-第一章十六節 奇跡の帰還と満身創痍と一つ目巨人の目玉-



サイクロプスを倒した事に尋常じゃない勢いで喜び勝利の雄叫びを上げるマサツグ。


その際宗玄が先程まで感じていたマサツグに対する畏怖の念は何処かへ吹っ飛び、


感じていた筈の恐怖心とマサツグの気迫は何処へ行ったのかと悩み始めるのだが、


今はサイクロプスを倒せた事に安堵すると重い腰を上げてはマサツグの居る方へと


歩き出し、マサツグに声を掛けて称賛する。



__ザッ…ザッ…ザッ…ザッ…



「…いやぁ…見事であったぞ!…マサツグ殿!!…


まさかあの巨体を斬ってしまうとは!!…」



「ッ!…いやぁ…無我夢中だったんだけどな!!…


何とかなったわ!!…はは!!…どんなもんだってんだこの野朗!!」



宗玄に声を掛けられたマサツグが振り返り、自身の後頭部に手をやり掻きながら


照れているとまだ興奮冷め止まないと言った様子で返事をする。本人も斬ったと


言う自覚が無いと言う言葉に宗玄が若干戸惑った様子を見せるのだが、とにかく


現状の戦力でサイクロプスを倒せたと言う事に改めて安堵して笑い始めると


ハリットとアヤの事が気になったのかマサツグに二人の事について尋ね始める。



「ははは!……それよりもハリット殿とアヤ殿は?…


確か最後に見た様子が正しければ…あの岩陰に…」



「ッ!…そうだアヤが!!…」



「…ではやはり……ならば拙僧はマトックとデクスター殿を……


あの分では恐らく…」



宗玄に二人の事について尋ねられるとマサツグはアヤの容態が不味い事を思い出し、


二人が隠れている岩陰へと宗玄を案内しようとする。


その様子から二人を先導したのはマサツグだと宗玄が察し、二人の無事を確かめると


後の事をマサツグに任せるよう手で合図し、宗玄は別の方へと動き出そうとする。


その際サイクロプスにやられたであろうマトックとデクスターの確認をマサツグに


話し、二人の姿を探そうとするのだがその宗玄の声は悲観的に聞こえる。


何故ならばサイクロプスとの戦闘を終えた場所を振り返ると、その有様はまさに


爆撃を受けたかの様に地面はガタガタ…辺りには幾つものクレーターが出来ており、


月夜の光だけでも十分に分かる位に荒れに荒れていた。そんな状態の中二人の無事を


祈るのは難しいと思いつつも激戦を終えた戦場跡をマサツグと宗玄が


見詰めていると、突如二人の後ろから聞き覚えの有る声が聞こえて来る。



「……その心配は要らねぇよ…」



「ッ!?…え?…その声は!!…」



__ザッ……ザッ……ザッ……ザッ……



聞き覚えの有る…と言うよりはもう聞けなくなった筈の声が聞こえて来た事に


マサツグと宗玄の二人を振り向かせ、そうして二人が声のする方を振り返ると


そこにはサイクロプスにやられた筈の二人が互いに肩を貸し合う様にして


立っており、マサツグ達の方へと徐々に近づいて来ていた。その影を見る限り


宗玄が探そうとしていたマトックとデクスターで、二人が生きていた事に


マサツグと宗玄が驚いて居るとマトックがマサツグ達に話し掛け始める。



「……すまねぇ!!…完全に頭に血が上って周りが見えていなかった!!!…


皆を危険な目に合わせた上にその後始末まで!!!…」



「…あっしも勝手に一人焦って…よく考えもせずにあんな事を!!…


すまねぇでやんす!!!…」



{マトック!!…デクスター!!……お前らぁ!!…


生きとったんかいワレェ!!!…}



マサツグと宗玄に合流するなりマトックが謝罪の言葉を口にし反省の様子を


見せ始めると、続いてデクスターも迷惑を掛けたと反省と謝罪の言葉を


口にする。その際マトックの姿はとんでもない事にブロンズ製の鎧は半分


吹き飛び、左肩は外れたのかそれとも骨折したのか…在らぬ方向に向いて


腕をプラプラとさせ、顔の半分が酷く擦り切れた様子でザクザクに切れて


おり、そして見事なまでに腫れ上がっている。そしてデクスターの方も


マトックほど重症では無いものの右腕は完全に使い物にならなくなったのか、


マトック同様プラプラと力無く垂れさがっては投げナイフが数本…自身に


刺さったままのボロボロの姿を見せる。二人揃って満身創痍の姿にマサツグが


驚き、その表情を隠さず見せては心の中で無事を喜ぶと同時にツッコミを入れ、


宗玄は二人が生きていた事は奇跡だと言った様子で戸惑いを露わにする。



「お主達!!…よくぞ無事で!!!…」



「…宗玄…今からハリットとアヤの居る所に行くんだろ?…


俺達も連れて行ってくれ…」



「ッ!?…馬鹿を言うな!…そんな体でまだ歩こうと言うのか!?…


このまま先に戻って休め!!…それ以上無理をすればどうなるか!…」



「宗玄!!…これは俺達なりのケジメなんだ!!!…


ちゃんと会って謝らねぇと気が済まない!!!…今回こんな事になったのは


間違いなく俺のせいなんだ!!!…分かってくれ!!!…」



マサツグと宗玄の二人が生きて帰って来たマトックとデクスターにただ驚いた


様子を見せて居ると、マトックはボロボロの姿のままハリットとアヤの居る所に


案内するよう頼み始める。少しでも体を動かすのは辛いであろうマトック達が


マサツグ達に頭を下げ、その様子と態度に宗玄が慌てて止めるよう声を掛ける


のだがマトックは一歩も退こうとはせず、ケジメはしっかり付けると豪語しては


一向に頭を上げようとしない。そんなマトックやデクスターの様子に何も


言えなくなった宗玄がグッ!…と戸惑った表情を見せて居るとマサツグが溜息を


吐いては二人が隠れている岩陰へと歩き出し始める。



__……ザッ…ザッ…ザッ…ザッ…



「…ッ!!…マ…マサツグ殿?…」



「…今までにいくら言っても言う事を聞いた事は無いでしょ?……


それに今はモンスターの影も無い…どうせ俺達も結局はハリットやアヤの回収に


向かわないといけないんだ…嫌でも付いて来るだろ?…」



「ッ!!…しかし!!…」



岩陰へと歩き出したマサツグに宗玄が気付くと慌てた様子で声を掛け、その宗玄の


呼び掛けにマサツグは振り返る事も無く、足を動かし続けては止めるだけ無駄だと


今までのマトックの行動から見て分かっている事を話し始める。そしてハリットと


アヤの容態も気になると言った様子で宗玄に返事をしては、その返事に宗玄が


戸惑うのだがマサツグは無駄だと言ってアヤ達の方へ行く事を止めない。



「無駄だって宗玄…マトック達の意思はサイクロプスの拳より固ぇぞ?…」



__ザッ……ザッ……ザッ……ザッ……



「ッ!!……はあぁ~…致し方あるまい…」



__ガッ!!…



「ほれ!!…しっかりせい!!!…」



マトック達もマサツグに付いて行けばアヤ達に会えると気づいたのかフラフラ


しながらもマサツグの後を追い始め、そのマトック達の様子に宗玄が遂に諦めた


様子で大きく溜息を吐いてはマトックとデクスターに手を貸し始める。宗玄が


手を貸してくれた事にマトックとデクスターが無言で頭を下げ、そうして


満身創痍の野郎四人が岩陰に隠れているハリットとアヤの元まで歩いて行くのだが、


その一連の様子をジィ~…っと誰にも一切気付かれる事無く見詰めていた謎の人物は


満足げに笑みを浮かべると、一人楽しかったと言わんばかりに笑みを浮かべては


独り言を口にし始める。



「…くふふふふ♪……ほんに!…ほんに楽しき武舞であったわ!…


…まぁ予定とは少々違った所もあったが…


やはりあのマサツグとやらは実に面白い奴じゃ!…


その場の知恵と勇気であのサイクロプスを倒しおるとは…ますます気に入った!!…


……もしかすると本物なのやも?…くふふ♪…


どれ?…もう少し憑いてあの者の将来を見て見るとするかの?…


…くふふふふ♪……」



__ヒュルン…ドロン!…



一頻り満足した様子でその謎の者はマサツグの事を気にすると宙でクルンと回って


見せてはその場から姿を消す。勿論マサツグや他のメンバー達に気付かれる事無く


姿を隠すと、辺りから少しだけ花の匂いをがする風が巻き起こる。そうして話は


マサツグ達の方に戻ると…ハリットはアヤの介抱に努め、マサツグ達が歩いて来て


いる事に気が付くと杖を手に岩陰から姿を現して、死んだと思ったメンバーが


生きていた事に涙を流し始める。



__ザッ…ザッ…ザッ…ザッ……ッ!…コソォ…



「……ッ!?…マトックさん!?…デクスターさんに宗玄さんも!?…


……ッ!!…ッ!!!…よかった!!…よかったですよぉ~~!!!…」



「ハリット!!アヤの様子は!?…」



「はい!!…スンッ!…サイクロプスに握り潰されそうになっていたせいか骨折に


ヒビ…などが見られたので取り敢えずは応急処置を…


幸い…複雑骨折にはなっていないみたいなのでくっ付くまでの間は落ちていた木と


布で完全固定で、マサツグさんが渡してくれたポーションの回復効果を利用して


何とか回復力を高めた状態に…


…本当ならちゃんとした場所で手術をしたいのですが…」



ハリットが涙を流し全員が生きて居る事に感激しているとマサツグが慌てた様子で


アヤの容態を尋ねると、ハリットは泣いたままの様子で鼻を啜ってマサツグの質問に


答えるようアヤの容態を話し始めては、自分が行った処置方法まで詳しく話す。


その際ハリットがちゃんとした治療をしたいとアヤの心配をした様子で話すのだが、


その的確な処置をしたハリットに宗玄やマトックが驚いた表情を見せて居ると、


医術に関してのスキルが無いマサツグが分からないと言った様子で一人固まって


しまう。そうして全員がハリットの意外な医学能力に驚いて居ると、岩陰からアヤの


声が聞こえて来てはハリットを安心させる様に声を掛け始める。



「…それでも十分よ…」



「ッ!?…アヤさん!?…」



__ダッ!!……



「……ッ!!…」



岩陰から聞こえて来たアヤの声にハリットが反応しアヤの方へ駆けて行くと、


マサツグや他のメンバー達もゾロゾロと岩の陰へと移動する。そして岩陰に隠れる


アヤを目にしたマサツグ達にはハリットの言う通り…上腕骨(じょうわんこつ)と


橈骨(とうこつ)を添え木と布で固定された右腕に、大腿骨(だいたいこつ)と


脛骨(けいこつ)と同じ様に添木と布で固定された左足が目に映る。その他にも脱臼を


嵌めて貰ったのか動く左手で右肩を押さえては痛みに耐える表情を見せており、


恐らく他の部位の骨にもヒビや骨折が有る場所には布だけが包帯の様に


巻かれていた。それを見たマサツグや他のメンバーがアヤの姿に唖然とし、


何も言えずに立ち尽くしているとアヤはマサツグに謝り始める。



「マサツグ…ゴメンね…


私の為に危険な役回りをさせちゃって…これじゃあ先輩失格ね?…」



「ッ!…何言ってんだよアヤ!!…


今生の別れみたいな事言って…とにかく終わったんだから回復に専念しろ!!…」



「……?…ッ!……ふふふ♪…


これじゃあどっちが先輩か分からないわね?…」



「ッ!……はあぁ~…ったく!…とにかく大丈…」



アヤはマサツグにサイクロプス退治を押し付けた事に対して反省した様子を見せては


マサツグに謝り、その際まるで今自分の死を悟った様な不安になる言い回しを


すると、マサツグが慌ててアヤに注意をする。そのマサツグの言葉にアヤが苦痛に


耐えながらも不思議そうな表情を見せてはマサツグを見詰め、マサツグの心配そうな


表情を見て何かを察したのか辛うじて笑って見せると軽口を叩いて見せる。そんな


アヤの様子にマサツグが不安そうながらも笑みを浮かべて返し、その場の空気を


変えようとするのだが、今度はマトックがアヤに対して頭を下げて謝罪し始める。



「アヤ!!!…」



__ガバァ!!!…



「ッ!?…え?…ちょ!?…ッ!!~~~……」



「すまなかった!!!…お前の言う事を聞いていればこんな事には!!!…


全員を危険な目に!!…アヤ、お前をこんな姿に変える事は!!…」



「落ち着いて下さい!!!マトックさん!!!!…


貴方も大怪我をしているのですよ!?…あぁ!!…見ただけでも骨折に…


打撲!!…擦過傷に…この腫れは完全に血が溜まってる!!…このままだと


感染症も!!!…それにデクスターさんに至ってはナイフが!!!…」



突然マトックがアヤに対して倒れ込むよう頭を下げては声を掛け、その事に驚いて


アヤがビクッと体を動かすと体に響いたのか苦痛に表情を歪ませ痛みに耐え始める。


その事にマサツグが戸惑い慌てて駆け寄り、ハリットがマトックとデクスターの


容態を見ては酷く驚いた様子で大慌てし始める。サイクロプスを倒し終えてまだ


こんな波乱が残っているのかとマサツグ達が慌てていると、徐々に夜が明け始めて


来たのか辺りが日の光によって照らされ始める。



__……パアアァァァァ!!……



「…ッ!……夜が明けたか……」



__………。



長く感じた夜が漸く終わり…日が昇り始めた事に宗玄が気付き一言呟くと、


他のメンバーも一斉に昇る朝日に注目し始める。もしかするとこの光景を


見る事が出来なかったかもしれない事実に改めて衝撃を受けてはジッと


朝日を見詰め続けるのだが、ここでハリットがハッ!と我に返った様子で


意識を取り戻すとキビキビとマサツグと宗玄に指示を出し始める!



「…ッ!…とにかくマトックさんとデクスターさんは馬車へ!!!…


宗玄さんは少し手伝ってください!!!」



「ッ!?…りょ、了解した…」



「マサツグさんはアヤさんを極力揺らさない様に!!!…


馬車へと移動させてください!!!…


一応見た限りではエルフ特有の頑丈な体で骨折も然程酷くは無いのですが…


詳しい検査をしていない分不安が有ります!!!…多少遅くても構わないので!!…


よろしくお願いします!!!!」



「わ…わかった…」



最初に出会った頃…そしてサイクロプス戦の時とは違い、テキパキと動ける


マサツグと宗玄に負傷者の移動を指示するハリット、まるでドラマの熱血系


口調の正しい医者の様な気迫で指示をするので、マサツグと宗玄がハリットの


豹変具合に戸惑いながらも指示に従うと、宗玄はマトックとデクスターに肩を


貸し、マサツグはアヤをお姫様抱っこする。そうして元の野宿して居た場所まで


極力刺激しない様に戻って行くと、既にその野宿地ではマサツグ達の事を


探しに来たのかマルコが立っており、辺りを見渡しマサツグ達を見つけると


そのマサツグ達の様子に慌てて駆け寄る。



__ッ!?…タッタッタッタッタッ!!…



「み…皆さん如何してそんな!?…一体何が!?…


それよりも大丈夫なのですか!?…」



「あははは…満身創痍です…」



「えぇ!?…」



心配した様子でマルコが駆け寄って来てはマサツグ達の状態を見て顔を青くし、


何が有ったのかと驚き戸惑った様子で事情を尋ね、更に護衛メンバー全員の


安否を確認する。そのマルコの質問にマサツグが苦笑いをするしか無く、ただ一言


満身創痍と全員の事を指してそう告げるとマルコは困惑気味に言葉を漏らし、


宗玄が今だ信じられないと言った様子で俯いては何が有ったのかをマルコに


説明し始める。



「…サイクロプスが現れたのですよ……


真っ直ぐこちらに向かい歩いて来たので応戦して…この様です…」



「ッ!?…さ、サイクロプス!?……そ、そんな馬鹿な!?…


…でそのサイクロプスは!?…」



「何とか倒しましたよ…その代わりに…


マトックとデクスター…アヤがこの通りですが…」



「な!…何と!!…」



宗玄がサイクロプスと戦闘をした事について話し始めるとマルコもまさか!?と


言った様子で驚き、そのサイクロプスはどうなったのかと尋ねると宗玄が倒したと


答える。しかし言うまでも無くその表情は暗く、マトックとデクスター…そして


アヤと負傷者を目にしては厳しかったと視線だけでマルコに伝え、その宗玄の視線に


気が付いたマルコは驚愕した様子で若干後ろに仰け反る。そしてマルコも突如ハッ!


とした表情を見せては慌てた様子で馬車へとメンバーを案内し始める!



「と…とにかく馬車へ!!…ある程度の治療はそこでも出来ると思います!!…


宗玄殿達は少々待って下され!?…


今手を貸せそうな者を連れてまいりますので!!…」



「いや!…拙僧はまだまだ…」



「何を言っているのですか!!…見た所貴方もかなりの深手を負っている様子!!…


そのまま二人を担がせるのは酷と言うもの!!!…とにかく直ぐに呼んで来ますので


お待ちを!!!…」



マルコが慌てる様にマサツグ達に馬車へ来るよう呼び掛けてはマトックと


デクスターに肩を貸している宗玄へその場で待つよう声を掛け、マルコが


続けて助けを呼んで来るよう言い聞かせるのだが宗玄は自分はまだ動けると


言った様子でマサツグの後を付いて行こうとする。しかしマルコはそんな


宗玄の様子を更に心配した様子で言葉を掛けると宗玄の容態を看破した様子で


言い聞かせ、マサツグより先に馬車へと走り出して行くと宗玄達の手助けが


出来る者達を連れてこようとする。



__タッタッタッタッタッ!!……ッ!!…ッ~~!!!…ッ!?…



「ッ!……忝い!…」



__タッタッタッタッタッ!!…



「…はぁ!…はぁ!…お待たせしましたぞ!…」



マルコが一人急いだ様子で駆けて行っては馬車に辿り着き、出発の準備をしている


自分の部下に手伝う様に身振り手振りで説明しているのが遠目からでも良く分かる。


そんな様子に宗玄が一言マルコに対して感謝の言葉を告げると素直にマルコの助けを


その場で待ち、マルコが三人ほど部下を連れて急いで戻って来ると宗玄達は


そのマルコの部下の肩を借りて馬車まで辿り着く。そうして全員が満身創痍ながらも


馬車に乗り込む事に成功すると、ハリットがマトックやデクスター、宗玄とアヤの


治療を始める。その際マサツグはマトックやデクスターが辛うじて生きていた事に


奇跡を感じると、思わずどうやって生き残ったかについて尋ねる。



「……そういえばマトック…アンタ良く無事…とは言えないけど生きてたなぁ?…


アレを見た時正直もう駄目だと思ったぞ?…」



「ッ!…はっはっは!…まぁな…一応これでもあの時咄嗟に避けようとしたんだが


避け切れなくてな?…気が付いたら空を飛んでて体も動かなくなっていた…


正直俺も死んだと思ったさ…」



マサツグの問い掛けに対してマトックが笑って見せるも直ぐに若干落ち込んだ表情を


見せてはその時の状況を説明し始める…マトックは確かにあの時サイクロプスに


向かい走り出そうとし、その際サイクロプスが起こした振動で足を取られると


その場で転倒…その直ぐ後位に暴れるサイクロプスのアッパーカットを貰い宙を


舞ったのだが、本人曰くその数秒の間に飛んで来たアッパーカットを回避しようと


したらしい…しかし回避し切る事が出来ずに被弾すると打ち上げられ、そのまま


地面に叩き付けられるとボロボロの満身創痍の状態で気絶に陥ったと言う。実際


マトックが負った傷を見ると左半身がボロボロで右半身は何ともない様に見える…


あの咄嗟の出来事でそれを判断したのか?…とマサツグがマトックの野生の勘に


戸惑いながらも今度はデクスターに質問し始める。



「そ…そうなのか…でもデクスターは?…確か踏み潰されて…」



「実はあっしが踏まれた場所…実は若干窪地になっていまして…


そこに嵌る様にして踏まれたもんですから多少は…それでもかなりキツくて


ベルトに差してあったナイフが自分に刺さったと言う事でやんす…


オマケに逃げたくても思う様に立ち上れなくて…」



「な…なるほどな?…」



続いてマサツグがデクスターに質問をするとデクスターは自分が生きているのは


奇跡だと言った様子で、そのサイクロプスに踏まれる前に落ちた場所についてを


話し始め、デクスターが落ちた場所が若干の窪地であった事を話すと丁度体が


そこに嵌る様にして踏まれたと説明をする。しかしそれでもサイクロプスの体重を


全身で受けて居る事には関わらず、その重みでベルトに差してあったナイフが


背中に刺さったと言ってはマサツグにそのナイフが刺さっていた痕跡を見せ、


嘆いた表情を同時に見せる。その際デクスターの体を良く見るとサイクロプスに


踏まれたのをハリットが治療したのか、肩に足…そして鼻と潰されたのを修正した


跡が見受けられた。更に本人も逃げたくても逃げられなかったとその時の恐怖を


思い出した様に話し、マサツグがデクスターの話を聞いて更に戸惑った表情を


見せるとそれ以上は聞くまいと考える。そしてサイクロプスを倒したという証拠に


マサツグのアイテムポーチの中にはレアドロップ品として有る物が収納されていた。


    ----------------------------------------------------------------------


             サイクロプスの眼球


               レア度 B


   サイクロプスの巨大な眼球…大の大人が両手で抱えないと持てない


   大きさで、勿論眼球で有る為じっとりヌトヌトと濡れていて


   持ち上げ難い。更にほぼ水分で出来て居る為重い…魔法系の店に


   持って行くと高値で買って貰える。尚、傷の無い状態で手に入れる


   のは難しい為、もし傷無く手に入れる事が出来れば冒険者としての


   腕を認めて貰える。


    ----------------------------------------------------------------------



{……如何すんだよ……これ?…}



そのアイテムを手に入れた事に気が付いたのはサイクロプスにばら撒かれた


アイテムを回収している時であった。アヤとハリットを馬車に乗せるとマサツグは


一人サイクロプスと激戦を繰り広げた場所へと戻り、そのばら撒いたアイテムを


回収し始める。その際幾つか見つけたポーション瓶にヒビが入っては漏れ出したり、


完全に割れて中身が地面に座れているなど、被害が大きかったなぁ…とマサツグが


地味にショックを受けている時…無事だったアイテムをアイテムポーチに


仕舞おうとした時にそれを見つけてしまう。



「……はあぁ~…


HP回復系のポーションは大体五個が駄目で…


TP回復系は大中小合わせて残り六本…


後は全部地面が飲んじまって異様なまでに草が成長してると…


その他のアイテムは無事だったけど…中々に痛い出費になっちまったなぁ~…」



__カチャッ!!…パカッ!!…ギョロ!?…



「……ギョロ?……でゅうええぇぇぇッ!?!?!?!?…」



マサツグが無事だったポーションを手に取り、アイテムポーチを開けて


そのポーションを中に仕舞おうとした瞬間、中から聞いた事の無い擬音が


聞こえて来てはマサツグの手を止めさせる。そして聞こえて来た擬音に


マサツグが疑問の表情を浮かべ、その擬音が聞こえて来たアイテムポーチの


中を覗くとそこには入れた覚えなど全く無い巨大な瞳がマサツグを見詰めて


おり、それに気が付いたマサツグが酷く驚くと手に持っていたポーションを


危うく落としそうになる。



__ツルッ!…



「ッ!!…うわああぁぁぁぁとととと!!!……ふぅ…


な…ななな何でこんな物が!?……って、サイクロプスの目ぇぇ!?…


いやいやいやいや!!…サイクロプスの目って!!…デクスターとアヤが


潰してたじゃねぇか!?…なのに何で傷が無い!?…えぇ……


これってあれ?…モン〇ンで言うあれ?…明らかに尻尾は一本しか無いのに


何本も取れちゃう現象的な?…謎の増殖理論?…


…それにしたって……ねぇ?…」



まず如何やってマサツグの背中半分位しかない斜め掛けカバンのアイテムポーチに


サイクロプスの目が仕舞えるのだろうと言う疑問が出て来るのだが、マサツグは


自身のアイテムポーチの中にサイクロプスの目が入って居る事に驚いて


ただ戸惑い、思わず何の目かを確認してそれがサイクロプスの物だと分かると


潰した筈と声を大きく自問自答を繰り返しては、ゲーム的なアレで済ませようと


自身の心を落ち着ける事に必死になる。それもその筈だ、漸く終わった戦闘で


アイテム回収をしてそのアイテムを直そうとした瞬間カバンの入口一杯に目玉が


こんにちはして居れば誰でも取り乱す。更にその目玉の大きさは約35cm…


かなり大きくアイテムポーチに仕舞おうにも入り口が引っ掛かり仕舞えないし、


取り出すのも難しそうである。一応アイテムポーチが某有名青い狸ロボット


よろしく四次元構造だと言う事は理解して居るものの、その光景を目にしては


ただ戸惑うしかなかった。そんな事が有ってから今現在…モンスターに襲われる


事無くクランベルズに向けて進む馬車の中…誰にもその事を告げずに一人


マサツグがアイテムポーチを抱えたまま悩んで居るとその様子に気が付いたのは


ハリットであった。



__ガラガラ……ガラガラ……



「……?マサツグさん?…如何したのですか?……ッ!?…


まさか今になって何処か痛むのですか!?…」



「え?…うぇえぇ!?…い、いや何でも!?……ッ!?!?……」



ハリットがマサツグの不審な動きに気が付いては不思議そうな表情でマサツグに


質問をした後、まさか全員に黙って自身の怪我を隠して居るのではと誤解を


すると、ハリットがマサツグに近付いては容態を見ようとし始める。そのハリットの


突然の行動にマサツグが戸惑った様子を見せ、何でもないと返事をし慌てて答える


のだが、マサツグはこの時アイテムポーチが若干開いて居る事に気が付いてしまう。



{しまったぁぁぁぁ!!!…


まぁた俺のアイテムポーチから目玉がこんにちはしてやがるぅ~!!!…


これは他の物に見られると色々と不味いから何とかしないと!!!…}



「ッ!?…背中ですか!?…背中なんですか!?…


悪化する前に見せて下さい!!!…」



「いや大丈夫!!!本当に大丈夫!!!神に誓っても大丈夫!!!…


大丈夫だから服を脱がそうとしないでぇ~~!!!!」



「えぇ~い!!!抵抗しないで下さい!!!…


そのまま放置して!!…悪化したら大変なんですからね!!!!」



マサツグは自身のアイテムポーチが開いてその口からまた目玉が見えて居る事に


気が付くと冷や汗を掻いて慌て始め、そのマサツグの様子を不審に感じたハリットが


やせ我慢をしていると誤解をすると、更に詰め寄り無理やりにでも剥ごうと


マサツグの服に手を掛ける。その事にマサツグが戸惑いハリットに大丈夫と何度も


訴えては止めるよう言うのだがハリットは全く聞く耳を持たずにマサツグの服を


無理やり剥ごうと更に力を入れる。そうしてマサツグとハリットの攻防は少しの間


続くのだが、マサツグのアイテムポーチがその攻防で何度も揺り動かされていると


何故か目玉が独りでにポーチから飛び出しては馬車のメンバー全員にこんにちはを


する。



__ガサゴソガサゴソ!!…シュ~…ポン!!…



「ッ!?……あっ…」



「……え?…」



__ッ!?!?!?……



何故独りでにサイクロプスの目玉が飛び出したのかは分からないのだが…


その飛び出した目玉が宙を舞い、ハリットの頭上にやって来るとマサツグが


しまった!?と言った表情を見せては慌てて戸惑い、ハリットはマサツグの


アイテムポーチから突如飛び出して来たサイクロプスの目に気が付くと、


キョトンとした表情でその宙に浮かぶ目を見続ける。そうして他のメンバーも


マサツグのアイテムポーチからサイクロプスの目が飛び出した事に驚いては


目を凝視するのだが、何より問題なのはその後の事であった。



__コンニチハ~~!……ギョロッ!!…



__ッ!!!…いやああぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!?!?!?!?!?!?…



宙に舞うサイクロプスの目が丁度真下に居るハリットと目が有った瞬間、


まだ生きているとばかりに瞳孔が動いたのかそれを目撃したハリットの表情が


一気に恐怖で染め上がっては大絶叫し、そのサイクロプスの目は重力に従い


落下し始めると真っ直ぐハリットの上に圧し掛かる。その後の事は大体想像付く


であろう…馬車の中は大混乱に陥り、ハリットは自身のお腹の上にサイクロプスの


目玉を乗せたまま気絶しては口から泡を吹き出し始める。その様子にマサツグが


やっぱりこうなるのか…と考え始めると馬車は何事も無かった様にクランベルズへと


到着するのであった。


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