-第一章十三節 護衛任務二日目と一つ目の巨人と絶体絶命のピンチ-




次の日…ゲーム内で初めての野宿からスタートするとまずは休ませる為に放した


馬を再度馬車に繋ぎ、出発の準備や火の後始末など色々な事を済ませると、また


クランベルズに向けて街道を馬車で移動し始める。朝ご飯等は携帯食料で済ませ、


馬車に揺られながら街道を進む際、寝ずの番をしたデクスターと宗玄は眠りに


就き始める。



__ガラガラガラガラ…



「zzzz…」×2



「……眠ってるわね?…」



「眠ってるな…」



馬車の揺れが心地良いのか二人は全く警戒をしていない様子で眠りに就き、


その様子をアヤやマトックから観察され、更にそのアヤとマトックの様子を


後ろから見ていたマサツグとハリットが呆れた様子で苦笑いをしていた。もはや


最初の頃の様な緊張感は消え、まるで兄弟の様に接している様子からマルコも


同じ様にその護衛メンバーの様子を見ては笑っていた。



「……ほっほっほっほ!…」



「ッ!!…敵襲ぅぅぅ!!!」



「ッ!?…」



しかし忘れてはいけないのだがこれはあくまで任務であり、モンスターが押し寄せて


来たら嫌でも起きないといけない。寝ていた二人が敵襲の号令を聞き目を覚ましては


他のメンバーと一緒に馬車を飛び出し、戦いに参加しなければいけない。それらを


含めて寝ずの番がシンドイと言う事をマサツグが学習すると、二人の負担が減る様に


他のメンバーと一緒にモンスターを蹴散らして行く。そうして昨日と同じで何度か


モンスターに襲われるもののこれと言った出来事が無く順調に進み、あっと言う間に


一日が終わると二日目の野宿の準備をする。そして今回の寝ずの番はマサツグと


アヤの二人と言う事になり周りでメンバーが寝静まっている中、焚火の音だけ


聞こえて来ては異様な不気味さを感じるのであった。



__パチッ!…パチッ!!…ゴオォォ…



{…昨日の夜は何も感じなかったけど……星が綺麗だな……


現実の方では見えない事がほとんどだから見上げるなんて事はしないけど…


こっちだと色々見れてやっぱ楽しいな…}



「……ねえ、この依頼が終わったらどうするの?」



「え?…」



「何処か行く予定とかって合ったりするの?…」



焚火の音を聞きながらマサツグが丸太の椅子に腰掛け、空を見上げては頭上に広がる


満天の星空を眺めているとアヤが少し考えた表情でマサツグに質問をし始め、


その突然の質問にマサツグが答えられずに戸惑って居るとアヤは再度マサツグに


今後の予定について問い掛け始める。この任務の後どころかこれから先の事など


無計画のマサツグがその質問に戸惑うと俯き、慌てた様子で考え始めると出て来た


答えはこうであった。



「…とりあえずはギルドで依頼をこなしていこうかと……


やっぱ強くならないと色々と不便だし…


それにやりたい事が見つかっても出来ないかもだし…」



「ふ~ん……用は経験を積みたいと……ッ!…


じゃあ、一緒に森で修行しない?」



「えッ!?…森!?」



「そう!…色々良い経験が出来ると思うわよ?」



いつも行き当たりばったりなマサツグが悩みながらも出した答えはギルドに行く、


今後このゲームを続ける上でイベントだったり素材集めだったりと…必要になって


来るのは「強さ」に「経験」と考えたマサツグが悩みながらもアヤに自分が考えた


理由を話しては経験を積む事を口にすると、アヤは少し意外と言った表情を見せて


マサツグに返事をし、マサツグ同様同じ様に夜空を眺める。そして聞いたマサツグの


言葉を自分なりに簡単に直し理解すると今度はアヤが悩んだ様子を見せ、少し間を


置いてハッと気が付いた表情を見せてマサツグの方に振り向くと、アヤは妙に目を


輝かせては自身と一緒の修行を提案し始める。その際修行場所を何故か森と言った


アヤにマサツグが振り向いて理由を尋ねるよう戸惑った様子で復唱すると、


その理由をアヤは深くは語らずただ森は良いとだけ答える。そんなアヤの横顔は


笑みを浮かべており、マサツグが今まで体験した事の無い雰囲気を感じ戸惑って


居ると、次にマサツグの口から出た答えはこうだった。



「…ッ!…そ…そうだなぁ…考えとくよ…」



{何言ってんだ俺!?…}



「……?


そう?…じゃあこの任務が終わるまでに考えておいてね?…」



「は…は~い…」



まさかの雰囲気負けして逃げの言葉を口にするマサツグ、これにはもし


オーディエンスが居たならブーイングの嵐と言った所なのだが、


実はマサツグ自身でも心の中でツッコンでは落ち込む始末、しかしその時の


マサツグは自身の心音を抑えるのに必死でそれ以上の言葉が思い浮かばず、


ただただ今までに体験した事の無い雰囲気にマサツグは戸惑うしか無い


のであった。そしてそんなマサツグの返事を受けたアヤの方は言うとチラッと


マサツグの方を見ては何かを察し、護衛任務が終わるまでに…とマサツグに


時間を与えると、更にマサツグが困惑しながらも返事をしては脳内会議を


始める。そして恐らくこの時…その会話を聞いて居る者が数名おり、トイレの為に


起き上がりたくとも起き上がれないと言った状態になるのであった。



__マサツグの脳内…



{ここは一人でレベル上げてボッチプレイを楽しむのが良いんじゃないか!!…


他人と関わると色々と面倒事も出て来るだろう!!!…}



{何を言ってやがるんだ!!


ここはアヤと行動しチームプレイを磨くのも良いんじゃないか!!


それにアヤはNPCだけど先輩なんだぞ!?女性なんだぞ!?…


俺の知らない何か裏技的な事を教えてくれ…}



{馬鹿野朗!!!!


一人だからこそ自由気ままに出来るから良いんだろうが!!…


報酬も一人占め!!…素材も一人占め!!!…


それにこのゲームは全年齢対象!!!…変な期待をしてんじゃねぇ!!!…


そんな事も分からないのか!!!…}



{貴様こそ馬鹿か!!!


チームプレイを磨く事でいざパーティを組んだ時、その経験が生きるだろうが!!!


そして同じ様に交配を持つ事になったら!!…


ジュースの一つでも奢ってやれる事が!!…}



{それはお前はメイン盾の英雄の話だろうが!!!…


こことは別の話を持ってくんじゃねぇ!!!}



{キングベヒ〇モス!!!…って、やかましいわ!!…}



マサツグの頭の中で三人位人が現れてはあ~だこ~だと話すが解決の糸口は


出て来ない。一人は完全なボッチプレイ推奨で、二人目は若干下心が見えている


パーティプレイ推奨、そして三人目はまるでこの会話を邪魔する様にボケて来る


一応パーティプレイ推奨の人格なのだが、先ほどからアヤとの雰囲気が邪魔してか


全然話が前に進まない。そうして一人マサツグが夜空を眺めては頭の中のもはや


要らない会議に呆れ返っていると、同じ様に夜空を見詰めていたアヤがハッ!と


突如驚いた表情を見せては弓を手に立ち上り辺りを見渡す。



__……ッ!?…バッ!!…



「ッ!?…如何した?…」



「…何か来る!…それもかなり大きい奴!!…」



「え!?…」



隣でアヤが急に立ち上がりその事にマサツグが驚いた様子で気付いてはアヤに


質問をすると、アヤは緊張した様子で直ぐに矢を放てるよう弓矢を構えるのだが


丁度月が雲に隠れて闇夜が深く、前方の平原や林を目まぐるしく確認した所で何も


見えず、それでも敵が迫って来ている事をマサツグに答えると、その事を聞いて


マサツグも慌てて立ち上っては鞘から剣を抜き構える。闇夜が深くて焚火の周りから


先が見えないのだが、その闇夜に紛れて確かに…アヤの言う大きな敵が近づいて


来ている事だけはマサツグのハッキリと感じる事が出来た。



__…ズゥン…ズゥン…



「ッ!…若干揺れてる?……それも前の方から?…」



「ッ!…気が付いた?…せめて月が照らしてくれさえすれば!…」



__……パアアァァァァ!!…



「ッ!?……」



微かながらに重い何かが歩いて来る音、それと同時に地面も微かに揺れてマサツグの


足裏にその振動が伝わって来ると嫌な予感を感じさせる。マサツグが気付いた様子で


その振動が来ているであろう方向を向いては警戒を強めていると、アヤがマサツグに


声を掛けては月が出て来る事を願い始める。そしてその願いが通じたのか徐々にでは


あるが雲が風に流され、月が辺りの草原を照らし出し始めるとそこにはとんでもない


物が姿を現し、それを見たアヤとマサツグは声を出す事無く驚いた。何故なら


その歩いて来る物の身長は約3m強あり、その手足はその辺で生えている木々の


幹より太く、一歩歩く度に地響きをさせる。そしてその顔がはっきりと見える様に


なるとその顔には巨大な一つ目と口には何でも噛み砕けそうな牙…そして頭には


一本の短い角…明らかにとんでもないのがこちらに向かい歩いて来ていた。



__ズズゥゥン!……ズズゥゥン!……



「なッ!?…で…デケェ!?…」



「サ…サイクロプス!?…


何でこんな所に!?…」



「ッ!?…おい、如何した!?……ッ!?…


あれは!?…」



まだ多少なりともマサツグ達の居る野宿場所から距離は有るのだがそこからでも


良く分かる位に大きく、その大きさにマサツグが思わず剣を構えて後退りをして


いると、アヤが驚いた表情で突如姿を現したサイクロプスを見詰めて疑問を


持ち始める。そしてそのサイクロプスが歩いて来る振動を感じ取ったのか、


眠っていた他のメンバーも慌てた様子で起きては武器を手にマサツグ達と合流し、


事情を尋ねようとするのだが目の前に動く山みたいな巨人を発見するとそれ以上は


聞かない様子で武器を握る。



__チャキッ!!…



「サイクロプスが向かってきたの!…本当は山岳地帯にしかいないのに!…


何でこんな所に!?…降りて来たにしても距離が有り過ぎる!!!…」



「今はそれどころじゃないだろ!?…ここまで来てるのなら戦うしか!!…」



「しかし不味いぞ!!…まだここは平坦故戦い易いが相手も同じ!…


更に言うと遮蔽物が無い故あやつの攻撃から逃げる事も出来ない!!…」



「でもこのままだとマルコさん達の馬車にまで!!!…」



全員が武器を構え、アヤが改めて全員にサイクロプスの襲来を伝えると慌てた様子で


弓を弾き絞ってはサイクロプスに狙いを定める。そしてここに居る事が有り得ないと


言った様子で慌てているとマトックが戦う覚悟を決めた様子で斧を握り、恐る恐る


前へと移動し始める。しかしそれを止める様に宗玄がマトックの肩を掴んでは今の


立地条件で戦うのは危ないと言い聞かせようとし、マトックの足を一度は止めさせる


のだがハリットも慌てた様子で一言マルコ達の心配をし始める。こうしている間にも


サイクロプスはこちらに向かい少しづつ移動して来ては徐々に地面を強く揺らし、


護衛メンバーを焦らせると煮え切らない様子に我慢が出来なかったのかマトックが


宗玄の制止を振り切り、サイクロプスに向かい走り始める!



__………ッ!!!!…バッ!!!…



「あっ!!…お主!!!…」



「もう考えてる時間なんかないんだ!!!…やるしかない!!!」



マトック一人だけがサイクロプスに向かい走って行き、宗玄がしまった!?と言った


表情を見せて居るとマトックは斧を構えて走りながら宗玄に文句を言い、


サイクロプスとの戦闘エリアに入ったのかバトルエリアを作り出す。その際今までの


バトルフィールドとは違い、少し大きめのバトルフィールドが形成されると


一応ながら木や岩等のオブジェクトが範囲内に入るのだが、中心より外側に有る為


使い辛い…ここでちょっとした説明をするとモンスターによっては大きさの区切りが


されており、接触したモンスターの大きさによって当然バトルフィールドの大きさも


変わって来る。今回接触したのはサイクロプス…言うまでも無く最大クラスのバトル


フィールドが展開された訳なのだが…



広い戦闘エリアにサイクロプスとマトック一人…



それはもうシュールと言わざるを得ない無謀な光景に見えて来る。そしてマトックが


サイクロプスと戦闘を始めた事に宗玄が若干怒りを覚えていると、見殺しにする


訳には行かないと宗玄もそのサイクロプスとの戦闘に参加し始める。



「あの馬鹿者は!!!…仕方が無い!!!…


あやつ一人だけを行かせて傍観と言う訳には行かん!!!…


拙僧達も行くぞ!!!」



「あぁ~んもう!!…おかしい事ばかりで頭が変になりそう!!」



「…今からあのデカ物を相手にするのかよぉ~!……ったく!


鑑定(アプレェィザァル)!!!」



 -----------------------------------------------------------------------


「サイクロプス」


Lv.45 「レアモンスター」


HP 67800  ATK 420 DEF ***


     MATK 0 MDEF ***



 SKILL


 激昂Lv.5(一定制限有り) アイテムドロッパー

 -----------------------------------------------------------------------


{げぇ…


あの騎士様よりタフじゃねーか!…


それに防御力が分からない上に攻撃力が絶望的!!…


それのこのデカさだろ?…本当にかてるのかなぁ?…}



先にサイクロプスと戦闘を始めたマトックの救援へ宗玄が薙刀を手に向かって


行くと、アヤが困惑し呆れた様子で嘆いては一度弓から矢を外してその跡を


追い始める。そしてハリットとデクスターも救援に向かった二人に続いて


サイクロプスとの戦闘へ参加しに行く中、マサツグもこの状況を嘆きながら


諦めた様子でサイクロプスの鑑定をすると、そのステータスの高さに勝てるか


どうかの疑問を持ち始める。しかしそんな事を考えている暇など無いとばかりに


サイクロプスの足元では合流した宗玄達にマトックが指示を飛ばしていた。



「ッ!!…宗玄!!…動きはトロいが捕まったら終わりだ!


気をつけろ!!…」



「この馬鹿者が!!!…周りの事を考えてから動け!!!


これはお前達の言う冒険とは違うのだぞ!?」



「貴方一人のせいで皆が危険な目に遭うのよ!?…


もっと考えて!!…」



「そんな事言ってる場合じゃないだろうが!?…


早くコイツを倒してしまうぞ!!!」



「ッ!?…本当に大馬鹿者の様だな!?……」



先に戦闘を始めていたマトックはサイクロプスの攻撃を回避して、イケると


踏んだのか、合流したメンバーに攻撃だけ気を付けろと口にすると再度


サイクロプスに向かって行く!しかし攻撃出来る場所は限られており、


地道に足や振り下ろされた腕などを斧で攻撃するのだが、皮膚が分厚く攻撃が


あまり効いていない様子を感じては苛立ちを隠せない表情を見せており、


その様子から完全に周りが見えていないと宗玄がマトックに説教をするよう


怒って見せ、更にアヤが窘めるよう言葉を掛けるのだが、マトックは頭に血が


上った様子で話を聞こうとしない。そんな様子に宗玄が何を言っても無駄だと


悟ると、一言だけ呟いてはサイクロプスの足元に向かい走り出し、サイクロプスの


足首目掛けて蹴りを放つ!



__ダッダッダッダッ!!!…ザザァ!!…



「チェストォォォォォ!!!!」



__スパアァァァァァン!!!!………?…



「クッ!!…やはり効かぬか!!…」



サイクロプスの右足首に向かって宗玄が走って行き、その足が自身の間合いに入ると


左足を軸に急ブレーキを掛けて踏み込み、右足を後方に向けて伸ばし振り上げる。


そして威勢の良い掛け声を上げては力の入った重い蹴りをサイクロプスの右足首に


向かい叩き込むのだが、サイクロプスは何かが当たった?…程度にしか感じていない


様子で足元を確認する。宗玄の重い蹴りの一撃が入った際、まるで警策を五枚位


重ねて叩いた様な音が鳴るのだがその音とは裏腹に衝撃は強く、蹴った本人も顔を


顰める位に蹴ったのだがまるで効いていない事を悟ると、バックステップで一旦


距離を置いて苦痛の表情を滲ませる。そして宗玄が自身が放った渾身の蹴りが効いて


いない事に慌てている隙に、マトックが果敢にサイクロプスへ斬り掛かったり、


デクスターはサイクロプスの背中にしがみ付くと自身の体を振り子に揺さぶって


バランスを崩させようとする!



「クッ!!…このデカ物があぁぁぁ!!!…」



__ザシュッ!!…ドシュッ!!…ガッシ!ガッシ!…



「あぁ~らよっと!!……」



__ブン!…ブン!!…ブン!!!…ブン!!!!…ウウウゥゥゥ!?!?…



デクスターがサイクロプスの背中にしがみ付き揺さぶりを掛けると、サイクロプスの


巨体も小刻みに揺れ始めては次第にその揺れも大きくなる。そして徐々に大きくなる


揺さ振りは最終的にサイクロプスがフラ付き始める位のものになり、サイクロプス


自身もその異変に気が付いた反応を見せて、背中に掴まっているデクスターを


捕まえようともがき始めるのだが、そのデクスターの行動が仇となったのか


サイクロプスが忙しなく地団太を踏み始める。そうなると勿論足元に居るマトックや


宗玄がその被害を被り、攻撃を止めざるを得ない状態になると警戒した様子で


後退りをし始める。



__ダン!!ダン!!ダン!!ダン!!ダン!!…



「ッ!?…おい、デクスター!!…何してやがる!!!…


こっちにまで被害が来てるぞ!?…」



「そんな事言われても!!…おぉ!?…倒した方が殴り易いでしょう!?…」



「チッ!?…とにかく揺れが酷くて敵わない!!


倒すなら倒すで早くしてくれ!!!」



マトックと宗玄がバックステップを取って地団太から逃れるも振動から逃れる事は


出来ず、マトックが揺れに耐えれずバランスを崩しその文句をデクスターに言って


しまうと、デクスターは戸惑った表情を見せて言い訳をする。そしてマトックが


その言い訳を理解したのかしてないのか…舌打ちをして更に文句を言っては


早く倒れる様にとデクスターを急かし、その言葉を聞いたデクスターもマトックの


苛立ちを感じ取ってか慌てた様子を滲ませる。



「わ…わかったでやんすよ…」



「それと!!…何で矢を放たないんだ!?…


ハリットみたく魔法を唱えている訳でも無いのに!!…


あの目を狙えばそれだけで後は戦えるだろう!?…


お前の腕なら狙える!!…」



デクスターが渋々同意し焦った様子でサイクロプスからマウントを取ろうと必死に


なり始めると、マトックの苛立ちは次に後方支援のアヤとハリットの方に


向けられる。何故なら今の段階でアヤは弓をサイクロプスに向けて引いては居る


ものの一度として矢は撃っておらず、ハリットも目を閉じて自分が出来る最高火力の


魔法をまだ詠唱しており、一向に攻撃出来ていなかったからであった。


アヤは額に汗を掻き弓を引いたまま焦りの表情を見せては何処を狙うかで悩み、


その様子にマトックが苛立ちをぶつける様にサイクロプスの目を狙うよう指示を


飛ばすのだが、それを聞いたアヤが怒りと戸惑いの混じった声で一言返事を


するとマトックの指示を却下する!



「はぁ!?…貴方何馬鹿な事言ってるのよ!?…


そんな事したら更に手が付けられなくなるわよ!?…


目を射ってしまえば見えなくなる!!…


そうなれば冷静な判断が出来なくなって大暴れする!!!…


冒険者としての基本知識でしょ!?…」



「それでも良い!!撃て!!!


あいつの視界が消えて大暴れすればそれだけ守りが手薄になる!!!


その隙を狙えば!!!…」



「撃たない!!!…


ただでさえ既に全員が危険な状態に立たされているのに!…


更に命を掛けるような真似!!…出来る訳が無いでしょ!?…」



「いいから!!……撃て!!!!」



「ッ!!…撃たない!!!!」



戸惑いと呆れ…更にマトックの単独行動でこうなったにも関わらずと言った怒りの


様子でアヤがマトックの指示を拒否すると、サイクロプスの目を狙った後の話を


マトックに話し出す。目が見え無くなれば暴れ出す…それは少し考えれば誰でも


分かりそうな事なのだが完全に頭に血が上っているマトックはもはや考える事すら


出来ないのか、アヤの話を聞こうとしない。暴れても良い…撃て!とアヤに再度


指示を飛ばし、その指示にアヤはこれ以上危険な目に合う訳には行かないと再度


拒否する!そうしてマトックとアヤが撃つ撃たないで揉めているとデクスターも


その場の状況に困惑し始めてか、遂にとんでもない事をしてしまう!



「…あぁ~もう!!!目を潰せば良いんでやしょう!?…


オイラがやってやりますよ!!!」



「なッ!?…止めるのだデクスター!!!」



__ドシュッ!!!…ッ!?…ア゛ア゛ア゛ア゛アアアァァァァァァ!!!!…



アヤとマトックのやり取りを聞いてデクスターも苛立ち始め、遂に錯乱したのか


背中から頭に移動するとジャンピーヤを手に構えてサイクロプスの目に狙いを


付け始める。その様子に宗玄がデクスターに止めるよう声を掛けるのだがその声は


届かず、自分がやると怒りに任せた様子でジャンピーヤをサイクロプスの目に


突き立てると、その瞬間サイクロプスの目から血が噴き出しては悶絶の声を


挙げ始める!…言わずもがなその結果はアヤの言う通り大暴れである…むやみ


やたらに腕を振り回し、その場で地団太を踏み始めるともはや手が付けられ


なくなる。



__ア゛ア゛アアアァァァ!!!…ブォン!!!…ブォン!!…ダン!!ダン!!…



「なッ!?…何て事を!?…」



「ッ!?…デクスターの奴!!…よくやった!!!…


後は!…おっとッ!?…」



__ブォン!!!…ゴシャァ!!!…



目を潰され暴れ出したサイクロプスにアヤが驚きと戸惑いの表情を見せて居ると、


マトックはアヤとは逆にデクスターを褒めては体勢を立て直し、再度サイクロプスに


向かって行こうとする。しかし先ほどの地団太より更に強くなった様子で地面が


揺らされると思う様に進めず、前のめりに倒れそうになっているとそこへ


サイクロプスの拳(アッパーカット)が飛んで来ては打ち上げられる様にして宙を


舞い始める!防御も何もできないまま狂暴化したサイクロプスの拳はマトックを


宙に舞い上がらせては鮮血を飛び散らせ、その鮮血の一部がハリットの顔に掛かると


ハリットが魔法の詠唱を中断して目を開き、その鮮血が飛んで来た方向にふと目を


向けるとそこにはたった一撃で瀕死状態になったマトックの姿が目に飛び込んで


来る。その際マトックの姿はまるで10tトラックに轢かれた様な姿で宙を


舞っていた。



「ッ!?…きゃあああぁぁぁぁぁぁぁ!!!!…」



「ッ!?…マトックゥゥ!!!…」



__ダンダンダンダン!!!…



マトックが目の前でやられる姿を見てハリットが悲鳴を上げてはその場に崩れ落ち、


青い顔をして震え始め腰を抜かした様子で失禁する。完全に死の恐怖に


支配されハリットが動けなくなっていると、宗玄がマトックに対して叫ぶが当然


帰ってくる返事も無く地面に落ちてはピクリとも動かない。そしてマトックが


動かなくなった事にメンバーが酷く驚き戸惑って居ると、今度はデクスターが


サイクロプスから振り落とされそうになり始める。



「あぁ!?…あぁ!?!?…ああああぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!…」



「ッ!?…デクスター!!!!…」



__ズウゥゥン!!!………



つい先ほどまでの地団太とは違う暴れ方にデクスターがバランスを崩し、


遂に振り落とされるとアヤが叫んで心配するも地面に腰を打ち付けて


動けなくなる。そしてその隙を突かれるよう暴れているサイクロプスに


踏み潰され、これで戦闘不能者は二人となり…行動不能者一人の危機的


状況になる。…因みにマサツグも戦闘には参加しているのだが、アヤ同様


攻撃する隙が見当たらず悩んで居ると宗玄がマサツグとアヤに声を掛け


始める。



「ッ!!……このままでは!!…マサツグ殿!!アヤ殿!!…」



「ッ!?…」



「ここは一旦退いて体勢を立て直すか!?…


このままでは全滅する!!…」



「ッ!?…退くったって何処に退く気よ!?…


もう戻る事も許されそうに無いのよ!?…このままマルコさん達を起こして


ここから逃げたとして!!…ここに置き去りにしたサイクロプスは如何するの!?…


もう手が付けられないのよ!?…」



マサツグとアヤが宗玄に呼ばれて振り返るとそこには薙刀で攻撃を防ぐよう両手で


構えた宗玄の姿が有った。宗玄は自分達より後ろに居るマサツグ達に全滅を恐れた


様子で一度退く事提案し始めるのだが、今更逃げる所の無いこのだだっ広い


場所(バトルフィールド)で如何やって逃げる!?…とこの状況に錯乱したアヤが


尋ね始め、その様子にマサツグがまず落ち着くよう声を掛けるのだが…



「落ち着け!!!…とにかく今はサイクロプスの動きに集中!!…」



__ゴシャァ!!!…ヒュンッ!!…



「……え?」



マサツグがアヤに落ち着くよう声を掛けた瞬間…マサツグの隣を何かが掠める様に


物凄い勢いで通り過ぎては風を感じる…勿論その前に何かしらぶつかる音が


聞こえてマサツグがその音が聞こえた方に振り向くのだが、そこには誰も居ない…


その事に戸惑いながらもマサツグが先ほど自身の隣を通り過ぎたものを


確認しようと、自身の後ろを振り返るとそこには真ん中からポッキリと折れた薙刀を


手に地面に両膝を着き、意識が朦朧としている様子の宗玄の姿を見つける。


何が有っても大丈夫な様に薙刀で防御の構えを取っていたおかげかまだ宗玄のHPは


残って居るものの、風前の灯に近い体力でその場に鎮座していた。



「ぜぇ!…ぜぇ!……グッ!…ウゥ!!…な、何と言う破壊力!…」



「ッ!?…宗玄!!!…」



「クッ!!…止めるのだ!!…拙僧も動けそうにない!…


もはや残された手は一つのみ!!…アヤ殿!!…マサツグ殿!!…


今すぐマルコ殿を起こしてこの場から逃げるのだ!!…」



「ッ!?…でも!!…」



「いいか!?…お主達だけでもここを離れ!!…


町に着いたらギルドに救援を呼ぶのだ!!!…


せめてハリットだけでも生き長らえるよう拙僧が何とか…」



たった一撃しか貰って居ないと言うのに宗玄は息を切らし、その場から動けるか


どうかを試すが足も腕も動かないと言った様子で座り込む。その際宗玄が握って


いた薙刀からはその攻撃力の高さが伺える痕跡がハッキリと見て取れ、


サイクロプスが手の付けられない状態になった事を改めて再確認させられる。


アヤが心配した様子で宗玄に声を掛けては弓を暴れるサイクロプスに向けて構え、


それに気が付いた宗玄が慌ててアヤを止めるとマルコと共にこの場から逃げるよう


苦痛に耐える表情で指示をする。それを聞いてアヤが心配した様子で宗玄に声を


掛けるのだが、宗玄はもはや自分はこれまでと言った様子でサイクロプスの


足止めを買って出てはハリットだけは守ると言った様子で再度マサツグ達に指示を


する。かと言ってこのまま見殺しにするのか!?…とマサツグが焦った様子で


指示に従うか如何するかと悩み始めるのだが、アヤは何を思ったのかとんでもない


行動に出るのであった。


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る