第六話 『不帰の砂漠イルカルラ』 その67
『ちじょうに、おーりーるー!!』
雄々しくも愛らしい宣言を行いながら、オレの仔竜は地上へと降下を開始していた。地上にいる『新生イルカルラ血盟団』の戦士たちは、ゼファーに気がつくと、歓声を上げて向かえてくれた。
嬉しいコトだな。
オレのゼファーが讃えられている。もちろん、『パンジャール猟兵団』もだよ。その事実が『ドージェ』として、団長として、心の底から誇らしいことだった。
ニヤリと下品に笑う野蛮人の前で、美しい背中が伸び上がる。
宣伝を忘れることはない。結束を作るためには、カリスマでいなければならないのだ。それが、士気を向上させることにつながることを、エリート教育を受けてきたドゥーニア姫は実践した。
「敵を蹴散らし、帰還したぞおおおおおおおおおおッッッ!!!『太陽の目』とも、私たち『新生イルカルラ血盟団』は、同盟を結んだあああああッッッ!!!恐れることはないぞ、諸君ッッッ!!!我々は、アルノアの野心を打ち砕く大きな力を手に入れたッッッ!!!」
カリスマ姫さまの雷鳴みたいに遠くまで響いた言葉が、行軍疲れを起こしていた戦士たちに力を与える。
「おおおおおおおおおッッ!!!」
「オレたちは、『メイガーロフ人』は、一つになろうとしているのかッッ!!!」
「さすがです、我らがドゥーニア姫えええええッッ!!!」
……政治的な技巧ではあるな。為政者は演説を行うとき、必ずや『吉報/プレゼント』を用意しておくべきだ。
とくに、砂漠に住む民たちには、それが有効なのだろう。どうしてか?……ドゥーニア姫がそれを重視しているように見えるからだ。空虚なスローガンでは、熟練のない結束を強めることは難しいのかもしれん。
勉強になる。
素直に感心するよ。ハッタリを使った交渉術に、演説のパフォーマンス。たしかに、彼女はエリートだ。言葉でヒトを味方にする能力に長けているよ。
もちろん、現場に出向いて結果をもぎ取ってくるからこそ、それらの行いに真なる力を与えているのだろうが……。
「……演説上手だな、ドゥーニア姫は」
「……ソルジェくん。君も上手だと聞いているぞ。戦士の魂を振るわす、野蛮なタイプの言葉らしいがね」
「ククク!……どこの誰の悪口なのか。マリー・マロウズちゃんあたりかね」
「秘密さ。君への無礼は、グラーセス王国の戦士たちは好まない」
「友好的な関係だ。野蛮人扱いは許すよ」
鎖国していたドワーフ王国の人々から、野蛮と評価されるとはね。何とも光栄なことだったな。だが、洗練されたドゥーニア姫的な交渉術やらも手にしたくもある。
ガルーナの野蛮人に向いているのかは分からないが、何事も勉強だ。『実利を与えん。さればヒトは従うであろう。未熟な結束のもとでさえ』。悪くない哲学を帯びた言葉になるのさ。
オレが色々と知的な考察を深めていた頃、地上ではドゥーニア姫に煽られて、戦士たちが昂ぶらせて歌を放っていた。
「『太陽の目』との因縁が終わったぞおおおおおおおおおおおおッッッ!!!」
「我々は、共に戦う許可を得ましたぞおおおおおおおおおおおッッッ!!!」
「蛇神の鱗となった、我らがバルガス将軍よおおおおッッッ!!!贖罪の一つが、果たされましたぞおおおおおおおッッッ!!!」
古強者たち……バルガス将軍と共に、『メイガーロフ武国』の兵士たちであった巨人族の戦士たちは、ガミン王の命令で行われたという『ザールマン神殿』での僧兵とその家族たちへの虐殺について、罪深いことであったと自覚があったようだな。
「贖罪の一部が果たされたか……」
「巨人族とは、マジメだね。罪が晴れたとは言わないのか……彼らしいがね」
バルガス将軍の支持者である商人は、『太陽の目』の方にも怪しげな狂信者がいたかのようなことを口走っていたな。
武装した僧兵の集団。帝国軍との戦いを前にすれば、放置することが難しかったのだろうな。この砂漠の土地は、やはり複雑だ。バルガス将軍は死亡し、ラシードに生まれ変わる必要は確かにあるようだ。
「おおおおおおおおおおおッッ!!」
「バルガス将軍に、敬礼いいいいいいいいいいいいいいッッ!!」
「バルガス将軍の罪科は、ここに薄まりましたぞおおおおおおおおおおッッ!!」
地上での盛り上がりはスゴいな。
どんな気持ちで、バルガス・コールを聞いているのだろうか、ラシードは。
「……おいおい。バルガスめ……これで生きているというのだから、本当に笑えん部分もあるぞお」
腕を組みながら、ストレスと戦闘中のドゥーニア姫がすぐ目の前にいたよ。胃でも痛いのだろうな。
オレもサポートしてやろうか。
「……ほら、笑えって、ドゥーニア姫よ?」
「分かってはいるがなぁ……」
「地上にいる当の本人の恥ずかしさを思えば、かなり笑える瞬間じゃないか?」
「ぷ……ハハハッ!……たしかにな。何とも、居心地が悪かろうよ、バルガスのヤツは」
「見事に死に損なってはいるからな。笑える側面もある。むしろ、バレなきゃ、楽しめる事案ではないのか?」
「……ああ。そう言われればな……ッ!!ならば、私も煽ってやるとするかッ!!」
「やってみせてくれ。ラシードの赤面をオレも楽しみたい」
「任せろ、竜騎士!!……『新生イルカルラ血盟団』の諸君ッッッ!!!この結束のために、その尊い命を捧げきった誉れ高き英雄、バルガス将軍の名を、今一度、星空へと歌えええええええええええええッッッ!!!」
「おおおおおおおおおおおおおッッ!!バルガスぅうううううううッッ!!」
「『メイガーロフ』のために、命を捧げた我らが英雄ッ!!バルガスの名を讃えろおおおおおおおおッッッ!!!」
「バルガス!!バルガスッ!!バルガスッッ!!」
『ねえ、『どーじぇ』?』
「ああ。歌え、ゼファーああああああああああああああああああああああああああッッッ!!!」
『GHAAOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOHHHHHHHHHHッッッ!!!』
バルガス・コールに竜の歌をも捧げながら、オレたちは『新生イルカルラ血盟団』の最前列に着陸する……バルガスことラシードは死ぬほど恥ずかしい気持ちになっているかもしれないが、いい歌だったと思うぜ。
……上空から見ていて、一目瞭然ではあったが……『新生イルカルラ血盟団』の面々は疲労が過ぎて、隊列が乱れ始めてしまっているんだよ。空元気でもいい。何か、心を揺さぶり、力を引き出す行いがいると感じていた。
「……私の趣味よりも、そなたの趣味だからな」
「ああ。ラシードからの文句はオレが受けよう」
「まあ。実際のところ、バルガスは絶対に文句は言わないさ。結束できた。感情か……そなたは、そういう力を呼ぶことに長けているのだ。羨ましい部分があるぞ、ソルジェ・ストラウス」
「それぞれが異なる。それぞれの才能もな。オレは、君に憧れている部分があるよ、ドゥーニア姫」
「相思相愛だな。顔はタイプではないが」
「そいつは残念だよ」
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