制止させよう


とする。その時のおばちゃんの慌て様は普通では無く、おばちゃんがマサツグを


止める際、面倒な事になると言う言葉に引っ掛かりを覚えていると、その声の主達が


直ぐ傍を通り始めては何やら叫んでいた。



「救世主さまが誕生される日は近いぞぉ~~!!」



「みな悔い改めろぉ~~~~!!」



「バルフィモ~ル!!…バルフィモア~ル!!…」



__バルフィモ~ル…バルフィモア~ル…バルフィモ~ル…バルフィモア~ル…



マサツグが制止を聞きつつもバレないようチラッとだけ確認すると、


そこにはおばちゃんの言う面倒な事…恐らくは宗教絡みであろう信者の隊列が


マサツグ達の隠れる店の前を通過している光景が目に映る。全員が頭から


白い布を被ったり白いローブを身に纏ったりとそれっぽい格好をし、異様な呪文を


唱え周りに訴え掛けるよう叫び、何処に向かって歩いているのかすら分からない


様子で通り過ぎて行く隊列にマサツグがえ?…と戸惑った様子を見せて居ると、


その集団は徐々に町の奥へ消えて行く…そうして声が聞こえなくなった所で他の


露天商の人達も商品棚の陰に隠れていたのか姿を現し始め、危機は去ったと言った


様子で溜息を吐いていた。そんな様子にマサツグが先ほどの集団について


おばちゃんに尋ねようとすると、おばちゃんはマサツグの考えを読んでか先に


話し始める。



「お、おばちゃん…あれって?…」



「良く分からないけど…他の連中はカルト集団って呼んでるよ!!…


あぁやって訳の分からない事を言いながら町を練り歩く!


オマケにさっきみたいに不気味な呪文を唱えては強引な勧誘までする!!!


そのせいでこの時間は一気に客足が遠退く!!…


質が悪いったらありゃしない!!!」



匿ってくれたおばちゃんが言うにはあの白づくめ集団はカルト教団らしく、


その目的も聞いている限りではまるで某預言書の終末の日がやって来る!!…と


言った感じで叫んでいる様にしか聞こえず、信仰対象等も大まかにしか


分からない様子でマサツグは困惑する。その異様ないで立ちにカチュアも不気味さを


覚えたのかマサツグの背中に隠れ、その様子にマサツグが戸惑いながらもあの集団が


現れ始めた時期について質問をする。



「…いつから?…」



「まだ最近だよ!?…あいつ等が現れたせいで外からの客も逃げちまうし!…


踏んだり蹴ったりだよ!!!…何が悲しくてそんな眉唾物に頼らにゃならんのか!…


もう、いい加減にして欲しいね!!!…」



「そ…そうなのか……


…とにかく匿ってくれてありがとう!…


もう行くよ!…」



いつからあの行進が行われ始めたのかおばちゃんに質問をすると、おばちゃんも


あの集団には迷惑しか掛けられていないと文句を言う様に腕を組み、マサツグの


質問に答え始める。そしておばちゃん自身もあの集団の事を胡散臭いと感じて


いるのか、怒った様子で罵ると先ほどの行進で露店の商品に異常が無いかの確認を


し始める。そのおばちゃんのご立腹具合にマサツグは戸惑いつつもお礼を言い、


その場を後にしようとするのだが突如またおばちゃんに呼び止められる。



「ちょいと待ちな!!」



「ッ!…えぇ…まだ何か…」



「リンゴ二つで100Gだよ!…匿ってやった分!…


買って行ってくれても罰は当たらないと思うけど?…」



「ッ!……してやられた!…」



おばちゃんに呼び止められマサツグが戸惑いながらも振り返ると、そこには


林檎二つを手に笑みを浮かべマサツグに買うよう勧めて来るおばちゃんが姿が


あった。そして匿った分の料金と言った様子で更に勧めて来るとマサツグは


そのおばちゃんの言葉に苦笑いをして、やられたと零してはおばちゃんから


リンゴ二つを購入する。その際この町の人間はタダでは起きない…本当に


商魂逞しいなとマサツグが一人感じていると、おばちゃんはサービスと言った


様子でマサツグにある事を話し始める。



「へへ!…悪いね!まいどあり!


その代わりに良い事を教えてあげよう!…ここだけの話だよ?…


ここから西の農村の近くに「狩人狩りの森」ってのが在るそうなんだけどね?…


何でもその森には何でも青く光る樹が生えているらしいよ!…


ただ今の所その木を探しに行った人間は誰一人として見つけてない上に、


帰って来ないとか!…無理にとは言わないけど…もし興味があるなら探してごらん!


案外、お宝が眠ってるかもしれないよ!!」



「狩人狩りの森……今に任務が終わったら考えてみるか…


ちょっと興味あるし!…ありがとう!それじゃおばちゃん!!」



「あぁ!!…気を付けて行くんだよぉ~!!!」



おばちゃんはマサツグが冒険者だと言う事を理解した様子で、良く有る噂話レベルの


お宝の話をマサツグにすると嬉々として話し始め、それと同時にどれだけ


信憑性があるのかと言った様子で危険度の話をするとマサツグは若干興味を


持った様子でおばちゃんの話を頭に入れる。妖精からの依頼が終わった後…


行ってみるのも面白いかもと一人考えてはおばちゃんに話のお礼を言うと同時に、


別れの言葉も口にするとおばちゃんはマサツグに手を振りながら見送ってくれる。


その様子をマサツグの体の陰に隠れながら見ていたカチュアがジッと見ては


マサツグに話し掛ける。



「……あのおばちゃん案外いい人なのね?…」



「ははは!…そうなのかもな?…


とにかく町の玄関口に移動して馬車に乗るぞ?…


ギルドが手配してくれている筈だからな?…」



「ッ!…了解なのね!!」



少し警戒していた様子のカチュアだったが、おばちゃんが手を振ってくれて居る姿を


見ては良い人なのでは?…と少し信用した様子でマサツグに話し掛け、その質問に


マサツグは笑いながら返事をすると町の玄関口に向けて歩き始める。早く馬車に


乗ろうと先を急ぐ様にカチュアへ声を掛け、その言葉にカチュアがいよいよ!…と


意気込みグッ!と拳を握って表情を改めるとマサツグの肩にしがみ付く。


そうして奇妙な宗教集団…露天商のおばちゃんにリンゴを買わされたりと色々な事が


有ったもののマサツグ達は無事クランベルズの玄関口にある馬車乗り場まで


辿り着くと、まずは馬車乗り場の案内所に入って行く。



__ガチャッ!…カランカラン!…



「あの~…すいませ~ん!」



案内所の扉を開けて中に入るとベルが鳴り、その音に反応してカウンターの奥に居る


オジサンがこちらを振り向き、まるで何かを確認する様に眼鏡を弄ってはマジマジと


マサツグの事を見詰め始める。その事にカチュアが戸惑った様子でマサツグの肩に


乗って居るとマサツグはそのおじさんに声を掛け、おじさんがその声に対して返事を


するのかと口を開いた瞬間、次に出て来た言葉は挨拶では無く…マサツグの特徴に


ついてであった。



「ん?…黒髪青年に青いTシャツとブカブカズボン…そして…」



__ッ!!…ヒュン!!…



「…あれが妖精だとするのなら…ひょっとして?…


あんた達があの迷いの森に行くって言う…」



「…え、えぇ…はいそうです。」



オジサンがマサツグの見た目を口にした後、マサツグの肩に居るカチュアに


目を向けるとカチュアはビクッと反応しては慌ててマサツグの後ろに隠れ、


その様子を見て馬車案内のおじさんがギルドからの連絡内容を確認したのか、


頷きながら疑問形でマサツグに行先について質問をする。その質問に対して


マサツグが頷き返事をすると、おじさんはカウンター横の開閉扉を開けては


マサツグに近付き挨拶をし始める。



__ガタッ!…ギイィィィ…



「いやいや…申し訳ない…人をマジマジ見たりして…


報告上色々と確認をする為とは言え…」



「あぁ…いえいえ……何て言われたんです?」



「え?…えぇ…ギルドからは一応…


重要任務を受けた冒険者が一人と一匹向かうから迷いの森に案内してくれと…」



{い…一匹!…カチュア完全に動物扱い…}



馬車案内のおじさんがマサツグに先ほどマジマジ見詰めた事について謝罪の言葉を


口にするとその訳をマサツグに話し始め、その訳を聞いたマサツグがギルドから何と


言われたのかについて質問をすると、おじさんは如何ギルドに言われたのかを


マサツグに話し出す。その話を聞いてマサツグが心の中でカチュアの扱いに対して


ツッコミを入れて居ると、カチュアもその話を聞いてかマサツグの後ろに隠れては


不服そうにブツクサと呟き、頬を膨らませる。



「一匹って如何言う意味なのね!?…私は匹じゃなくて人なのね!?…」



「あははは…」



__ガチャッ!…カランカラン!…



「ギルドからのご依頼通り…馬車を用意して在りますのでどうぞこちらへ…」



マサツグの後ろに隠れてはまるでハムスターの頬袋の様に顔を膨らませ、表立って


怒らない事にマサツグが苦笑いをして居ると、馬車案内のおじさんはマサツグ達を


用意した馬車へと案内し始める。カチュアの様子に何となく気付いている様だが


触れないでおこうと考えたのか、大人の対応でスッとマサツグ達を案内所の外に


連れ出すと馬車が並んでいる方に向かい手を振り、そのおじさんの合図に反応してか


一台の馬車がマサツグ達の居る方に向かってゆっくり走って来てはマサツグ達の前に


ピタッと止まって見せる。



__ガラガラガラガラ……ピタッ…



「…なんというかそのぅ…赤いな?…」



「な…なのね!…」



__ガチャッ!…



「…こちらがその用意させて貰った馬車に御座います…」



その用意された馬車は何処と無しかその馬車は他の馬車とは違い赤く塗装されて


おり、何ならその馬車を引く馬も赤いと圧倒的に他の馬車より目立って見える事に


マサツグとカチュアが戸惑って居ると、おじさんがその馬車の扉を開けては


マサツグ達をエスコートする。その様子と馬車の在り様にマサツグとカチュアは


ただ互いに戸惑った様子で顔を見合わせては恐る恐る馬車に乗り込み、おじさんが


馬車の扉を閉じると同時に挨拶をしては御者に合図を出し、馬車は動き出す。



「では…ごゆっくり…」



__バタンッ!……パアァ~~ン!!…ヒヒィィン!!…ガラガラガラガラ…



「…内装は普通だな?……」



「…私…この馬車って言う物に乗るの初めてだから良く分からないのね?…」



急いで乗せられた感じのマサツグ達はギルドが用意したと言うこの馬車に


今だ戸惑いを隠せない様子で、馬車の中を見回しては内装は普通だと感じると


その事をカチュアに尋ねるのだが、カチュアは馬車自体に乗るのが初めてだと


答えてはマサツグの向かいの席に座って妙に畏まった様子で椅子に腰掛ける。


初めての馬車…更に今にも三倍速で走り出しそうなこの赤い馬車にカチュアは


まるで人攫いに遭って居る様な動揺を隠せない表情で座って居り、そんな様子に


マサツグが気が付くと徐々に落ち着きを取り戻し始める。



「ッ!……ふぅ~……」



「ッ!…マサツグ?…」



「…とにかく森に着くまで何も出来ない……


後は森に着くのを待つだけだし…リンゴでも食うか?…


ほれ?…」



他人が慌てているのを見てマサツグが徐々に落ち着きを取り戻し始めると


大きく溜息を吐き、その様子にカチュアがマサツグの方を見ては不安そうに


声を掛けるのだが、マサツグは森に着くまで何もないと先ほどの動揺も


消えた様子でカチュアに話し掛け始めては露天商で買った林檎を取り出し、


一つをカチュアに手渡す。その際マサツグに手渡された林檎をカチュアは


全身を使う様に抱き抱え、受け取ったは良いもののこれは何?…と言った


表情を見せてはマサツグに質問をする。



「あっ!……?……ねぇ、マサツグ?…


あのおばちゃんから買った物なのね?これ?…」



「え?…あぁ…そうだけど…」



「これは一体何なのね?」



「え?…」



「え?…」



カチュアは林檎を抱えてまずマサツグに露天商で買ったものかと不思議そうな


表情で質問をし、その答えにマサツグは若干戸惑いながらもそうだと答える。


その質問にマサツグは何を言って居るんだ?と疑問を覚えてしまうのだが、


その疑問を理解させるようカチュアの口から次の質問が飛んで来る…それは


林檎そのものに対する疑問の言葉であった。一部を除き人間誰しもが林檎を


手渡されたら食べ物と理解する筈なのだが、カチュアは林檎が何かを分かって


いないのかマサツグに尋ね、その問い掛けにマサツグが困惑した様子で返事を


すると、カチュアも釣られて返事をする。



「え?…」



「え?…」



{……あっ!…これ本当に分かってない目だ…


妖精の中にもリンゴ食った事が無い奴が居るのか?…}



__…あぁ~ん…ガブシュッ!!…



それはマサツグにとって人生初の質問であった…林檎を手にこれは何?と


尋ねられた事に…カチュアは何かおかしい事を聞いた?と不思議そうな表情を


浮かべてマサツグを見詰め、それを見てマサツグが本気(マジ)だと理解すると、


マサツグは林檎を片手に口を開け、林檎を齧って見せる。マサツグが林檎を


齧った瞬間カチュアは驚いた表情を見せてはマサツグを凝視し、マサツグは齧った


林檎をカチュアに見せては飲み込み、林檎の説明をし始める。



__シャクシャクシャクシャク…ごっくん!…



「…んはぁ!……木の実だよ。


こんな風に中は蜜が詰まってて一口齧れば爽やかな酸味に


口一杯に甘いジューシーな果汁が広がる…


…てか、森に棲んで居れば一回位は見た事あるんじゃないのか?…」



__ブンブンブンブン!…



「無い!…無いのね!?…ほぁ~!…世界にはこんなものも有るのねぇ~!…


…ッ!…あっ!…あぐッ!…あぐあぐッ!…」



マサツグが齧った林檎の断面からは蜜が滴り瑞々しさを感じさせ、そしてマサツグが


軽い食レポ風の語りで林檎が食べ物である事を説明すると、カチュアに自分達の住む


森で林檎を見かけた事は無いのかと質問する。その質問にカチュアは首を横に


振って無いと断言し、興味を持った様子で抱えている林檎を見詰めてはマサツグの


真似をする様に口を開いて齧り付こうとする。しかし体格的な理由も有ってか


思う様に齧り付けず、マサツグの目の前で四苦八苦して見せて居るとマサツグは


それが可笑しかったのか、静かに笑い始めてはカチュアから林檎を取る。



「ッ!……プッ!…クククク!…はあぁ~…


カチュア?ちょっと貸してみ?」



「ッ!…あぁ!…返すのね!!…私も林檎!!…」



「慌てるなって!…ちょっと待ってろ?…」



__チャキッ!…スゥ…サクッ!…サクッ!…サクッパキ!…サクサク…



マサツグに林檎を取られてカチュアが食べたい!と怒った様子で両腕を振り上げ


抗議をするのだが、マサツグは落ち着くよう声を掛けカチュアを宥めると徐に


自身の剣を鞘から抜いて見せる。そしてカチュアの同意も聞かぬままマサツグは


林檎をその剣で斬り始め、カチュアの食べれるサイズに林檎を切り分けて見せると


その切った林檎をカチュアに差し出す。



「ほれ、これなら無理なく食えるだろ?」



「ッ!…むぅ~!!…マサツグみたいに噛り付いてみたかったのね!!…」



「あのままだとお前顎外しそうだったが?…」



「ッ!?…むぅ~!!!いただきますなのね!!!」



__シャクッ!!…ッ!!!……



切った林檎を差し出されカチュアが膨れっ面になると腕を組み、マサツグに


軽くそっぽを向くと文句を言い始める。まるで大人の真似をしたがる子供の様に


拗ねてはマサツグに文句を言い、その文句を聞いたマサツグが呆れて笑いながら


ツッコミを入れると、カチュアはショックを受けた様子を見せて更に膨れっ面に


なり、怒りながらマサツグの切った林檎を手に取り噛り付く。


すると漸く食べる事が出来た林檎の味に感動したのか、先ほどまで不機嫌だった


顔が一気に笑顔になると、カチュアは目をキラキラさせた様子で林檎を食べ始める。



「~~♪…ッんは!…


これおいしいのね!!」



「ははは!…そいつは良かったな!……あれ?…」



初めて食べた林檎の感想を口にしてはマサツグの切った林檎を食べて行き、


その様子をマサツグが微笑ましく見て居るとふとある疑問がマサツグの中で


湧き出て来る…


あの時の露店のおばちゃんは何故マサツグ達に林檎を二つ売ったのだろう?…と、


確かにカチュアはギルドで姿を皆に見えるよう魔法を解いて見せたがその後は?……


馬車案内所のおじさんもカチュアの事に気が付いていた…と言う事は?……


そんな疑問がマサツグの中で生まれるとマサツグはカチュアに尋ねずには


居られないのであった。



「…なぁ?…カチュア?…」



「#ひゃんはほね__何なのね__#?」



「……今お前って誰にでも見られる様になっているのか?…


ギルドを出た時…おばちゃんが林檎を二つくれ…いや、売って来たし…」



「んっん!!……多分見えているのね?


あの魔法は一度解いちゃうとまたティターニア様に掛け直して貰わないと


駄目な魔法なのね!」



カチュアが口一杯に林檎を頬張りながらマサツグに返事をすると、マサツグは


その様子に戸惑いながらも今疑問に感じた事についてカチュアに質問をする。


その際露店のおばちゃんの話を持って来てはそれを踏まえて質問をし、その質問を


受けてカチュアが口の中の林檎を飲み込むと、アッサリ見えるとマサツグに


答えてはその理由も話し出し、その話を聞いてマサツグが心配した様子で


カチュアに再度質問をする



「駄目なのね!…って、大丈夫なのかよ!?…」



「問題無いのね!…今はマサツグも居るし~♪…


私こう見えて妖精の国では魔法弓士をやっていたのね!!…」



「…弓を持っている様に見えないが?……」



「それはぁ……置いてきちゃったのね…あっ!…でもでも魔法は使えるのね!?…


例えばだけど……ッ!…丁度良いのね!」



マサツグの心配する態度にカチュアは余裕とばかりに答えてはマサツグが居ると


豪語し、更に自分は戦えると無い胸を張ってはマサツグに威張って見せ、その際


魔法と弓が使えると自信満々に口にする。その言葉を聞いてマサツグはカチュアの


身なりを目を凝らし確認するも弓らしき物は見当たらず、そしてその事について


尋ねるとカチュアはばつが悪そうな表情を見せては誤魔化したくて仕方が無いと


言った様子で正直に答える。しかし魔法だけでも相当自信が有るらしくマサツグに


その証拠を見せようと馬車の中を見回して居ると、カチュアはある物を見つけては


丁度良いと口にする。その言葉の意味にマサツグが悩んでしまうのだが、


その意味も馬車を操舵する御者の声により理解する。



「ッ!…旦那!!…ちょっと揺れやすぜ!!」



「え?…」



「コボルトの群れでさぁ!!


あいつ等に捕まると色々面倒なんで…一気に駆け抜けてしまいやす!!!」



__ドドドドドドド!!…アオォ~~ン!!…



突然の揺れると言う言葉にマサツグが戸惑った様子で声を漏らすと、


御者はマサツグに見えるようある方向を指差し始める。マサツグも


その御者の指さす方を見て何が居るのかと確認をすると、そこには


御者の説明する通り武装したコボルトの群れがこちらに向かい走って来ては


棍棒を振り上げ、それを見てマサツグが逃げる為の忠告かと理解するのだが、


カチュアの丁度良いと言う言葉の意味には繋がらない…しかしカチュアは


自信満々に御者に大丈夫と答える。



「その心配は無いのね!!」



「え!?…いやいや、旦那達は大丈夫でしょうが…こっちは!…」



「あいつ等には私達を見つける事は出来ないのね!!…行くのね!!…


《…光りよ!…屈曲して我らを隠せ!!…ノーモンスターチェック!!》」



カチュアの大丈夫と言う言葉に御者が慌てて見せ、マサツグ達は大丈夫だろうと


話して自分達は大丈夫では無いと馬車の心配をし始める。しかしその御者の言葉を


カチュアは聞く耳を持たず、ただ自信満々に胸を張っては意味有り気にコボルト達は


見つける事が出来ないと豪語し、そして何かをやる様子で意気込んでは目を閉じて


詠唱し始める。そして直ぐに詠唱を終え魔法を発動するとカチュアの唱えた魔法は


マサツグ達の乗る馬車を囲む様に障壁を張り出す!



__シュウゥゥゥン…パシィィン!!…



「カチュア!?…一体何を!?……え?…」



__……アオン?…



「な…何で?…」



カチュアの唱えた魔法はただ障壁を張っただけにしか見えず、その障壁も厚みが


薄く心許無い…その様子にマサツグが慌ててカチュアに何をやったのかと


尋ねようとするのだが、カチュアはドヤ顔を決めてはマサツグにコボルトの群れを


見るよう指差し、その様子にマサツグが戸惑いながらもコボルドの群れが


有った方を確認すると、そこには敵を見失ったと言った様子で辺りを見渡す


コボルド達の様子が目に映る。その様子にマサツグが戸惑いコボルド達の様子を


ジッと見て居ると御者も戸惑った様子で声を漏らし、二人の反応を見てカチュアが


更にドヤっと言いたげな表情で腰に手を当て胸を張る。



__ドヤァ!!…



「えぇ~…」



「…こりゃすげぇ!!…


ここのコボルドはそこいらの盗賊共より質が悪いって有名なんでさぁ!!…


だからここを抜ける際は馬を走らせたり…護衛を数人雇うのですが…


この魔法!…便利ですなぁ!!…」



__ドドヤァ!!…



ドヤ顔を決めるカチュアにマサツグが戸惑った表情を見せて居ると、御者が素直に


カチュアの魔法を褒め始め、そして先ほどのコボルドについて軽く説明をし始めると


改めてカチュアの魔法を称賛する。その御者の言葉を聞いてカチュアが更にドヤ顔を


決めてマサツグに視線を向けると、マサツグは戸惑いながらもそのカチュアの期待に


答えるよう呟き、カチュアの頭を撫でようと手を置いて見せる。



「…分かったよ!…お前はスゲェよ!…」



__ポンッ!!…ッ!!!!…



「はにゃ!?…」



「ど…如何したんだ!?…」



「え?…え!?…な、何でも無いのね…」



マサツグがカチュアの頭の上に手を置いた瞬間、カチュアは跳ねる様に動揺しては


マサツグから一気に距離を取って顔を赤くする。その突然の反応にマサツグが驚き


カチュアに何か悪い事をしたのかと尋ねるのだが、カチュアはただ顔を赤くしては


戸惑い、動揺したままマサツグに返事をする。その様子からはカチュア自身も


初めて…と言った様子で顔を赤らめ、マサツグもそんなカチュアの様子に戸惑って


居ると馬車は何事も無くコボルト達の群れを通り過ぎて行くのであった。



__三十分後……



「…見えてきやしたぜ!!旦那!!!」



「ッ!…どれどれ……?…」



本来ならその森に辿り着くまでに二日は掛かると聞いていたのだが、何故か


異様なまでにその日の内に迷いの森までやって来る事が出来たマサツグ達…


御者の森が見えて来たと言う言葉に反応してマサツグが馬車の窓から顔を出すと、


御者の言う通りにその異様な雰囲気を放つ森が見えて来るのだが、何かが


可笑しい…そんなマサツグに遅れて御者も迷いの森について軽く説明を


しようとするのだがマサツグ同様その森の異変に気が付く。



「あの森がかの有名な迷いの森……って、え?…ッ!?…


な…何であいつが!?…」



「着いたのね!?何なのね~!?…ッ!?…」



御者が驚いた反応を見せてはマサツグがその反応に戸惑いを隠せない様子で


窓から顔を出し、カチュアも漸く帰って来れたと言った様子でマサツグが


覗く窓から一緒に森を確認するのだが、マサツグと御者同様ある物を目に


すると少し驚いた様子でその異変を凝視し黙ってしまう。その際カチュアの


動揺も馬車に揺られていつの間にか消えて無くなり、またいつもの様子で


マサツグと一緒にその森の異変に目を向けるのだが…そのマサツグ達の


視線の先には今まで見た事の無いモンスターが森の入口に鎮座していた。



「な…何だ?…あの熊は?…ぬいぐるみ?…


いや…でもこんな巨大なぬいぐるみ…森の前に置いて有るのか?…」



マサツグ達の目に映ったのはモンスター?…とにかくその場の雰囲気には


不似合いな程のファンシーな熊の人形、更にその熊は武装をしているのか


木製の兜やら鎧やら色々着込んでおり、その辺に居る冒険者より余程


しっかりした装備をしていた。その様子にマサツグが何だアレは?…と


言った様子でジッとその熊の事を見詰めて居ると、御者が慌てた様子で


馬車を止める。



__ガガガガガ!!…ヒヒイィィン!!!…



「うおあ!?…ッ!!…っと!…な、何だ!?…」



「あぁ!…大変だぁ!!…旦那!!


すまねぇが乗せられるのは如何やらここまでの様だ!…」



「え?…」



馬車が急ブレーキを掛けると中に乗っていたマサツグ達は転がりそうになり、


それでも何とか踏ん張って見せると何事だとマサツグが戸惑って見せる。


そんなマサツグに御者は乗せられるのはここまでだと慌てた様子でマサツグ達に


話し、その突然の馬車ストップにマサツグが困惑した様子で戸惑って居ると、


御者は不味いと口にしては止まった理由についてマサツグに話し始める。



「これ以上あいつに近付いたらヤバイ!!…


こっちがやられちまう!!!…」



「ッ!?…そんなにヤバい奴なのか!?…」



「ヤバイなんてもんじゃねぇ!?…あれは…バケモンだ!!…」



「バケモン!?…」



御者はこれ以上近付けば殺されると言った恐怖観念に襲われては決して馬車を


動かそうとはせず、ただマサツグが馬車から降りるのを待ち始める。距離にして


後数m…その熊のモンスターは眠りこけて居るのかその場に体育座りをしては


舟を漕いでいた。そんな狂暴そうには見えない外見にマサツグが困惑し御者に


危険度について尋ねようとするが、御者はただ怯えた様子で首を横に振っては


化け物と答えるだけ。そんな御者の言葉にマサツグは戸惑いつつもその熊を


ジッと見詰め、如何したものかと悩み考えて居るとカチュアがその熊に向かって


一直線に飛んで行き始める。



__バッ!…ヒュウウゥゥゥン!…



「ッ!?あっ!…おい、カチュア!?…」



「大~丈~夫!…なのね!!


ほら早くマサツグも!!…」



「えぇ……」



カチュアが熊に向かい飛んで行くのを見てはマサツグが慌てて呼び戻そうとする。


しかしカチュアは笑顔で振り返り大丈夫と言ってはマサツグに早く来るよう


呼び掛け、そのカチュアの言葉にマサツグが戸惑った表情を見せては声を漏らす!…


御者が言うにはとんでもない化け物!…カチュアが言うには大丈夫!…


どっちが正しいのか全く分からないマサツグではあるのだが、ここで悩んで居ても


仕方が無いと考えるとカチュアの言葉を信じて馬車から降りる。



__ガチャッ!…コッ…コッ…コッ…コッ…



「ッ!?…ちょ!ちょっと旦那!?…あんた本気で行く気かい!?…」



「…一応依頼人なんでね?…あの子…


ありがとう!…ここまでで十分だよ。」



「ちょ!…幾らギルドの重要任務とは言え命を掛けるってのかい!?…


今ならまだ引き返せるぞ!?旦那!!!……行っちゃったよ…」



マサツグが馬車から降りてカチュアの後を追おうとすると御者が慌てた様子で


マサツグを呼び留め、マサツグはカチュアを信じた様子で後を追いながらも


ここまで運んでくれた事に対して御者にお礼を言う。そんなマサツグに御者は


今なら引き返せると心配した様子で声を掛けるのだが、マサツグは聞く耳を


持たないでそのまま歩いて行ってしまう。御者が如何しようかと慌てた様子で


マサツグ達の様子を見詰めて居ると、カチュアは一直線にその熊に向かって


飛んで行っては、遠慮無しに熊へ抱き着く。



__ヒュウウゥゥゥン!…



「く~ま~ご~ろ~う~!!!」



__ピクッ!…ドゴスッ!!…



「んごはぁ!?…」



カチュアが恐らくその熊の名であろう名前を上機嫌で呼び、その呼び掛けに


反応してか熊が耳をピクっと動かした瞬間、真っ直ぐに飛んで行ったカチュアは


熊の首を狙う様に激突する。その際熊からダメージボイスが聞こえてカチュアに


抱き着かれたまま横に倒れると、その光景にマサツグと御者が呆気に取られては


同時に絶句する。そして冷や汗を掻き始め何やってくれてんだ!?…とカチュアに


ツッコミを入れたい所なのだが、そのカチュアはと言うと熊の首にくっ付いたまま。


そうしてマサツグと御者は目の前で起きた光景にショックを受け動けないで居ると、


その熊五郎とやらがゆっくり起き上がる。



「あ~…たたたたた……ん?…おお~!


カチュアの嬢ちゃん!…無事に戻って来たんですかい?…」



「く~ま~ご~ろ~う~!!


お久しぶりなのね!!!」



__く~るくる!…く~るくる!…



「はははは!…無事に帰って来て何よりです!


…ところで…」



__チラッ…



中々の衝撃を受けたのかその熊五郎は自身の首を動かし、カチュアに気が付いた


様子で声を掛ける。その熊五郎の言葉にカチュアが笑みを浮かべて返事をすると


熊五郎とカチュアが互いに手を取り合い、踊る様に回り始める。余程再会が


嬉しかったのか互いに笑いながら五分間は回り続け、漸く落ち着いたのか


カチュアが戻って来た事を喜びつつも、熊五郎はマサツグ達の存在に気が付く


のであった。


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る