-第一章十一節 初の酒場と食の体感と出発の朝-



マサツグ達が買い物を終えて道具屋を出ると外は既に日が暮れ始め、外に居る人の


数も少なくなっていた。明日の護衛クエストの事も有りマサツグはアヤと別れて


宿屋に戻ろうとするのだが、ここで同じ護衛クエストを受けたマトックとデクスター


に遭遇するとマトックがマサツグ達に声を掛けて来る。



「あれ?…確かあんた達は…アヤとマサツグ?…だっけか?…


何でここに?…」



「何でって物資の補給よ。


そっちは?」



「あぁ、だとしたら似た様なもんさ。


なんせ…明日の護衛は大変そうだからなぁ…それよりどうだい?…


俺達、物資の補給を終えたら一杯行こうか!って話していたんだが…


アンタらも親睦代わりに一杯?」



「ッ!…良いわね!…乗った!!」



マトックがマサツグ達にここで何をしていたかと気さくに話し掛けてはアヤが


質問に答え、更にアヤがマトックに質問をするとマトックは笑いながらアヤの


質問に答える。よくある冒険者同士の会話なのだが、それを隣で聞いていた


マサツグが一人異世界にやって来た気分でワクワクして居ると、マトックが


アヤの質問に答えた後で酒場に行って親睦を深めないかと誘って来ると、それを


聞いたアヤが目をパァッ!と途端に輝いては二つ返事で行く事を同意する。


そのアヤの言葉にマサツグはここでお別れだな…と思い離れて行こうとする


のだが、マサツグがクルっと自分の止まって居る宿屋の方へと歩き出そうとした


瞬間誰かに手を掴まれるとそれに反応してマサツグが振り返る。



__パシッ!…ッ!?…



「フフフ!…何処へ行こうと言うの?マサツグ?」



「え?…いや…俺は別に良いかな?…って…」



「親睦を深めるのでしょ?…だったらマサツグも一緒に来ないと!!…」



マサツグが手を握られ振り返るとそこにはニッコニコの満面の笑みを浮かべる


アヤの顔が有り、その表情にマサツグがえ?…と驚き戸惑って居るとアヤは


逃がさないとばかりにマサツグの手をしっかり握っては何処へ行くのかと


尋ねて来る。その質問にマサツグは戸惑いながらも宿屋に戻ろうとしていた事を


口にするのだがこの時、マサツグの心の中はまるで某天空の城に執着していた


大佐に追い掛け回される少女の様な動揺を覚えていた。それと同時にマサツグの


中で嫌な予感も感じ始めるのだが、アヤはやっぱり逃がさないと言った様子で


ガッチリ手を掴んではマサツグに付いて来るよう強要する。その様子に戸惑い


つつもマサツグが恐る恐るアヤに質問をする。



「……行かなきゃダメですか?…」



「フフフ!…ダ・メ・で・す!…」



「そうだぞ?ルーキー?


こう言うのも冒険者に取って必要なんだぞ?…


意外なところで情報が手に入ったりするんだからな?…」



「そう言う事よ?…」



マサツグが駄目元でアヤに帰って良いかどうかを尋ねるもアヤの答えはやはりNO、


それを聞いてマサツグがガックリ肩を落として居ると、マトックがアヤの肩を


持つ様に話し掛けてはその必要性をマサツグに教え始め、そしてそれに同意するよう


マサツグの手を掴んだままアヤが笑顔で頷くと、左腕でマサツグを掴んでいる手の


腕を更にガッシリと捕まえ、完全に捕獲するとマサツグに一言呟いて見せる。


その様子にマサツグの中の嫌な予感は更に強くなり始めるのだが、逃げようにも腕は


ガッチリとアヤにホールドされており、逃げる言い訳を考えるもまだ初めて然程


時間が経っていないプレイヤーにそんな良い言い訳が有る筈も無く…


現実(リアル)なら何だかんだで上司のお誘いから逃げれたのに…


と一人この逃げれない状況を悲観して居ると、結局マサツグの同意を聞く事無く


酒場へとドナドナされて行く。



「…さて、待たせたな!


じゃあ行きますか!!!」



「おぉ~~~!!」



「おぉ~…」



マトック達も買い物を終えて道具屋から出て来ると酒場に向けて歩き出す。


その間マサツグはと言うと逃げられない様にアヤが捕まえ、店の前でマトック達の


買い物が終わるのを待たされていた。そして酒場に向けて歩き出し始める。


その道中、偶然にも同じ護衛のクエストを受けたメンバーと合流すると


そのメンバーも引き攣れ酒場へと歩き始める。そして王都の繁華街に辿り着いた頃、


もう日は完全に落ちて夜の帳が下りているにも関わらず辺りからは賑やかな声が


響き渡っていた。



__ワイワイ!…ガヤガヤ!…ガポンッ!!…



「…相変わらずこの町の繁華街はスゲェ賑わってんなぁ!……


まぁ…それだけ良い酒が飲めるって事なんだが…」



「…ッ!……あっ!…ねぇ!ここにしない?…


今ならエールが一杯50Gだって!?…」



「何だって!?…よし、ここに決めた!!!」



その居酒屋やキャバクラ?が立ち並ぶ繁華街の道を歩いて居ると、その酒場や


居酒屋からは陽気な声と共に樽ジョッキがぶつかり合う木製の音があちらこちらから


聞こえて来る。店からはみ出る様にして組まれた椅子に座ってエールを飲む男達に、


恐らく冒険者(プレイヤー)であろう者達がその場の空気を楽しむ様に話し合ったりと


アバターの顔を赤らめてはお酒を楽しんでいるのが見て取れる。そうした様子を


マサツグが見て居るとマトックが前にも来た様子でその光景を目にして興奮し


始め、アヤが良い店を見つけると全員を呼び止めその店を指差すと、看板に書いて


有る言葉に読み上げる。そしてその言葉を聞いたメンバーが少し驚いた様子で


立ち止まってはその酒場だ!と言った様子で入って行く。その酒場ではアヤ同様


看板に釣られて入って来たのかお客さん達で賑わい溢れ返り、とてもじゃないが


座れる状態では無かった。



__ワイワイ!!…ガヤガヤ!!!…ワイワイ!!…ガヤガヤ!!!…



「…あちゃぁ~……こりゃ駄目っすねぇ~…


完全に満員でやんすね?…」



「えぇ~!!!そんなぁ~!!!」



「仕方が無かろう…エールが50Gで飲める店は早々無い…


寧ろ何故エールがこの値段で出せるのかが気になる所ではあるが…」



{…この分だとこのままお開きになって帰れるかな?…やったぜ!…}



満員の店内の様子を見てデクスターが諦めた様子で駄目だと零し、


アヤは今だマサツグが逃げないよう腕をガッチリホールドしながら諦め切れない


様子で駄々を捏ねる。そんなアヤを諭す様に宗玄が言葉を掛けるのだが、


寧ろエールの価格が気になると言った様子で怪しみ始める。勿論エールのレートなど


知らないマサツグはそんな宗玄の態度にえ?…と疑問を持つのだが、それよりこれは


早く帰れるのでは!?…と顔に出さない様に喜んでいると、それがフラグとばかりに


一番奥のテーブル席が突如空く。



__ガタガタ!…ガタ!…



「…次でお待ちのお客様~!!こちらどうぞ~!!」



「やった!!…ほら空いたわよマサツグ!!!」



{ああああぁぁぁぁぁぁぁ~…}



「ああぁぁ~…」



一番奥のテーブル席が空くとすぐさま店員の女の子が机の上の物を片付け、


マサツグ達を招き入れる様に声を掛けるとアヤは喜んだ様子でスキップをしては


マサツグを連行する。それと同時にマサツグが心の中と現実の方で力無い声で


嘆き、遠ざかって行く店の出入口に悲しい視線を送る。マサツグ自身別に飲めない


訳では無いのだが、こう言った他人と飲むのが如何にも苦手で絡まれるのヤダと


言った面倒臭がりの為、マサツグは嘆くのだがそんな様子に気が付かない


マトック達もゾロゾロと歩いてはその用意されたテーブル席に着く。そして全員が


その用意された席に着いて早々アヤがここぞとばかりにエールとおつまみを


注文し始める。



「ッ!…すっいませ~ん!!!エール六つ…


後、このスプリング鶏のから揚げとミタマレタスサラダに…


モコモコポテトのフライを二つずつ~!!!」



「ハイ!!かしこまりました~!!!」



{え!?…注文はっや!!!…みんなの意見とか聞かないの!?…}



「おぉ!!…やっぱその注文するよな!?」



「当たり前でしょ~!!!」



席に着いて早々アヤがパパッと注文を済ませると店内の向こうから元気な店員の声が


聞こえ、それと同時に店の厨房から注文された料理の材料を取りに行ったのか、


慌しい足音も聞こえて来る。そのアヤの誰の意見も聞かない注文の速さにマサツグが


驚いて居ると、他のメンバーがちゃんとわかっている!と言った様子で納得し、


マトックも同じ注文をしようとして居たのかアヤの注文に同意するよう笑みを


浮かべる。そしてそのマトックの言葉にアヤは当然とばかりにドヤ顔をしては


当たり前と口にするのだが、そんな異世界事情を知らないマサツグは一人困惑する


のであった。そうして注文をしてからまだ二分も経って居ない所だろうか…


先に注文をしたエール六つとお通しがマサツグ達のカウンターに運ばれて来る。



「お待たせしましたぁ~!!!」



__ガポンッ!!!…



「おおおおぉぉぉぉ~~!!!…」×3



「…ふむ……」



{……宗玄…やっぱり気になるみたいだな?…


そんなに安いのかね?エールって…


…後、こう言ったゲームでもお通しって出て来るのな?…}



ウェイターの女の子が二人やって来た内、お通しを持って来た子がマサツグ達


一人一人の前にお通しを置くと、エールの樽ジョッキを六つ持って来た子が


テーブルの中央にドン!と重そうに置いて見せる。勿論そう置いたのだから


エールの泡が跳ねたりするのだが、アヤとマトックとデクスターは何故か喜んで


ジッ…とエールを見詰め、宗玄はやはり安さが気になっているのか同じ様に


マジマジ見詰めては疑った様子を見せる。その様子にマサツグが気付いて


エール一つでそんなに悩むものなのかと考えてしまうのだが、それよりもお通しが


出て来た事に驚いてジッ…とエールでは無く、お通しを見詰める。そうして


アヤやマトックがエールを手に取り始めると各々も同じ様に自分の分のエールを


取り、全員がエールを手にしたのをアヤが確認するとアヤが乾杯の音頭を


取り始める。



「みんなの所にエール回ったぁ~?…よし!


それじゃあ、依頼成功を祈って…乾杯!!!」



「乾杯!!!」×5



アヤが全員にエールが回ったかを確認し、全員の手にエールが握られて居る事を


確認すると一回頷いては明日の護衛任務が成功するよう言って、エールの


樽ジョッキを上に掲げて乾杯と言う。それを聞いて他のメンバーも乾杯と言っては


アヤの樽ジョッキに軽くぶつける様な感じで当ててはそのエールを飲み始めるの


だが、このパーティでプレイヤーはただ一人…マサツグだけである。まずマサツグは


ビールや発泡酒と言った物なら現実(リアル)で飲んだ事は有るのだがエールは


今までに経験無し、親父の友人が言うにはビールに似ていると噂では聞いた事が


有るもののやはり未知との遭遇と有り、若干の抵抗を覚えてしまう。



{…で、手元にエールとお通しが有るのだが……


一応説明書にはちゃんと物を食べたりしたら味が分かると


書いて有ったが果たして……}



__ゴクッ!…ゴクッ!…ゴクッ!…ゴクッ!……プハァ!!!…



「あぁ~たまんない!!!」



「おぉ!?アヤ!!お前案外いける口か!?」



しかしマサツグが躊躇っている間に周りのメンバーはおいしそうに飲んでは


至福の表情を浮かべ、マトックとアヤにいたっては一気に飲み干したのか


樽ジョッキを逆さにして謎の一気飲みアピールをし始める。そんな様子を目に


しつつもマサツグが恐る恐るその自分のエールを口に運ぶと、口の中に複雑な


香りと深いコク、そして意外とフルーティーな味が広がる。それと同時に


マサツグがゲームの中に居ると言うのにちゃんとエールの味がした事に驚いて


驚きの表情を見せる!



__……ゴクッ!……ッ!?…



「おお!!


ちゃんと味がする!!」



「お待たせしましたぁ~!!」



__トントントントン!…



「スプリング鶏のから揚げとミタマレタスサラダと


モコモコポテトのフライ二つずつになりま~す!!」



マサツグがエールの味とゲームの中で飲酒が出来ている事に驚いて居ると、注文から


まだ五分と経っていないのにアヤが注文した料理が運ばれて来る。まるで今取って


来たと言わんばかりの瑞々しさのレタスがボウルに盛られ、その他に色取り取りの


野菜と上に白とオレンジの混合ソースが掛けられており、ポテトは見るからに


揚げたてと言った様子で湯気を立てて見た目からしてサクサクしていた。そして


から揚げなのだが、から揚げと言うよりは竜田揚げの方に近いのか衣は厚く所々


白い。その容姿からはまるでおいしさを体現しているかの様な湯気が立ち上り、


一度切って火が通っているか確認したのか、切られたから揚げの断面からは肉汁が


溢れ出していた。その注文される事を見越したかの様な速さ…料理の到着に、


まだお通しにも手を付けていないぞ!?…とマサツグが思わず涎を垂らし一人驚いて


居ると到着した料理を見て、アヤがスッと立ち上がるとみんなの分の料理を


取り分け始める。



「は~い!!じゃあ取り分けるわよ~!……あっ!…


エールもういっぱぁ~い!!…」



「あっ!…俺もお願いしま~す!!…」



「ッ!?………」



__…コトッ…



一緒に運ばれて来た子皿を手にアヤが料理を取り分け始めるとその料理を持って


来てくれたウェイターさんに二杯目のエールを注文し、マトックも気が付いた


様子で二杯目のエールを注文する。その様子はまるで現実の方の居酒屋の様子と


変わらず、本当にこれはゲームなのか?とマサツグが困惑して居るとアヤが


取り分けてくれた料理が自分の前に置かれる。それに気が付いたマサツグが


渡してくれた人にお礼を言おうとするのだが、ハッ!と顔を上げるとそこには


ホビットの人、ハリットがマサツグを不思議そうに見詰めていた。



「…ッ!…あぁ!…すいません!…ありが……?…」



「……ハッ!…


すいません!何でもありません!!…」



「え?…」



__ガタガタッ!…



ハリットは何故かマサツグを不思議そうにジッと見詰めて固まり、その様子に


マサツグが戸惑った表情を見せると、ハリットは我に返った反応を見せては慌てて


マサツグから離れて慌しく自分の席に座り直す。その際ハリットは何度か心配そうな


表情を見せては何度かマサツグの事をチラチラと確認し、マサツグもその事に気が


付いて居るもののさすがに皆の前で問い質すのもどうかと思い、気になりながらも


エールを飲み、お通しを口にする。お通しは何処をどう見ても枝豆で、何処の国でも


お通しは枝豆なのかと思いつつもその爽やかな青臭さとまろやかな舌触り、そして


歯応えの有る食感を楽しんではエールを飲んで居た。そうして自分なりに初の酒場を


楽しんでは目の前でどんちゃん騒ぎをするメンバーの様子を見ているのだが、突如


アヤが席を立ち上ってはパーティメンバー全員に声を掛け始める。



__ガタッ!!…



「よっと!…みんなぁ~?ちょっと良いかしら?」



「…ん?何だいきなり立ち上って?…


また乾杯の音頭でも取るのか?…」



「違う違う!…明日の明日の護衛任務だけど心して欲しい事が有るのよ…」



「…?心して欲しい事…ですか?…」



アヤがメンバー全員に声を掛けるとメンバーの目は一斉にアヤの方に向けられ、


何事かと言った様子で不思議そうな表情を見せる。そしてその中でマトックが


不思議そうな表情をしながらアヤに茶々を入れるのだが、アヤが酔った様子で


頬を赤くしながらも「違う」と少し真剣な表情で言い、続けて明日の事に


ついて思って居る事が有るとメンバーに伝えると、先程までのどんちゃん騒ぎが


嘘の様に静まり返る。マサツグ達の周りの席ではどんちゃん騒ぎをしている中、


マサツグ達の席だけ異様な冷静さを取り戻すと浮いて見えるのだが、ハリットが


少し戸惑った様子でアヤに質問をするとアヤは真剣な表情のまま、ある事を


話し始める。



「明日の護衛クエスト…必ずしも襲って来る物がモンスターだけじゃないと


言う事を覚えておいて!…」



「ッ!!…」



「ここ最近…妙に人が居なくなる事件が多発しているって聞いているの…


…それも町を出た街道で!……


…まぁ、街道を歩いて居てもモンスターに襲われるから一概にも誰かが裏で


糸を引いている訳じゃ無いのだけど…


もしかしたら…今巷で噂になっている誘拐を目的とした連中かも


知れないからね?…一応…」



「………。」



アヤが明日の護衛クエストでもし襲って来る物が出て来るとしたらモンスターだけで


無い事を口にすると、その場の全員がピクっと反応してシンと静まり返る。そして


マサツグ達の席だけ少し緊張した様子になり始めると、外からその様子を見ていた


ウェイターの女の子達が心配した様子でこちらの席の様子を見て来るのだが、アヤは


自分が思った事を皆にも聞いて欲しいと言った様子で話し始めると、完全にその場の


空気は次の瞬間まるで仕事人の様なピンと張り詰めた空気になり、各々がその言葉に


緊張感を持ち始める。そしてそれを聞いたマサツグもハッとした様子でアヤの言葉を


聞いては心の中でその意味を理解し始める。



{…まさかこのゲームで誘拐と言う言葉を聞くとは…でもよく考えたらそうだよな


一応このゲーム…人型のモンスターや盗賊に山賊、海賊に空賊と色々ゾクゾクして


いるらしいしな……その手の話が出て来てもおかしくないし……


何なら緊急のクエストで人質奪還なんて物も有るらしいしな…


おまけに…癖の悪いプレイヤーになるとその山賊紛いなPKも現れるらしいし…


アヤの言う通り…気を引き締めないといけないだろうな…}



アヤの言葉は恐らくこうである…明日の護衛でもし戦う事が有るとするならそれは


モンスターだけではない…その護衛対象に近付く人間も疑わなければならないと


言う徹底した考えである。その人が必ずしも善人ではないと言う考えで護衛しないと


自らの命でさえ守れないと恐らく言っているのであろう。その例として盗賊や山賊と


言った危ない連中…愉快目的か脅されてか…護衛対象を狙ったPKをして来る輩も


居る、そんなアヤの言葉で改めてマサツグが考えさせられていると他のメンバーも


その言葉を理解したのか、数分間考えた様子で沈黙してはその場に固まり、


その様子に理解してくれたとアヤが感じたのか、フッと笑って見せては空気を換えた


お詫びと言わん張りにもう一度乾杯の音頭を取り始める。



「……フッ!…ごめんなさい!!…どうしてもこれだけは言っておきたかったの!!


じゃあ空気を換えた仕切り直しに……乾杯!!」



「ッ!!…あぁ!!…乾杯!!!!」



{……そうだな…明日は気ぃ入れないとな!…では…


エールが行けるなら…}



__…シャキッ!…ッ!!…サクッ!モコ!…ッ!!!…カリッ!…ッ!!!!…



アヤが一度頭を軽く下げては謝り、改めて乾杯の音頭を取ると全員が慌てた様子で


気を取り直し、飲み掛けのエールを片手に乾杯と樽ジョッキを掲げる。そして元の


陽気な空気に戻り、外から心配した様子で見ていたウェイターの女の子達もホッと


安心した様子を見せるとまたどんちゃん騒ぎの飲み会が始まる。マサツグは


マサツグでエールが行けるのならと言った様子で取り分けられたサラダを口に


運ぶと、シャキシャキと歯触りの良い音を立てながらその新鮮なレタスと見た事の


無いドレッシングの相性を楽しみ、本来サクサクのフライドポテトが食べた瞬間


まるで少し歯応えの有る、綿菓子の様な食感のする香ばしいポテトに驚きながらも


舌鼓を打ち、ジュワッと口一杯に肉汁と油が広がり香ばしい香りと噛めば噛む程


味の出て来る地鶏唐揚げを食べてはエールを飲むと言った飲兵衛を楽しんでいた。



{うん!…どれもこれも美味い!!…


レタスはシャキシャキで妙に箸!…じゃなくてフォークか…止まらないし!…


ポテトもサクサクなのかモコモコなのか分からないけどしっかりフライポテトで


美味しいし!!…から揚げはやっぱりから揚げで美味い!!…


そしてこの余韻を残しつつエールを飲むと!……更に美味い!!!!


……でもこれってどうやって味とか食感とか…色々な事を再現しているんだ?…}



__シャクシャク…サクモコサクモコ…カリッ!…ゴッゴッゴ……プァ!!!…



{まぁいいや!!


科学の力ってスゲーってやつか!!}



一回はこのゲームのシステムに関心を持つが飲み食いしている内に如何でも


良くなるとただその目の前の料理を食べてはエールを飲むを繰り返す機会と化す。


そうして初の酒場で自分なりに他のメンバーと一緒に飲んでは時間だけが


過ぎて行き、明日の事も有ると言った感じで良い具合にお開きになると、


マサツグが若干の千鳥足になりながらも自分の止まっている宿屋へと戻って行き、


ベッドに横になっては眠りに就く。そのベッドに横になってから眠るまでに


特に時間が掛かる事は無く、スッ…と眠っては夢を見始めるのだが…この時密かに


マサツグの寝ている部屋が誰かに覗かれて居る事に本人は全く気が付く由は


無いのであった…



そして次の日…マサツグが宿屋で目を覚ますと時刻は朝の6時、護衛のクエストで


集まらないといけないのが9時と言った様子で時間を確認しては旅支度と


アイテム整理を行い、そしてまだ時間が有るなと言った様子で自分が泊まっていた


部屋の掃除を出来る範囲でやっていると時刻は7時になる。7時になった事に


マサツグが気が付いては部屋を出て鍵を掛け、宿屋のカウンターに移動して


欠伸をしている女将さんに部屋の鍵を返してチェックアウトし、宿屋を後にする。


宿屋の外に出るとまだ日は上り始めたばかりと言った様子で薄っすらと霧掛かっては


日の光でキラキラと朝露と共に輝き、その様子にマサツグが改めて感動を覚えては


まだ早いと思いつつも王都の玄関口へと歩き始める。



__コッ…コッ…コッ…コッ…



「……やっぱそんなにまだ賑やかじゃないか…


まぁ…それもそうか…まだ朝の七時だし…


ここは日本みたいな過密スケジュールは無いし…」



「……おや?…


確か貴方は…マサツグさん?…でしたか?…」



「え?…」



マサツグが王都の玄関口に向かい歩いて、まだそんなに人が出回って居ない事に


ちょっとした驚きを持ちつつ、現実(リアル)と違う事を再確認しては辺りを


見渡して居ると玄関口方面から誰かに名前を呼ばれる。その名前を呼ばれた事に


反応してマサツグが声の聞こえた方を見ると、そこには朝早くから積み荷を馬車に


乗せるマルコと他の商人達の姿が有った。運ぶ荷物は大きな袋で梱包されて居たり、


木箱だったりと色々有るのだが、マルコは徐にマサツグの方に歩いて来ては


朝の挨拶を交わし始める。



「おはようございます!…まだ集合には時間が有りますが如何して?…」



「あっ!おはようございます!…いえ、別にこれと言って理由は無いんですが…


何か早くに目が覚めちゃって!…あっ!…運ぶの手伝いましょうか?…」



マルコがこんな早くに来るとは!…少し驚いた様子でマサツグに挨拶をしては


マサツグも挨拶を返し、朝早く起きた理由を苦笑いしながら話すと後ろの荷物積みを


見て、手伝いを買って出る。しかしそのマサツグの買って出た言葉にマルコはまた


驚いた表情を見せると遠慮した様子で永寧に断り始める。



「え?…いえいえ!…貴方方にはこれから大事な荷物を守って頂く仕事が


有るのですから!…ここで体力を使わなくても!…」



「え?…でも、あんな大荷物を…」



「そのお気持ちだけで十分です!……これから先はどうなるか…


それを考えるととても手伝わせるなど!…ですから時間まで休んで居て下さい!…」



「……?


そうですか……まぁ手伝いが必要になったら行って下さいね?…」



特段慌てる様子等を見せる事無くマルコがマサツグの申し出を断る。


マサツグは後ろで荷物を苦労しながら運んでいる人を目に戸惑い、マルコに


もう一度買って出るがマルコは首を横に振り気持ちだけでも嬉しいと


感謝の言葉を口にしてはマサツグに休むよう笑みを浮かべる。


そのマルコの様子にマサツグが不思議に感じるも、これ以上押し問答して


作業の手を遅れさせるもの如何かと考えると引き下がり、王都の出入り口


ゲートの壁にもたれ掛かっては時間が経つのを待ち始める。そうして壁に


もたれ掛かって出発を待っていると徐々に町が起き出し始めたのか


活気の有る声が聞こえ、それと同じ位に他のメンバーが集まり始める。



「ッ!…よ!…早いな?…」



「朝早くに目が覚めちゃって…」



「ははは!…良く有るよ!…特に大仕事が有る前日とかはな?…」



徐々に集まるメンバーと朝の挨拶を交わし、他愛のない話を交わしていると徐々に


積荷も終盤に来たのか積み込む人達の足取りも軽くなり始める。そうして馬車の


準備が整うのを待っていると今回の護衛任務に当たるメンバー全員が集まるのだが、


ただ一人を残してはある意味完全では無いのであった……それも二日酔いで…



「う~…


あたまいたい~…」



「アヤさん大丈夫ですか?…


だからあの時点で止めておきなさいと…」



「だって~…だって~……」



アヤが頭を抱えては青い顔をし苦痛に歪んだ表情をしては弓を杖代わりに


歩いて来る。ハリットがアヤを気遣うよう後ろから声を掛けては心配そうに


アヤの顔を見詰め、アヤを諭す様に言葉を掛けるのだがアヤはまるで子供の様に


言い訳をしては青い顔でマサツグ達の方に歩いて来る。それもその筈、最後


マサツグ達が解散するまでの間にアヤは一人で熟成用のワイン樽、約一個分位を


ケロッと飲んで居たからである。その時の様子は誰もが驚き、アヤの底無し具合に


疑問を持ったものなのだが…今はそれ以上にあれだけ飲んで二日酔い程度で


済ませる方が気になって仕方が無い。そしてこっちに向かい歩いて来るアヤに


マサツグも呆れた様子で声を掛け始める。



「そりゃあ、あんだけ飲めば二日酔いにもなるでしょうに…


まだそれで済んでるだけなのが不思議ですよ!…


と言うか…その細い体の何処にあの大量の酒が入るんですか!?…」



「あたたた!…そ、そんなに叫ばないでよぉ~…


お…乙女の秘密~…」



「……叫んで無いし…


まだボケる元気は有るみたいだな…」



マサツグがアヤの酒豪具合を窘めるよう声を掛けて昨日飲んだ量を何処に収めたかと


アヤに問い掛けると、アヤはそのマサツグの声ですら頭に響くと言った様子で頭を


抱えては痛がり、マサツグに文句を言った後まるでギャルの様に右手でピースをして


そのピースを開いて間から見る様に右目に当てると、舌を出してテヘペロを見せる。


そのアヤの様子にまだ余裕が有るなと言っては呆れた様子で昨日道具屋で買った


二日酔い解消の薬を出すと、マサツグの所まで歩いて来たアヤに手渡す。



「…はあぁ~……仕方ない…本当に使う日が来るとは…それも買ってまだ一日目…


えぇ~っと…はい!とりあえず、これ飲んでください!…」



「え?…なに?…迎え酒?」



「まだ飲む気かアンタ!!…


肝臓やらかすぞ!?…はあぁ~…


…道具屋で売っていた二日酔いの薬です!…」



「あぁ!…ありがと~…出来る後輩を持ったみたいで私助かるよ~…」



__キュポンッ!…グイ~!!…



マサツグが昨日道具屋で買った二日酔い解消の薬をアヤに手渡すのだが、アヤは


それを酒と勘違いした様子で受け取ってはマジマジと青い顔をしながら薬を観察し、


マサツグが違うと驚きながらもツッコんでは薬と説明すると、アヤは目を


ショボショボさせながらもマサツグに感謝の言葉を口にする。そして薬の封を切り


腰に手を当てグイッと一気飲みをしては何とも男らしい姿を見せ、その様子に


一緒に着いて来てくれたハリットがおぉ!…と思わず感心してしまうと馬車の


準備が出来たのかマルコがマサツグ達メンバーに出発の声を掛ける。



「…よし!…お~い!みなさ~ん!!…


準備が出来ましたぁ~!!出発しますぞ~~~?…」



「…ぷはぁ!!……あぁ~…相も変わらず何とも言えない味…」



「…お世話になってるのかよ……」



「よし!…じゃあ張り切って行くわよ!!」



マルコの呼び声に反応して護衛メンバーのパーティがそれぞれ自由に馬車へ


乗り込んでは出発を待ち始める。そしてアヤも薬を飲み終えては不味いと言った


様子で顔を顰めては近くのゴミ箱に空き瓶を捨て、そのアヤの言葉にマサツグが


再度ツッコミを入れると、アヤは笑顔でマサツグとハリットに声を掛けて馬車に


乗り込む。そんな様子にマサツグとハリットが自然と顔を見合わせ、呆れた様子で


互いに首を傾げては席の開いている馬車に乗り込み、そうして全員が乗り込んだ事を


マルコが確認すると、馬車の御者に合図を送る。



「…ちゃんと全員揃って馬車に乗っておりますな?……よし!!…


では、クランベルズに向けて…しゅっぱ~~~つ!!!」



__パシンッ!!…ヒヒィィン!!!…ガタゴトッ!…ガタゴトッ!……



マサツグ達を乗せた護衛の馬車はクランベルズに向けて出発し始め、それと同時に


マサツグの目の前に「クエストスタート」の文字が表示されると王都のゲートを


潜って町の外に出る。町の外は雲一つ無い快晴で遠くに出掛けるには持って来いの


天候なのだが…マサツグの隣では一人馬車の揺れでも駄目と言った様子で


グロッキー状態のエルフがマサツグに寄り掛かって来る。その様子を心配した表情で


見詰めるハリットがアヤの介抱をするのだが、この時…馬車に乗る誰もがこの護衛


任務で波乱が起きる事を予期していないのであった…


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