第六話 『北天の騎士と幻の竜』 その27


「……ハハハハ!……待たせてしまったか!?」


「いいや。丁度いいタイミングだぞ、ジグムント」


 ロープとハシゴを使い、我々の主力部隊が到着する。城塞に並ぶ北天騎士たちの姿を見て、帝国兵たちは戸惑いを禁じ得ない。


「く、くそ……っ!!」


「『北天騎士団』……っ」


「反乱するのかよ、『ベイゼンハウド人』がッ!!」


「……ああ。返してもらうぞ、オレたちの国をな!!『北天騎士団』、進めええええええええええええええッッッ!!!」


 ジグムント・ラーズウェルの宣言に従い、最強不敗の伝説を背負う北天騎士たちが城塞から飛んでいた。恐れることなく、敵が集まるその場所目掛けて数十人の北天騎士たちが飛び降りていく。


 鎧をまとっていない彼らなら、これぐらいの高さは苦にはならない。ジグムント・ラーズウェルを筆頭に、大剣の強打の威力を見せつけていく。槍を構えて待ち受けた者もいるが……北天騎士の剛剣の前に、そんな防御は通じないさ。


 槍を持つ者はその槍を叩き斬られ、剣を持つ者は剣ごと兜を叩き割られてしまっていた。とんでもない威力だな。小細工など、彼らには通用しないのさ。北天騎士の技巧と共に、『岸壁城』の内部へと、真の主たちが帰還していた。


 斬り殺した敵兵の死体をブーツの底で踏みつけながら、ジグムント・ラーズウェルは恍惚の表情となる。感極まる彼は、大地を振るわすほどの歌を放つのだ!!


「帰って来たぞおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおッッッ!!!オレたちは、『岸壁城』に戻ったぞおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおッッッ!!!」


 団長殿の歌に、他の北天騎士たちも呼応する。


「おおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおッッッ!!!」


「オレたちは戻ったぞおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおッッッ!!!」


「『ベイゼンハウド』にいていい軍勢は、オレたち『北天騎士団』だけだああああああああああッッッ!!!」


「そうだ!!邪魔な帝国人どもを、排除するぞおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおッッッ!!!」


 『北天騎士団』の迫力に呑まれていた帝国兵どもに、『剛の太刀』が襲いかかる!!


 今の北天騎士たちは、体力の残存など考えてはいなかった。もはや本能に従うかのように暴れている、自分たちの縄張りから外敵を排除する。その哲学を実践するために、帝国兵を斬り裂いていく。


 ジーンが苦笑する。


「……おー。スゲーよ、『北天騎士団』……圧倒的じゃないか。気持ちが昂ぶっているおかげで、戦いや移動の疲労も感じていないみたいだな」


「そうだな。だが、そう長くは続くまい」


「……だろうね。いくらなんでも元気良すぎだよ」


 これは時間限定の魔法のようなものだ。体力は有限だし、精神力だって同じコトだよ。『北天騎士団』の猛攻は、長く続くようなものじゃないのさ。


 だから?


 だからこそ、この勢いのままに制圧して欲しい。もちろん、本丸までは行かなくてもいい。この城塞の内側だけでも制圧するだけでも、とりあえずはいいんだ。


「ジーン、城塞を走るぞ。弓兵たちを排除する!!」


「ああ、わかったよ!!地上は、ジグムントさんたちに任せておくとしようか!!」


「そうだ、『バガボンド』の戦士よ、オレたちに続け!!『北天騎士団』に矢を撃たせるな!!」


「イエス・サー・ストラウス!!」


「ご命令のままに!!」


 『バガボンド』の戦士たちが、オレとジーンに続いて走ってくれる。ジーンも疲れてはいるが、他の海賊たちはもっと疲れているようだな。役割分担だよ、海賊たちはこの場から弓を使い、北天騎士たちの援護射撃を始める。


 城塞を北に向かって走るオレの視界に、ジャン・レッドウッドが現れる。左手側からだった。


 ロロカ先生の指示だろうな、どうやら『パンジャール猟兵団』はエルフの弓隊と共に、城塞に陣取る帝国軍の弓兵たちの攻撃を引きつけていた。遠距離射撃を行いながら、敵の弓兵の矢を誘導していたのさ。お互いにそう当たらない距離での撃ち合いをしていた。


 だが、状況が変わりつつある。オレたちが城塞の一部を掌握し、『北天騎士団』の突入を成功させたからだ。


 帝国軍の注意はオレたちや『北天騎士団』に向かっているため、遠距離射撃で牽制していた集団に対する矢の攻撃が薄まったというわけだ。その隙を突くように、ロロカ先生はジャン・レッドウッドによる強襲を仕掛けたのさ。


 加速していた巨狼が大きな跳躍を見せつけて、この城塞を跳躍一つで越えてくる。とんんでもない身体能力だよ。城塞に飛び乗ったジャンは、その巨体を活かして暴れ回る。弓兵たちを次から次に城塞から突き落としていった。


 ゼファーはジャンの活躍に触発されたのか、城塞の上を駆け回り、ジャンと同じように弓兵たちを叩き落としていた。


 オレたちは二人の打ち漏らしを仕留めているような作業になっているな。


 まあ、その数も別に少ないわけじゃない。ゼファーも巨狼モードのジャンも大きいから目立つ。敵は城塞のあちこちに設けられている物見の塔やら、弓兵たちが身を守りながら射撃を行える小部屋なんかに隠れてしまうからな。


 オレたちは、そういうヤツらを蹴散していき、仲間たちがより被害が少なくなるように弓兵の排除に勤しむことになる。


 城塞に隣接する塔の一つへとオレは侵入する。その小さな塔には縦窓が数多く開いていて、そこから弓兵たちが矢を放てるという構造だ。守りが固いため、この中に隠れる弓兵たちを攻撃して仕留めることは難しい……だから、直接、突入する必要があるわけだ。


 ドアもないその室内にオレは飛び込んだ。鎧を着ている者の義務だな。弓兵がオレに矢を放ち、それと連携するようにして長剣を構えた敵兵が襲いかかって来る。


 いい連携だが、ストラウスの剣鬼を相手にするのには少々、威力が足りないよ。オレはその矢を竜太刀で叩き落としながら、ドワーフ・スピンのステップを使うのさ。回転しながら長剣使いの突きをかわし、まず最初に弓兵を斬り捨てる!!


「ぎゃはああ!?」


 弓ごと袈裟斬りにして仕留めてやったよ。突きの外れた剣士については、オレは気にしないこととする。ヤツが盛大に空振りした先には、サーベルの使い手であるジーンがいるからだ。


「ぐひゃああ!!」


 下品で野太い声が響いた。


「ジーンじゃないな、死んだヤツ?」


「ああ。知らないヒトさ」


「なら、良かったよ」


 振り返ることなく、オレはこの小さな塔にある階段を昇っていく。敵の弓兵たちがいる2階部分に入る、彼らが矢を放ってくるがオレはそれを加速することで躱し、そのままスルーして3階部分の小部屋に入る。


 そこにも弓兵たちがいた。6人ほどだな。


 ……想像していた通り、彼らはオレに対して警戒が薄かった。2階部分の兵士たちが粘ると考えていたのかもしれないが、頼りすぎることは良くない。オレは縦窓から矢を放ち続けている彼らを次から次に斬り殺していく。


「ひいい!?」


「て、敵!?」


「下のヤツらは!?」


 今ごろ、殺されている頃だろうよ。ジーンと『バガボンド』の精鋭たちの手によりな。しかし、心配することはない。あの世ですぐに再会することになるのだからな。


 弓兵たちは剣を抜こうとしていたが、それを許してやるほどにオレはヒマではなかったよ。そいつらを全員、斬り捨てた頃、ジーンが姿を現していた。


「サー・ストラウス、この塔は排除したよ。地下……?まあ、とにかく城塞に埋まり込んでいる地下室にいる連中に対しても、『バガボンド』の戦士が向かった。ここは制圧したよ」


「わかった、次に行くとしよう」



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